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シモン・アンタイ (Simon Hantaï)

大阪心斎橋にあるルイヴィトンのアートギャラリー、Espace Louis Vuitton Osaka で、シモン・アンタイ (Simon Hantaï) の作品を自分の目で見てきた。

ギャラリーのウェブサイトに載っている以下の画像を見て、なんとなく興味が湧いて、見に行ってきた。

シモン・アンタイの1975年の作品「Tabula, Meun」(一部)
画像元:Espace Louis Vuitton Osaka

切り絵なのかな、と漠然と思いながら、意図的に下調べを全くせずに、ギャラリー入り口の紹介文も全部無視して、作品に対峙してみた。

最初、絵の表面に皺がよって凹凸があるのかな、と思ったのだが、それは目の錯覚で、絵の表面は完全に平ら。この感覚は、作品を真正面から写真に撮っても表現できないので、キャンバスの端っこから斜めに撮ってみたのがこちら(Espace Louis Vuitton Osaka は、フラッシュさえ焚かなければ、写真撮影自由)。

シモン・アンタイの1960年の作品「Mariale m.a.4, Paris」(一部)
筆者撮影(2023年12月8日)

写真で見ても、とても立体的に見えるし、表面が皺くちゃになっているような錯覚を覚える。

キャンバスの横側まで塗ってあるということは、四角いキャンバスという「形」は物理的に作品を存在させるための妥協であって、作品自体は空間的にどこまでも広がっていくものとして制作されたはず。

なので、作品が白い壁にかかっているのを写真におさめても、作品の本質には迫れない。自分が気に入った部分にズームインして、写真を撮るのが正解だろう。と思って、撮影したのが以下の写真。

シモン・アンタイの1960年の作品「Mariale m.a.4, Paris」(一部)
筆者撮影(2023年12月8日)

抽象画であるにもかかわらず、不思議と有機的で、ちょうど紅葉の季節だったこともあり、散り紅葉を連想した。

展示されていた作品の中でもう一つ、自分の心をとらえたのは、この記事の冒頭に載せた写真の作品。この作品も、キャンバスの横側まで塗ってある。

シモン・アンタイの1975年の作品「Tabula, Meun」(一部)
筆者撮影(2023年12月8日)

格子という幾何学的なパターンであるにもかかわらず、非常に有機的。

シモン・アンタイの1975年の作品「Tabula, Meun」(一部)
筆者撮影(2023年12月8日)

茶の湯を嗜む自分には、茶室の下地窓のように見えた。

一通り、前提知識なしで作品を鑑賞した後、ギャラリーの入り口にあった説明文や、自由に閲覧できるようになっていたシモン・アンタイについての本を幾つか見て、この不思議な作品がどうやって作られているのかがわかってきた。

普通、絵を描くときは、キャンバス生地を木枠に張り付けて二次元の平面にしてから描き始める。しかし、シモン・アンタイは、まず、キャンバス生地そのものを折り畳んだり、くしゃくしゃにしたり、時には一部を結んだりして、三次元の物体にしてから、描き始める。

「Tabula, Meun」を制作中のシモン・アンタイ(Édouard Boubat が1975年に撮影)
画像元:Archives Simon Hantaï

そして、キャンバス生地を広げて、また折ったりくしゃくしゃにして、また描く。何回か繰り返した後、キャンバス生地にアイロンをかけて真っ平にして、木枠に張って、作品にしている。

しかも、偶然に任せるというよりは、計算してやっていたらしい。

その結果、色のむらが生まれ、キャンバスの表面がクシャクシャになっているように見えるようになる。

この、二次元と三次元の間を自由に行き来する制作過程とその結果としての作品が、非常に独創的であり、シモン・アンタイが評価される理由なのだろうと思う。ルネッサンス以降の画家は二次元のキャンバスに三次元を表現しようとして陰影や遠近法を駆使した。ゴッホは、ペンキを部分的に厚く塗ることで、二次元のキャンバスを三次元に拡張した。そのどちらとも異なる方法で、二次元の平面を三次元に拡張している。

シモン・アンタイの1975年の作品「Tabula, Meun」(一部)
筆者撮影(2023年12月8日)

他にも7作品が展示されていたが、この二次元と三次元の自由な行き来が最も強く表現されていたのが、以上の2作品だったと思う。

この展示についての詳しい解説は、GQに掲載された松本雅延さんの記事が詳しい。

🍵 🍵 🍵

Espace Louis Vuitton Osaka を訪れるのは二回目で、前回も思ったことだが、キュレーションの質がべらぼうに高い。

ギャラリーに置いてあったシモン・アンタイの作品カタログには様々な作品が載っていたのだが、その中で最も創造的な、現代アート史に残る作品を選んで展示している、と感じた。

さすが、天下のルイヴィトン。大阪のアートギャラリーの中で最高峰ではなかろうか。しかも入場無料。

ただし、入り口がどこなのか、かなりわかりにくい。鏡張りの自動ドアが、ルイヴィトン大阪店の御堂筋沿いの正面入り口から右横へ回り込んだところにあることに気づけたら、辿り着けます。

このわかりにくさのおかげなのか、金曜の夜にも関わらず、自分の他には一人しかいなかった。おかげで、ゆっくり鑑賞できました。

夜8時までというのも嬉しい。仕事帰りにぶらっと立ち寄れます。



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