ユニバーサルデザインの強化書187 ビジネスメールにおける「枕詞」の減少とSNS時代の影響
ビジネスメールにおける「枕詞」の減少とSNS時代の影響
はじめに: ビジネスメールの変遷
ビジネスメールの冒頭において、次のような枕詞が長年使用されてきました。
「いつもお世話になっております。◯◯です。」
「おつかれさまです。◯◯です。」
「ご無沙汰しております。◯◯です。」
「初めてご連絡させていただきます。◯◯です。」
これらの表現は、相手に対する礼儀を示すために使われ、ビジネスメールの定型的な導入部分として広く認識されてきました。
しかし、最近ではこれらの枕詞を使用する頻度が減少していると感じることが多くなっています。
特に、メールの一通目では枕詞を使用しても、返信や続きのメールではいきなり結論部分に入るケースが増えているように思います。
たとえば、次のような文言で本題に直行する場合が見受けられます。
「◯◯です」
「承知しました」
「ありがとうございます」
「確認しました」
「問題ありません」
「OKです」
なぜこのような変化が起きているのでしょうか。本コラムでは、現代におけるビジネスメールの変化について、その要因を分析しつつ考察していきます。
SNS時代のコミュニケーションスタイルと影響
SNSの普及は、現代のコミュニケーションに大きな影響を与えました。
XやLINE、Instagramなどの即時性の高いメディアでは、短く簡潔でストレートなやり取りが一般的です。
これに伴い、コミュニケーションのスピードが重視されるようになり、長い挨拶や枕詞が省かれる傾向が強くなっています。
この流れが、ビジネスメールにも反映されつつあります。
特に、若い世代のビジネスパーソンはSNS慣れしているため、短く的確な表現が自然に身についており、ビジネスメールでもそのスタイルが持ち込まれることが多いのです。
※最近ではビジネスメールでも
「👍」だけ返信する場合も。
さらに、SNSでは「。」を省略するスタイルも一般的です。
この傾向は、メールやテキストメッセージのテンポを上げるための手法として広まりましたが、ビジネスメールでも「了解しました」「ありがとうございます」のように、「。」を省略するケースが増えているのが現状です。
効率重視のビジネス文化とその変化
現代のビジネス環境では、時間が最も貴重な資源とされています。
そのため、スピーディーで的確なコミュニケーションが求められるようになりました。
このような背景から、無駄な言葉を省き、必要な情報だけを簡潔に伝えるスタイルが高く評価されています。
特に、複数回のやり取りを行う相手に対しては、毎回同じ枕詞を繰り返すことが非効率とみなされ、枕詞を省略して結論から入ることが一般化しています。
これにより、ビジネスメールがより直截的なコミュニケーション手段へと変わりつつあります。
コミュニケーションの柔軟化と「。」の省略
ビジネスメールのスタイルが変化しているもう一つの理由は、コミュニケーションの柔軟化と多様化です。
従来のビジネスメールではフォーマルなスタイルが主流でしたが、現代ではよりフレンドリーでカジュアルなトーンが受け入れられるようになっています。
この背景には、企業文化の変化やリモートワークの普及、さらには多様な働き方の浸透があります。
また、SNSの影響で「。」を省略するスタイルが普及し、それがビジネスメールにも反映されています。
特に、メールのやり取りが頻繁な場合や、相手との距離感が縮まっている場合には、より軽快でリズムの良い文章が好まれる傾向にあります。
伝統的な日本語文化の崩壊とその評価
このような変化は、ビジネスの効率化や柔軟なコミュニケーションを促進する一方で、伝統的な日本語文化の一部が崩壊しつつある側面も見逃せません。
枕詞や「。」の省略は、相手に対する丁寧さを表現する要素の減少を意味します。
一方で、現代のビジネスにおいては、相手との関係性や状況に応じた柔軟な対応が求められていることも事実です。
すべての場面で伝統的な形式にこだわることが必ずしも効果的とは限らず、時にはシンプルで効率的な表現が優先されるべき場合もあります。
視覚障害者への配慮と言葉の効率化
さらに、言葉の効率化がもたらすもう一つの側面として、視覚障害者に対する配慮が挙げられます。
視覚障害者がスクリーンリーダーなどの音声読み上げソフトを使用してメールを読む際、冗長な枕詞や余計な装飾は、情報の伝達を遅らせる可能性があります。
簡潔で的確な表現は、視覚障害者にとっても情報を迅速に理解するために有効と言えるでしょう。
まとめ: 伝統と現代のバランスを保つビジネスメールのあり方
ビジネスメールにおける枕詞の減少や「。」の省略は、SNSの影響や効率重視のビジネス文化、そしてコミュニケーションの多様化という現代の潮流を反映しています。
しかし、これらの変化は伝統的な日本語文化の一部が失われつつあることも意味しています。
一方で、視覚障害者にとっては、言葉の効率化が音声読み上げでの情報の伝達をスムーズにするという利点もあります。
したがって、現代のビジネスメールでは、伝統的な形式と効率的なコミュニケーションのバランスをとりながら、人の多様性にも配慮することが求められます。
相手や状況に応じて、適切なトーンや表現を使い分けることが、これからのビジネスメールに求められるスキルとなっていくでしょう。
伝統的な日本語文化を守りつつも、現代のビジネス環境に適応するための柔軟性を持つことが重要です。
ビジネスメールの変化に対応しつつ、相手に対する敬意や適切なコミュニケーションを保つこと。
そして音声読み上げによる情報保障も意識した情報の伝わりやすさへの配慮が、現代のビジネスパーソンに求められる重要なスキルとなるでしょう。
伝統と現代のバランスを保ちながら、職場でのD&I(※)が進展する中で、人の多様性への合理的配慮も行い、誰にとっても伝わりやすいコミュニケーションを目指すことが、これからのビジネス成功の鍵となるでしょう。
(※) D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)とは、多様な人材を受け入れ、尊重し、それぞれの個性を活かすことで、より良い組織や社会を作り上げていくという考え方です。
Think Universality.Think Difference.
m.m