彼女を開発する
僕は全裸で横たわる彼女の身体をタオルで拭いたあと、動けないように脊髄に麻酔を注射をした。これから彼女を開発しなけりゃならない。
小規模な開発で彼女は回復した。
「あたし、またおかしくなってたの?」
彼女は言う。
「たいしたことない。それにお互いさまだ。治るから安心して」
僕も彼女も認知症患者だった。
彼女はさっきまで身体制御がうまくいかず、糞尿を垂れ流していた――これは想像以上にきつい。同じ家に住む僕もだが、気づいた当人が死にたい気分になるやつだ。
でも、今は、その制御を取り戻したし、意識レベルも高い。萎縮した脳に補助電脳を追加しパッチ用プログラムを適応したからだ。欠けてしまった機能を取り戻すためのものだ。 脳内に埋め込む補助電脳は、脳と見分けがつかない。
「もう、これで大丈夫――がぁ」
言おうとしたが、僕はもううまく喋れなかった。脳梗塞だ。なんてことだこれで今年二度目だ。
「じゃあ、今度はあたしがパッチをあててあげる」
僕と同い年の彼女は言った。
お互い五二〇年も生きてるといろいろある。僕も彼女も生命あるかぎり開発を続けるのだろう。