バー・レイザー#23 アマゾンジャパン中途採用の舞台裏 顧客志向のチームメンバーを採用するには?
今やeコマース事業だけでなく、クラウドコンピューティングサービス、エンターテインメントコンテンツ配信、広告事業など多角的な事業を展開するアマゾンですが、「Customer Centricity = 顧客中心主義」は、どの事業にも貫かれる根本的な考え方です。どのようなサービス、価値をお客様に提供し続けるか?そのためにどのような会社であるべきか、と言うことを一貫して追求し続けているのがアマゾンであり、その一端を覗くことができるのが、CEOによるLetters to Shareholdersです。これは1997年にJeff Bezosがスタートし、2021年から現CEOのAndy Jassyが引き継ぎ、毎年株主に当てて(実際にはアマゾンに関わる全ての人に対して)書いている手紙です。ここには多くのCustomer =顧客に関するアマゾンの考え方が書かれています。
顧客第一主義の真髄:アマゾンが語る「長期的価値」の哲学
アマゾンが掲げる顧客中心主義は、他の企業が単なるマーケティングスローガンとして用いるのとは一線を画す、極めて実践的かつ戦略的な思想だと言えます。その本質は、創業者ジェフ・ベゾス氏が1997年の最初の株主への手紙で表明した「長期的視点」にあります。この手紙は、アマゾンのアイデンティティを形成する基盤となる重要な文書であり、その中でベゾス氏は次のように述べています。
「私たちは短期的な利益を追い求めるのではなく、長期的な価値を創造することに全力を尽くします。そしてそのために、顧客の満足を軸としたビジネス運営を行います。」
アマゾンはここで、企業の成長を投資家ではなく顧客の満足度に結びつけるというユニークな視点を提示しています。これにより、顧客にとっての価値が増大すれば結果的に株主にも利益が還元されるという、長期的な信頼の構築が企業運営の中心に据えられました。この考え方が正しかったことは現在のアマゾンの成長を見れば明らかです。
「顧客とは何か」に対するジェフ・ベゾスの視点
アマゾンの顧客中心主義を理解するためには、ジェフ・ベゾスが「顧客とは何か」をどのように捉えているかを知ることが重要です。彼は2004年の株主への手紙で、次のように述べています。
「顧客は常に不満足です。彼らは常にもっと良いものを、もっと安く、もっと便利に手に入れたいと考えています。そしてそれが、私たちの仕事を永遠に『未完了』のものにするのです。」
この言葉は、アマゾンの企業文化の核心を見事に表現しています。顧客は常により良い体験を求めており、アマゾンはその期待に応えるだけでなく、さらに超える努力を続けるべきであるとする姿勢が明確に示されています。この「未完了」であることを前提とした考え方こそが、アマゾンを常に進化させる原動力となっています。
Andy Jassyが引き継ぐ顧客中心主義
2021年、ジェフ・ベゾスがCEOを退任し、アンディ・ジャシー氏がその役割を引き継ぎました。ジャシー氏は就任以降、ベゾスの顧客中心主義の哲学を継承しつつ、さらに新しい視点を加えています。2023年の株主への手紙では、次のように述べています。
「私たちの使命は、毎日お客様の生活をより良く、より簡単にすることです。これには消費者だけでなく、販売者、ブランド、開発者、企業、そしてクリエイターも含まれます。」
この発言からは、アマゾンが対象とする「顧客」の範囲を拡大し、消費者市場だけでなく、ビジネスやクリエイティブ領域にも焦点を当てていることがわかります。特に、アマゾンウェブサービス(AWS)の成長は、ジャシー氏のリーダーシップが生んだ成果の一つであり、クラウドコンピューティング市場において顧客のニーズを先取りする姿勢が顕著です。さらにジャシー氏は、サステナビリティや従業員の働きやすさといった新たな課題にも目を向けています。アマゾンは、2030年までに事業全体をカーボンニュートラルにするという目標を掲げており、これも顧客の未来をより良いものにするというビジョンの延長線上にあります。
終わりなき「Day One」の精神
アマゾンが顧客中心主義をこれほどまでに徹底できる理由は、「Day One」という理念にあります。ジェフ・ベゾス氏は、「Day Oneはすべての始まりであり、進化を続ける心構え」として、会社が固定観念に囚われることなく、常に変化し続けることを強調してきました。この精神はジャシー氏にも引き継がれ、変化する市場や多様化する顧客のニーズに柔軟に対応する企業文化を維持しています。
顧客の未来を形作るアプローチ
アマゾンの役割は「顧客のために働くだけでなく、顧客の未来を形作ること」にあると言えるのではないでしょうか。そしてこの理念は、アンディ・ジャシー氏のリーダーシップのもとで進化を続けているようです。データ活用、革新的な会員プログラム、カスタマーサービス、AWSの展開、そしてサステナビリティへの取り組みといった具体的なアプローチを通じて、アマゾンは常に「未来」を見据えたビジネスモデルを展開しています。顧客中心主義の哲学とそれを支える具体的な行動は、単なるスローガンを超えた現実の力と言えますし、これがアマゾンの強みです。この哲学が、アマゾンのビジネスを多くの顧客に評価された原動力であり続けることは間違いないでしょう。
顧客志向の強い人を採用するには?
と、ここまでアマゾンの顧客中心主義について述べてきましたが、では、中途採用で「顧客志向が強い人」を採用するにはどのような面接での質問が有効でしょうか?その前に、自社の「顧客へのスタンス」がどのようなものかを改めて省みる必要があるかと思います。B to Bを生業としている会社とB to Cがコアドメインの会社では顧客へのスタンスが自ずと変わってくるものです(その本質は通底しているにしても)。私は、アマゾン退職後ユニバーサルミュージックでも働きましたが、アマゾンがB to C企業であるに対し、(意外に思われるかもしれませんが)ユニバーサルミュージックはB to B企業でありました。ユニバーサルミュージックにとっての一次顧客は配信事業者であり、CD/レコードショップで、その先に音楽ファンがいるわけです(そう言う意味でB to B to C企業と言えるかもしれません)。さらに重要なビジネスパートナーとしてアーティストやアーティストのマネジメントがその対極にいて、むしろ、レコードレーベルとしてはそちらの向き合いの方が重要であったりします。私もそれに馴染むまで少し時間を要しました。
このことから言えるのは「顧客」をどのように定義して自社のサービスを創り、改善していくかはその会社が置かれた立ち位置によって大きく変わってくると言うことです。そうしたことを踏まえて、「顧客志向」について掘り下げていく必要があります。Customer Obsessionを確かめる質問は以下です。
質問
あなたが携わった「お客様ファースト」のプロジェクトについて具体的にお話ししてください。
ここでポイントとなるのは、その候補者が属する会社、組織が「顧客」をどのように定義しているか、です。営業担当、アカウントマネージャーであれば向き合い顧客はわかりやすいですが、例えば情報システム部、だったり総務部であれば、顧客は社内の関係部署なのかもしれません。そうした顧客とのと関係性を例によってSTARを使って輪郭を掴むことにします。
大枠が掴めたらさらに「顧客志向」について。掘り下げていきます。大事なのは、その候補者が「自分自身が顧客の身になって、顧客の立場で何を必要としているのか」を考えてきたかどうかを確認することです。顧客の視点で顧客の求めていることを考える、と言うのは簡単なようで大変難しいことです。なぜなら、想定すべき顧客はそんなに単純ではなく、様々な側面を持っており、それは時には矛盾していることもあるからです。口先だけで、相手の顧客を尊重するような回答をするのは簡単です。「お客様の要望を全て受け入れるために社内を説得し、利益度外視で受注しました」と言うエピソードが語られるのではれば、それは注意が必要です。むしろ、「お客様の要望が生じた背景は何かを聞き出し、自分なりにそれに対する解決策を考えて提案しました」と言うBehavior=行動を具体的に語ることができるか、と言うことの方が重要です。「顧客」は時には理不尽な要求を突きつけてくるものです。そうした要求を鵜呑みにせずに、何か別のアプローチを提案して、むしろ顧客の信頼を得ることがよりCustomer Obsession的であると言えるでしょう。