ファン1号
「俺らのファン1号だから」
と言われた事あるお笑いのお客さんはきっといるでしょう。
もちろん僕も言った事あります。
お笑いを始めた頃はトリオで、とにかくいろんなライブに出ていました。
ある時一人の女の子が出待ちしてくれてて、
「ああ、これが出待ちってやつか」
と思ったりしました。
その子はメガネをかけた暗い感じの、出待ちしたのにコミュ障で上手く話せない女の子でした。
「あ、あ、あの、、めちゃくちゃ、、面白かったです、、」
誰かに言わされてんのかと思うぐらい辿々しくて、でもお客さんに面白かったと直接言われる事が初めてな僕は、照れながらも喜んだもんです。
その子はそれからいろんなライブに来てくれて、毎回出待ちしてくれて、話をするけど上手くやり取り出来ず、を繰り返していました。
コミュ障な子だったけど、徐々に心開いて自分に相談事とかも話してくれたり、ある日山﨑がおちょくったら泣き出して必死で謝ったり。
「君は俺らのファン1号だから、結婚しようが子供生まれようがずっと見に来てな」
と言いました。
いつぐらいからだろう、その子が見に来なくなったのは。自分たちが事務所に入った辺りからか。
新しいファンの人が出来ると、そんな事なんて忘れてしまうけど、ふと思い出す事があるんですね。
「あー、あの子何してんだろう」
と。
「しっかり生きてんのかなー」
って。
生きてさえすればいずれまたどこかで会えると願いつつ、またそんな事は忘れてしまうんです。
この間、インスタに一通のメッセージが届きました。
「突然のメッセージすみません、元ゴールデンゴールデンの北澤さんですよね?」
と。
「私、〇〇です」
と。
「え、どの〇〇さんですか?」
と返したら、
「え、忘れたんですか?ファン1号って言ったのに」
と言われました。
生きてました。無事に。
「インスタで北澤さん見つけて、失礼だとは思いつつメッセージ送ってしまいました」
「いやいやありがとう!まさか生きてるとは!」
「生きてますよ。殺さないでください」
「久しぶりだねー!またライブでも来てよ!」
「行きたいんですけどね、でも簡単には行けなくて」
何か事情でもあるのかなと、その子のインスタを見に行きました。
アメリカに住んでました。
ビーチでくつろいでたりしてました。
近所の美味いピザ屋とか載せてました。
アメリカで埋め尽くされたインスタでした。
成功者じゃないか。
「またライブでも来てよ!」
じゃないんだよ。
あんなコミュ障で、こいつはこれからどうやって生きて行くんだ?と思わせたファン1号が、アメリカで人生を謳歌してるとは。
「山﨑に泣かされた事あったよね?」
と言うと。
「私、山﨑さんあれから嫌いです」
とはっきり言ってました。
まさかファン1号が成功者とはね。
こういう流れって、大体泣ける話になるはずなんだけど、そうはならないのが現実なんです。
一応、
「ライブ来れたら言ってよ。取り置きするから」
と言ったら、
「だから行けませんて」
と軽くあしらわれました。
とんだファン1号だぜ!