バー・レイザー#10〜アマゾンジャパンの中途採用 「曖昧な状況下で判断できる人」を見出す byもと中の人
前回の連載では、「判断力」の中でもスピード感を持って情報が少ない中でも判断できる人を"Bias for Action"というAmazonのリーダーシッププリンシプルに沿って考えてみました。今回は、「曖昧な状況下でも正しい判断を下せる人」について考えてみます。
VUCA時代に求められる判断とは?
最近VUCAという言葉をよく目にします。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとってVUCAと呼びます。ビジネスのみならず社会を取り巻く環境は日々激変し、つい最近まで予測可能であったことが分かりにくくなり、それを分析しようとしても複雑な要素が絡み合い、答えが見つからない曖昧な状況が顕現しています。
振り返ってみれば、数年間続いたコロナ禍での生活はまさにVUCAそのもので、刻々と変異・変化するコロナウィルスや、それに沿った公衆衛生対策、ロックダウン施策など、今となればこうすれば良かったと答えがわかる事も当時は何が正解かわからない中で方針を決め、実行しなければならない、という状況下であったと思います。
ビジネスにおいてもコロナ禍の時ほどの難易度は高くないにせよ「これといった正解がない中でも答えを何かしら導いて判断しなければならない」という状況に置かれることはしばしばあると思います。そのような場面で、リーダーとしてより正しい判断を導くことができるか、あるいは、部下として上司により正しい判断材料を提供するにはどうしたら良いか、などはVUCA時代においても重要な資質と言えます。
それでは、
答えが見つけにくい曖昧な状況下でより正しい判断ができる人を見極めるにはどんな質問が有効でしょうか?
この問題に対するアマゾンのリーダーシッププリンシプルはAre Right, A Lotが有効です。アマゾンのサイトからAre Right, A Lotの定義を改めてみてみることにしましょう。
Are Right, A Lot
リーダーは多くの場合、正しい判断をくだします。 そして、優れた判断力と直感を備えています。 リーダーは多様な考え方を追求し、自らの考えを反証することもいといません。
このリーダーシッププリンシプルには、考えさせられる点が多いと、Amazon在職時から思っていました。「リーダは多くの場合」つまり、Are Always Rightではなく、 Are Right, A Lotなのです。これは全ての人間が常に正しい判断を下せるわけではない、ということを前提にしているものです。よって後半の、「リーダーは多様な考え方を追求し、自らの考えを反証することもいといません」につながってくるわけです。「間違った判断をすることもあるよね、だから、自分の判断に客観的な視点を持つことができますか?」といつも問われることになります。
Amazonの会議が健全なのは、顧客のためにBest Possible Answerを導くことが重視され、Are Right, A Lot に基づいて、たとえ上位の役職の人の意見でも、客観的な議論の果てにその意見が軌道修正され、皆が理解・納得する方向に向かうところです。よって「曖昧な状況下でより正しい判断を導ける人」というのは、個人の卓越した判断力だけでなく、他者の意見を組み込んでより良い回答を導ける人、と定義しなおした方が良いでしょう。
そうした「曖昧な状況下でもより正しい判断を導ける人」を見出すには、Are Right, A Lotの確認の以下の質問が用意されています。
質問:解決するための複数の選択肢があるような問題に直面した時のことを教えてください。
この質問をした時に、自社Webサイトのトラフィック(顧客流入数)の伸び悩みという問題に対応した、というマーケティングマネージャーの方がいらっしゃいました。
Situation: 自社製品を販売するWebサイトを立ち上げたが、目標とする顧客流入数に達していない問題があり、対応策を検討していた
Task: 自分はそのサイトのトラフィックを拡大するミッションの責任者であり、施策を経営メンバーに報告する必要があった
Action: 考えうる全てのトラフィックチャネルを分析し、どのトラフィックチャネルが伸びしろがあるかを検討し、そのトラフィックチャネルを伸ばす施策を考えた。
Result: 結果的にその施策は経営メンバーに理解され、実行したが、目標には残念ながら到達しなかった。
以上が、最初のSTARの質問で得られた回答でした。そこからは以下のように掘り下げて行きました。「施策を立案するにあたって、曖昧な要素をどのように定義、把握しようとしたか?」「そのトラフィックチャネルに注力してもうまく行かなかった可能性を想定したか?その場合、どのようなプランBを想定したか?」「施策をまとめる時にチームメンバーからどのように意見を吸い上げたか?」「チームメンバーの意見に採用すべき考え方はあったか?それはどんなものか?」「経営メンバーに諮った時にどのような質問が来たか?それにどのように答えたか?」「目標が達成できそうになかった時に、何か別の施策を検討したか?」など。
候補者の方は、一生懸命にその施策を検討し、そしてそれを実行したことはお話の中でよくわかったのですが、一方で、「客観的、複数の視点で」自分の考案した施策を見直すことができたか、あるいは「他者の考え」をどのように組み込んだか、という点で残念ながら的を射た回答が得られませんでした。
また、その方が直面した問題の複雑性(Levels of Complexity)がそのポジションのジョブレベル=職位に期待される複雑性よりも低いものであったことがわかりました。
したがって、面接を終えた私の判定はその方は不採用、というものでした。
自分が行った判断の妥当性、正しさについては、ある意味結果が証明してくれると思います。一方、成功・失敗に関わらず、その判断を導くに至った過程がどのようなものであったか、について振り返ることは少ないと思います。
曖昧な状況で判断を下さなければならないときは、どうすれば目的達成のためのBest Possible Answerを導けるか、を考える必要があるでしょう。周囲が同じ目線に立ってくれない、という問題があれば、自らが働きかけて客観的な視点も求めなければならないでしょう。そうしたことを乗り越えて得られた「判断」がVUCA時代に有効なものとなるのではないかと考えます。
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