精神科診断に代わるアプローチPTMF読書会の対話 5章
【全10回:精神科診断に代わるアプローチ PTMF(5月〜9月編)】読書会でおこった対話や白木先生の教えを元に構成しているレポートです。初学者の方にも易しく解説します。医療関係者だけではなく、人材開発、組織運営、教育現場の方にもおすすめです。
前回の内容はこちらから 👉PTMF読書会の対話ーリフレクティングから…
前回までは5章に進む前に背景へと立ち返りました。主題であるべき「その出来事はあなたにどのような影響を及ぼしましたか?」がすっ飛ばされて次のテーマへと話題が移ったためです。いよいよ今回は5章について深めていきます。
質問を超える大切なこと
5章では「その出来事はあなたにどのような影響を及ぼしましたか?」(そのことは、どのような脅威をもたらしているのか)について記されています。前回に引き続き、相手の頭の中にある出来事や感情を整理して頂くお手伝いの過程の一つに位置付けられています。
最後に「?」マークが付けられていますが、必ずしも質問でなければならないわけではありません。相手の頭や心の中で整理ができるような「問いかけ」(※1)が重要です。対話の中でのゼスチャーや、表情を用いたりすることも考えられますよね。言葉でなくとも良いのです。
特に「質問」をする時に注意すべき場合があります。それは立場が異なる関係性がある場合です。「質問」はともすると、「詰問」と受け取られる可能もあります。
そして、4章〜8章の中で本章は、起こった出来事そのものを事実として理解・整理する重要なプロセスにあたります。同じく全ての章を通して質問は同じく形式にこだわることなく相手に寄り添ったスタイルに変えることが好ましいでしょう。
この章の冒頭には、「心の病理」ではなく「環境要因」ではないかと疑い考慮する項目も紹介があります。
例えば、養育者(保護者)との間に、初期に安全で大切にされていたのか、家族や友人の間に安心で帰属の感覚を得ていたのか、あるいは自分を取り巻く物理的な環境に対して安全や安心感を抱くことができていたか等が挙げられています。
私が特別印象的だったリストはこちら。
「自然の世界とのつながり」についてはウェルビーイングの視点から見ても、人の心にと良い影響があることが、ウェルビーイング学の研究者であられる内田先生のこんな論文からも分かりますね(※2)。人の森林における主観的幸福感度に関する調査結果です。
こぼれ落ちなかった富
PTMFの書籍の中に、「イデオロギーの力」の説明が幾度となく登場します。本章の中にも「多くの脅威がパワーの負の働きから生じてくる(P72)」と「パワーの不平等さ」が示されています。一部の人やグループにはプラスに、他方にはダメージとなる特徴をジェンダーや人種差別に関する例を用いながら説明されています。
つまり、生きるため に必要な「中核的ニーズ」を獲得できるか否かは、生まれ育った環境によって左右されると主張されています。幼少期から安心して得ることができない状況も充分に考えられるのです。反対にパワーの源により多くアクセスできる人やグループほど、より多く中核的ニーズを満たすことができるということです。
さらには、「メンタルヘルスや他の人に関わるシステム」そのものにも脅威の可能性を孕んでおり、
ポジティブなパワーを見出すたくましさを
5章後半からはポジティブな面について注目することも生きる上で大切だとしています。ポジティブな面には、脅威の経験やその影響を和らげて、より建設的に中心的ニーズを満たすパワーの源にアクセスできるという特徴があります。これも幼少期の人間関係や帰属意識から得られるものなのです。
同時に、前述の通りパワーの不平等さが存在しているため、思い描くポジティブなパワーが見出せなかったとしても「人々に自分を失敗者だと感じる」必要はないと伝えています。
ここまでご覧頂きありがとうございます!
次回は第6章「あなたはそのことをどのように理解しましたか?」についてです。レポートをお楽しみに!
Writer:豊川真美
※1「促し」を「問いかけ」に変更しました。促すという言葉は意図的にある方向へ導くという誤解を生むこともありうるという理由からです。
また文中には記述ありませんが「問い」と「問いかけ」は決定的に異なるという立場です。(7/14 17:00)
今回ご紹介した論文は👇リンク先のページから閲覧が可能です。
※2 内田由紀子, 石橋弘之, 奥田昇. 2021. “森林に関わる主観的幸福度に影響を及ぼす要因の実証的検討.” 日本森林学会誌. https://www.chikyu.ac.jp/publicity/news/2021/img/0802/download.pdf.
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