
巨悪なる新自由主義(2)
(4)新自由主義がやってきたこと。
いくつか事例を紹介しておきましょう。巨悪さが判ると思います。
事例は主に、以下の書籍から引いています
「新自由主義の暴走」(ビンヤミン・アッペルハウム)
「エコノミック・ヒットマン」(ジョン・パーキンス)
「新自由主義 - その歴史的展開と現在」(デヴィット・ハーヴェイ)

※ちなみに、この「エコノミック・ヒットマン」ですが、著者のジョン・パーキンスは、表向きにはコンサルティング会社のエコノミストとして途上国の開発計画に携わってきたが、裏では「エコノミック・ヒットマン(EHM)」と呼ばれる秘密の任務に従事してきた。それは、巨額の貸付金によって途上国を債務漬けにし、アメリカが思いのままに操れる状況を作り出すことでした。
まずは、恩恵を施す。例えば発電プラント、高速道路、港湾施設、空港、工業団地などのインフラ整備を建設するための融資。そして融資の条件は、プロジェクトの建設をアメリカの企業に発注すること。資金の大半はアメリカから流出しない。その後巨額な対外債務を負った途上国はまもなく利払いに行き詰まり、やがて例外なく債務不履行に陥る。その後は大企業、政府、世界銀行、IMFなどが登場し、マフィア同様の厳しい取り立てを行う。カネでは返せないので、代償として国連での投票権の操作、軍事基地の設置、石油やパナマ運河などの貴重な資源へのアクセスなどで払わせ、こうして「債務の罠」に陥った途上国はアメリカの連中のコントロールされてしまう。
こんなことの実行役の告発の書でもあります。
「自由はとても乗り心地が良い乗り物だが、それに乗ってどこに向かうのかが問題」(マシュー・アーノルド)
■海外諸国での悪行三昧ご紹介:
【ニカラグア】1920年代のニカラグア
・アメリカは自国の権益を守るために海兵隊を派遣したが、ゲリラとの闘いが続く。そこで現地の有力を探し出し、直接的支援を提供し、分断を謀り、反対派を弾圧・買収させた。見返りとして、アメリカ資本の活動に便宜を図る。
【イラン】1953年のイラン
・民主的に成立したモサデク政権を転覆させ、国王(シャー)に支配者の地位を与え、国王はアメリカ大企業に石油採掘権を与えた。
【メキシコ】1982年~84年のメキシコ債務不履行
・ボルカ―ショックによって、メキシコが債務不履行に陥る。
・IMFとアメリカ財務省が債務返済繰り延べの代わりに、新自由主義改革の実施を約束させた。
【パナマ】1972年~1983年のパナマ
・1972年にオマル・トリホスが新憲法を制定して国の最高指導者としての全権を握った。
・トリホスは当時アメリカ占領下にあったパナマ運河地帯の主権回復を目指し、キューバのカストロに接近し、近隣諸国に協力を求めるなどアメリカ合衆国に揺さぶりをかけ、1977年、ついにアメリカとの運河返還を約束する条約の締結に成功する。しかし1981年、謎の飛行機事故で死亡した。
・その後を継いだノリエガも当初は貧しい人々を支援する政策を取っていた。彼の最重要プロジェクトは新パナマ運河だった。資金調達と建設には日本を検討していた。しかしアメリカ政府は大きく抵抗、政府と言っても、国務長官(シュルツ)はベクテル社(多国籍エンジニアリング会社)の元重役、国防長官のワインバーガーは同社の元副社長(ご両名ともいわゆる回転ドアを行き来する住人)、ご両名とも日本に取られることを嫌っていたようだ。但し、ノリエガは前任のトリホスほど高潔ではなかった。その隙を突かれ、ニューヨークタイムズ紙に「パナマ独裁者、麻薬密売でカネ儲け」を一面で書かれてしまった。
・アメリカはついに1982年12月に都市空爆でパナマを強襲。子供を含む何千人もの人々の命を奪い、パナマシティに火を放ち何万軒もの家を消失した。たった一人の男の為に。
【サウジアラビア】1973年~現在
・1973年10月6日、6年前の第三次中東戦争でイスラエルに占領された領土の奪回を目的としてエジプト・シリア両軍が、スエズ運河とゴラン高原正面に展開するイスラエル国防軍(以下イスラエル軍)に対して攻撃を開始した。そこにニクソン大統領がイスラエルへの軍事支援を議会に要求したことで、アラブ産油諸国は対アメリカの石油禁輸を発表した。(石油ショック)
・その後禁輸は解除されたが、アメリカは大きな打撃を受けた(やられて傷ついたことがショックだったのでしょう)。とは言え、一方のサウジアラビアも、金は入ってくるが使い道が判らず、イスラム教の教えに反するような奢侈な生活を始めるものも出始めた。そこで禁輸解除後、両国は和解を模索し、石油ダラーをアメリカ投資銀行に運用を任せること、石油の禁輸は2度と行わないことを条件に、サウジアラビアの近代化への支援を行うことで合意し、アメリカ・アラブ統合経済委員会(JECOR)という組織までつくった。この組織は議会の監視を受けることのない独立性の高い存在で。25年間で数十億ドルの資金を使った。早い話が、サウジアラビアのカネを使ってアメリカ企業がやりたい放題で新たなサウジアラビアを建設するということになった。EHM(エコノミック・ヒットマン)の使命は石油ダラーが確実にアメリカに還流するための使い道を見つけることになり、そしてアメリカ企業への支払いを最大化してアメリカへの依存度を高めさせることであった。具体的には石油ダラーで米国債を買い、その利息をアメリカ企業に支払って、サウジアラビアのインフラを整備する。異教徒たる外国の大企業が決定権を握ることも多かったはずで、宗教的には心配(信仰が変化する)も多く、サウジアラビアとしては自分たちの思い通り進めたかったのだろうが、アメリカ政府の政治的・軍事的圧力から他の選択肢はなかったかもしれない。
【コロンビア】
・エンジニアリングや建設の技術の売込みの際に、「巨額の借金を背負うが、コロンビアの天然資源(石油、天然ガス)やアマゾン開発で十分に返済できる」という経済予測の絵を書いて説明。当然甘い汁も付けて。もちろん真の目的はコロンビアを隷属させることであった。やり口は同じなので割愛。
【エクアドル】
・1960年代の終わり、石油が大規模に採掘され、買手が殺到し、この国の有力者もやはり国際金融機関の術中に嵌ってしまった。石油から得られる収入に後押しされて、自国に莫大な借金を背負うはめになった。道路、工業団地、水力発電ダムと発電プロジェクト、通信・物流システムなどなど。甘い汁につられていらん物も買ってしまう。
・アメリカの福音派の伝道団(SIL)が石油会社と結託して。石油が埋蔵されている地域の先住民たちを酷い手を使って追い出そうとしていたことが告発されていた。
・愛国者ハイメ・ロルドス・アギレラが1979年に大統領に就任。彼はアメリカの隷属からの脱却を目指して、巨大企業と戦った。アメリカでは大統領が、「独立宣言の体現者」とも言えるカーターから「アメリカ世界帝国の建設者」の手先だったレーガンに変わった。
・1981年ロルドスは国と石油会社の関係を改革する法案を提出した。予想通り、石油会社は猛反発。しかし、様々な妨害や中傷にもひるまず、ついにSILの締め出しを命令し、すべての外国企業に対して、エクアドル国民の為になる計画を実行しない場合は強制的に追い出すと警告した。
・しかし、1981年5月にヘリコプター事故であえなく急死した。
【チリ】チリでの1973年クーデター
民主的に選ばれた社会主義者のサルバドール・アジェンデ大統領を打倒するため、チリ軍によって行われた軍事行動。後押ししたのは、CIA、アメリカ大企業、キッシンジャー。クーデター後の政策はというと、
・あらゆる社会運動、左翼政治団体の弾圧
・民衆組織の破壊
・労働市場の「解放」
・シカゴボーイズ(フリードマン系)によるチリの「再建」
-IMFとの借款交渉
-国有化取り消し
-公的資産の民営化
-天然資源の民間への解放→乱獲推進
-社会保障の民営化
-海外直接投資
(含、利益の本国への送金権利保護)
・自由貿易を推進
⇒しかし短命に終わった。(1982年のラテンアメリカ金融危機による)
■アメリカ国内での悪だくみ:
・国内では発展途上国ようなやり方は無理だが、いろいろな富の収奪の手口が開発された。全般的な傾向は2つ。
1) CEOへの支払いにストックオプションがあてられることで、所有と経営が融合した。⇒売上より株価が成果指標になった。
2) 貨幣資本と生産資本が接近した。儲かれば手段は生産でなくてもいい。
→大メーカーがせっせと金融取引に精を出し始めた。
⇒金融世界の活動力や権力の爆発的発展をもたらした。
金融活動への規制・障壁からの自由度が高まる。
金融サービスのイノベーションや新商品開発
(証券化、デリバティブ等)
⇒金融システムの保全が超富裕層の関心事となる。カネが全て。
・中心人物はCEO、会社の重役、金融・法律・技術部門のリーダー。
普通の株主は地位が下がった。彼らはCEOや金融機関のおかげで損をこうむることもあった。新たな階級も生まれた。バイオ、IT関連である。
・海外では国家権力との結びつきで財を成した者もいる。
【インドネシア】スハルトと関係の深いサリムグループ
【メキシコ】カルロス・スリム
・「地球上最も偉大な大国であるアメリカには『自由』の拡大を助ける責務がある」(ブッシュ大統領)
しかし事実は、技術の恩恵を公共領域から引き上げる(エイズ治療薬)、戦争・飢餓・環境破壊で儲けている。
⇒手口が巧妙になり、惨事はあえて引き起こされているのではないかという疑念すら囁かれている。
■ニューヨークでの事例(1975年の財政危機)
・当時のニューヨークでは、資本主義の再編と脱工業化が経済的基盤を侵食し、急速な郊外化は都市中心部の貧困を生んだ。こんな状態の中、連邦からの補助金も(意図的に)削減され、金融機関もとうとう債務の返済繰り延べを拒否。市は事実上倒産。
・ 救済措置(?)として、自治体援助公社(MAC)が設立されたが、これがとんでもない代物だった。債権者に市税に対する第一優先権を与え、市民サービスは余った金から行うということ。また、自治体労組の要求は抑え込まれ、賃金は凍結、公務員雇用と社会福祉は削減、受益者負担(大学学費の負担)という原則が作られ、そしてあろうことか、労組は自分たちの年金基金を市債に投資させられるハメになった。
・金融機関による、まさに自治体(←選挙の結果で構成されているはず)へのクーデターと言える。それだけでなく、更に自分たちにとって良好なビジネス環境に変貌させようとまでした。「資本主義企業への助成金と税制上のインセンティブを保証」「公共資源をビジネスに最適なインフラ(電気通信関係)を作るために利用する」など、「市民向け福祉」が「企業向けの福祉」に変わった。
・つまりは「金融機関・債権者への利払い」が「市民の福祉」に優先され、彼らの喰い物にされた観がある。1980年代のレーガン政権のシナリオは、このニューヨークの拡大版に過ぎない。
・結局、30年間で資本家階級の権力が回復し、各分野で企業権力の巨大集中をもたらした。市場の自由はその為の便利な手段だったということでしょう。
■先進国型と発展途上国側
これまでに紹介で、新自由主義には先進国型と発展途上国型がある事がわかる。
・発展途上国型は、いわゆる「債務の罠」型。つまり開発による経済発展計画を持ち掛け、莫大な借款を準備しつつ、支配者層には甘い汁も用意して計画を認めさせ、やがて経済破綻を起こし、資源や富を強奪するもの。
・先進国型は、資本蓄積の行き詰まりから生み出された資本家集団の更なる蓄積に向けての解決策である。国民を支配者層と被支配者層に分断し、被支配者層への福祉の削減、税負担として政府に集中させ、政府が分配知る時に支配層が有利になるような手法を、被支配者層にはそれと気づきにくい形で行うような、高度なテクニックが駆使されているので、次の投稿で詳しく説明します。
(続く)