バー・レイザー#16~アマゾンジャパン中途採用の舞台裏 向上心のある人を見極める
アマゾンでは、プランニングの際にしばしば"What will you do differently next year? "という問いが立てられます。今年と同じやり方でなく、来年はどうするの?という本質的な問いであり、じゃあXXします、とすれば、なぜXXするのが良いのか?と、時には禅問答のようなループに入ります。それはもちろん意地悪で言われるのではなく、ある種の現状に満足しない向上心を求められているのだ、と理解しています。
向上心を定義すると、現状に満足せず、高い目標に向かって努力する心や、成長しようとする心と言えるのではないでしょうか。英語では様々な翻訳がありますが、"desire to improve oneself"とも訳せるようです。向上心を持つ人は、自分を成長させるために行動を続け、自己改善の意欲が高いと言えます。客観的に自分の実力や課題を把握し、それを克服するために何をすべきか、という心構えが必要になってきます。
これはプランニングを担当する事業部長だけに求められているわけではありません。年頭に個々の目標設定を定めるときに、私から各チームのマネージャーには去年の目標の単なるコピペ(あるいは、数値目標だけを入れ替えたもの)で済ませることがないように指示を与えていました。必ずWhat will you do differently?の考え方を踏まえた目標であるように、上司=部下との間で十分にコミュニケーションをとることを求めていました。
脱線しますが、年初の目標設定は本当に大事です。事業部の目標が明確になった段階で、その目標を達成するように部別、課別、チーム別、個別の目標設定がしっかりと事業部の目標達成と同じベクトルを向いているかについて妥協を排除してやり取りし、レビューする時間を忙しさにかまけて蔑ろにすることはできません。
「やる気だけはあるのに業務遂行能力が低い部下に、不適切な目標設定を与える」言葉が悪いですが、これは最も犯してはならない目標設定時の落とし穴です。能力が足りないにも関わらずやる気だけは高い人はとにかく生産性など気にせずに、がむしゃらに残業を重ねれば目標を達成できると勘違いします。また、事業部の目標設定とは異なる方向にそのやる気が暴走して、チームに貢献しない動きをしてしまいます。
時にはその方の実力とその職位に対する期待値と達成可能な目標を適切に設定してあげることが肝要です。もちろん、その方が能力をあげるために必要な業務やプロジェクトへの任用もストレッチゴールとして設定することも大事です。この目標設定の上司と部下との対話には、事業部の目標が細部に浸透していることが必須ですし、対話の中で自己の評価と課題、取り組むべき点を明確にされること(言語化されること)、これらが噛み合っている必要があります。
また、この目標設定において期待値を明確に設定しないまま一年が経過し、思うような働きをしてもらえなかったとして低い評価を与えてしまうと、人事評価を伝える際に大きな齟齬となって、上司・部下共に大きな不満を抱くことになります。
改めて考えてみると、目標設定時に「向上心」がある人は自分のことを客観視できていて、何をすればチームの進むべき方向に貢献でき、それが自分を成長させることにつながるのか、ということを考えることができる人ではないかな、と思います。ある部下は自分にとって足りないスキルは何かを正直にフィードバックして欲しいと求めてこられ、その上でどんな目標設定をすれば自分の成長につながるかを聞いてきました。そうした健全な対話を繰り返すと、本人にもしっくりくる目標ができますし、マネージャーとしては安心してその目標を後押しすることができます。
さて、そうした人材を見つけ出すには、アマゾンのどのリーダーシッププリンシプルがしっくりくるでしょうか。私は、Insist on the Highest Standardsではないか、と考えます。いつものようにその定義を見てみましょう。
Insist on the Highest Standards
リーダーは常に高い水準を追求することにこだわります。この水準が必要以上に高いと感じる人も少なくはありません。リーダーは継続的に求める水準を引き上げ、チームがより品質の高い商品やサービス、プロセスを実現できるように推進します。リーダーは水準を満たさないものは実行せず、見逃さず、問題が起こった際は確実に解決し、徹底的な再発防止策を講じます。
これを面接を通じて確かめるには次のような質問が想定されます。
質問:
あなたがかつて担当したプロジェクトでもっと上手くできたと思うプロジェクトについて教えてください。そして、今だったら、それをどのように異なる方法で取り組みますか?
あなたが今までに設定した目標の中で最も達成するのが困難だった目標は何ですか?そこから何を学びましたか?
面接官として、候補者の方の過去の実績についてお話をお聞きしていると、大抵の場合は成功例をお話しいただくことが多く、淀みなくお話しをされる方が多いです。きっと、面接に向けて自分の過去の仕事を棚卸して、面接で答える準備をしているのでしょう。それ自体は悪いことではありません。しかし、そうした成功事例の詳細をじっくりお聞きした上で最後に「そのお仕事、今振り返ってみたら、どんな風にやり直すことができると思いますか?」とお聞きすることがあります。不意を突かれて、ここで回答に窮してしまう方も少なからずいらっしゃいます。ここからいくつかのタイプに別れます。
あの時のやり方がベストだと言い切ってやり直せることはない、というタイプ
その場しのぎで別のやり方としてはXXXXのようなことができたのでは、と思いつきで話すタイプ
当時をすでに客観的に振り返っていて、あの時はXXXXXをすれば良かった、と自己分析していて、もう一度チャレンジできるならそれを実行してみたい、というタイプ
どれがInsist on the Highest Standardsかと言えば、3番のタイプだと思います。現に面接をしていて、そのような答えをする方に何人も出会っています。もちろん、1番や2番の回答をした方が全てNGという訳ではありません。仕事に取り組む姿勢として、そのプロジェクトに全身全霊を傾けていたからこそ「やり切った」とおっしゃる方もいれば、当時はそういう視点では取り組んではいなかったが、振り返ればやれることがあったのではないか、というアイデアの引き出しは持っている方、そういう分析もできます。
このInsist on the Highest Standardsは後天的に獲得できる資質ではないかと考えます。マネージャーは、常に高い水準で目標を立てていくことを促し続けていくことで自然とそうした振る舞いに近づいていくからです。一方で、チームの中に現状肯定で、ともすると向上心とは反対のベクトルでじっとその場から動かないメンバーが他のメンバーに悪い影響を与えないかをマネージャーは注意深くみる必要があります。そういう意味でチームを率いるリーダー、マネージャーを採用するときは「向上心」の見極めが重要になってきます。
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