前職までの実績をどう活かしてもらうのか
中途採用者。即戦力として活躍できる人と、既存メンバーが教育に労力を割くことになってしまう人の差はどうして生まれてしまうのでしょうか。
前回は入社前の段階である「面接」において、留意すべき事前教育について触れました。入社後のミスマッチを防ぐため、選考に労力を前倒しにするという内容です。
さて今回は、中途採用者が即戦力として活躍してもらう上で大切な採用、そしてその先の配置に関わる事前準備について考えていきます。
あなたの会社では、人を採用する上でペルソナを設定していますでしょうか。つまり、自社に必要な人材を定義するということです。これは架空の人物でも、実際に御社にいる人物を想定していただいても構いません。
このペルソナについては多くの既刊本で解説がなされていますので、ここでは詳しく触れることは避けたいと思います。ただ、中途採用を成功させるにはペルソナよりももっと深掘りした考察が必要になる、というのが今回の結論です。
求職者の職務経験をどう分析するのか
ひとつ例題を出します。あなたが自社の採用を強化したいと考えていて、人事を担える人材の求人を出したと仮定します。
理想は人事、中でも採用の経験者を雇用したいのですが、集まってくる求職者の職歴にはなかなか経験者を見出せません。
もし次の職歴を持つ求職者が、採用経験の有無以外の条件は満たしていて、なおかつ実際に面談してみて一緒に働きたいと思える人材であったなら、どの人材が採用に適性があると考えますか。
①新規接客を担当するウェディングプランナー
②ハウスメーカーでの住宅営業
③カーディーラーとして販売営業
④学校法人の広報・入試担当者
この先も採用の経験者は求職してくる気配がなく、①~④の人材を採用する方が事業の拡大スピードにマッチしているとなった場合、あなたなら誰に適性があると考えられますか。
正解は、①~④の全員です。もちろん、性格やコミュニケーション能力、守秘義務を守れるなどパーソナルな部分でも差異は生じます。
そのため、今回はあくまで職務経験のみに絞って考察しています。
では、なぜ①~④のすべての人に適性があると断言できるのでしょうか。
具体的な職務経験を抽象化してスキルとして捉える
「①新規接客を担当するウェディングプランナー」を例に挙げてみます。ウェディングプランナーについてぱっと思い浮かぶのは、新郎・新婦との打ち合わせを通じてご夫婦の実現したい結婚式や披露宴を形にしていく仕事だと思います。実際にはそれは数ある仕事の中でも「施工」という仕事になります。
今回は「新規接客を担当する」という条件がついていることから、このプランナーについてはお客様が会場、またはホテルに初めて来場してから契約を交わすまでを担当していたことがわかります。つまり、「お客様を集客して歩留まりを上げる」仕事になります。
結婚式は高額な買い物になるため、そこには自社を選んでいただくための様々な工夫が凝らされます。
お客様が来場するときから演出が始まり、記入いただくアンケートへの質問項目にも意図があり、信頼関係を構築した上で競合他社との違いについて触れていく、さらにはクロージングなど、例を挙げれば枚挙に暇がありません。
集客してお客様に自社を選んでいただくという点では、まさに採用に求められるスキルと同じですよね。むしろ他業界の経験から、御社の採用の仕組みを新たな視点で改善していってくれる可能性まで秘めています。
②~④についても多少の違いはあったとしても、店舗や学校に集客して歩留まりを上げるという点では共通しています。
このように一見すると異なる業界、業種の職務経験であったとしても必要なスキルを抽象化していくと、たとえ未経験の方でも自社が求めている職種に適性が見込める可能性が出てくることがおわかりいただけたと思います。
職務経験を深掘りしていく過程とは
ではどのように御社の業務内容をスキルとして深掘りしていけばよいのでしょうか。好事例は、営業職です。営業は商材が無形か有形か、飛び込み営業なのかルートセールスなのか、フィールドセールスかインサイドセールスなのかなど、一口に営業と言ってもその領域は多岐に渡ります。
そのため、営業職種から営業職種への転職は、未経験の業界であっても適性の解像度は高く、働く姿が具体的に想像できるのです。
ここで、御社の管理職層を振り返ってみてください。先ほどの営業と同じように管理職層を定義できますでしょうか。
マネジメントは、求職者がマネジメントをしていましたと言っても、御社とマッチするのか、いまひとつ想像できない職種のひとつです。なぜなら、営業ほどまだまだ細かく言語化されていないからです。
新規事業の開発を担うチームのマネジメントを担ったのか、0→1ではなく、事業拡大のフェーズを担当していたのか、チーム編成の男女比はどうだったのか、人数規模はどうだったのか、生産部門か管理部門か、などそれぞれで求められるマネジメントスキルの比重や濃淡は変わってきます。
未経験者に適性を見出せれば、採用が変わる
なぜ、職務経験を深掘りしてスキルを抽象化することの大切さをここまで述べるのでしょうか。実は私自身が先ほどの事例で言うと「④学校法人の広報経験者」が未経験の採用に転用できた経験を持つからになります。
専門学校の責任者をしていた私は、入学希望者に入学を決定してもらうには3つのYesを取る必要がありました。
すなわち「業界Yes・学校Yes・入学Yes」の3つです。数ある専門学校の中でも、その専門学校が輩出できる就職先の業界の魅力、そして競合他校の中でも自校に入学したほうが良い理由、さらにはネックをヒアリングしてクロージングする決め手、など「集客して歩留まりを上げる」原理原則をおさえていました。
すると、転職して採用を担った際には「業界Yes・会社Yes・入社Yes」を取りに行けるように、これまでの職務経験を活かして、採用の仕組みを戦略的に見直していくことができたのです。
今回の記事のまとめとして、ペルソナの設定の前に御社が採用したい人物には、どんな職務経験を持っていてほしいのか、スキルを抽象化して考察してみましょう。
御社とのマッチングにおいて、または業種への適性について、より確信を持った状態で採用、ならびに配置ができるようになるでしょう。
ここまでお読みくださり感謝。続きはまた違う記事で。
【経歴】
立教大学を卒業後、学校法人三幸学園に入職。8年間教員として従事。3,000人をまとめるプロジェクトリーダーを経験。9年目からは専門学校の責任者としてトップマネジメントに従事。携わった学校全ての粗利向上、人材定着、退学率の低下を達成。直近の保育士幼稚園教諭系専門学校では2019年度の入学者177名に対し、2021年度は237名。退学率は着任前の2017年度9.6%から2020年度は2.4%まで低減。それらの経験を活かして現在は転職し、経営企画部として経営コンサルティング、グループ3社の新卒採用に従事。また、個人事業として専門学校経営のコンサルティング・企業の人材教育・中間管理職の育成を担う。経営から採用、人材教育まで事業領域は多岐に渡る。著書:『あなたに代わって中堅社員を優秀なリーダーにする本』
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教育参謀 本間 正道
Email: playbook.consultant@gmail.com
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