精神科診断に代わるアプローチPTMF読書会の対話 6章
【全10回:精神科診断に代わるアプローチ PTMF(5月〜9月編)】読書会でおこった対話や白木先生の教えを元に構成しているレポートです。初学者の方にも易しく解説します。医療関係者だけではなく、人材開発、組織運営、教育現場の方にもおすすめです。
前回の内容はこちらから 👉PTMF読書会の対話ー5章
5章まではご本人にその出来事を観察していただくお手伝いについて記述されています。今回は6章について深めていきます。
6章の表題は「あなたはそのことをどのように理解しましたか?」(そうした状況と経験はどのようなものなのか)。前回に引き続き、相手の頭の中にある出来事や感情を整理するお手伝いであり、意味づけについて解釈する章です。
前回同様、最後に「?」マークが付けられています。話す中で必ずしも質問でなければならないわけではなく、相手の頭や心の中で整理ができる「問いかけ」が重要です。対話の中でのゼスチャーや、表情を用いたりすることもありますよね。
症状か、理不尽な脅威か
ここまで読み進めた通り、これまでの精神医療の立場では、メンタルヘルスの問題の中で「感情的苦悩・異常な体験・厄介な行動」の発生は「症状」と捉えて「病」であるとラベル付けし、治療対象とされてきました。
しかし、PTMFの立場では「異常と受け取られている行動や感情」をスレッドレスポンスだと捉えることから始まります。スレッドレスポンスとは、脅威に対して無意識に起こる反応です。
つまり、外からの理不尽な脅威が起こった時に、ずっと昔、幼少期に同じような辛い経験を受けていたことが、体や心の中で蘇り、無意識的に反応や行動を起こしてしまうのです。
なぜ辛い経験を再編集する必要があるのか
では、なぜ出来事に対する認識を「再編集」する必要があるのでしょうか。
今までの精神治療の立場(苦悩に対する診断モデル)では、通常考えられない行動や感情を異常行動、つまり「病」として特定したのち、正常に導くような「治療」を行っています。通常では考えられない行動とは前回にも登場した「イデオロギーが常態化している、一方向的な見方」によって決めつけられた行動です。
ところが、表層的に見て行動や感情のみを強制的に改善しても根本的な「辛い経験」の改善にはつながりません。そのため「病」と言われる症状は繰り返し発生し、長期的に状態が良くなるとは期待できません。
もし、スレッドレスポンスが起こる原因、無意識に過去に受けた苦痛に基づいた意味づけを再編集できたならば。不遇の出来事を周囲の信頼できる人に打ち明け、信じてもらい、支え慰めてもらえると道が開けるでしょう、と述べています。
体験に付与する意味づけのケース
一方で、信頼できる人に打ち明けたり支え慰めてもらえない場合はどうでしょうか。「自分のせいなんだ」と自己否定をし周囲の人への不信感がさらに強まります。例えば、環境・状況的にどうすることもできない場合に自身が対処できないことについて「自分のせいで失敗した」「自分の能力が劣っている」と感じるのです。
はたから見れば「そんな些細なことを気に留めてるの?」と困難そうではない出来事も、渦中にいる人には「とてつもなく辛いことだったりする(P81)」のです。注意すべきは、本人が脅威をどう感じているのかであり、はたからみた評価ではないのです。
そして、これは誰にも起こることで「トラウマ体験がない普通以上に恵まれた人」にも可能性があります。
実際にはこのプロセスには何ヶ月もかかることもあるそうです。記憶に蓋をしていることもあります。ご本人にとってはできれば思い出したくないことなのでしょう。
イデオロギーから解き放つ質問とは?
「あなたのどこが悪いのですか?」
「あなたに何が起きたのですか?」
この章ではスレッドレスポンスを、カウンセラーやセラピストが理解して相手の意識の中で意味を再編集するという作業の解説を行ってきました。
あなたの体験に一方的にラベル付せずに親身に寄り添ってくださる方の質問とは、前者と後者のどちらでしょうか。
最後に、イバン族の事例が紹介されていましたので抜粋し締めくくります。ある人類学者の記述のようです。東洋的な学問形態と西洋的な学問形態の違いが表されているように感じます。
ここまでご覧頂きありがとうございます!
次回は第7章「生き延びるために、何をする必要がありましたか?」についてです。レポートをお楽しみに!
Writer:豊川真美