志村茉那美 《見えない川を辿る》
京都の現代アートギャラリー、Gallery PARC で、斜め上過ぎて理解できないんだけど、面白くて目が離せない作品に、出会った。
5分36秒のCG映像なのだが、ワニだとか、ウサギだとか、カエルだとか、コイだとかの動物たちが、京都らしい日本家屋を舞台にして、感情が全くこもってない機械的な声でセリフを棒読みする演劇。
ウサギとコイが会話するシーン(画像元:創造都市横浜)
「フェントン」という名のワニがビールを密造していて、「オブチ」という名で皆に呼ばれるウサギが他の動物たちに「君が代」の歌を練習させて、その動物たちはウサギにビールを飲まされて記憶喪失になって連れて来られていて、その家で火事が起きて、土砂崩れでせき止められた水の代わりに密造のビールが大量に川を流れて、そのビールを口に含んだワニが火に吹きかけて火事が収まり、コイは桶の中で泳いでるのがつまらないと言って、ビールが流れる黄金の川に飛び込む。
ビールが川に流れ込んだシーン(展示風景の写真)(画像元:Gallery Parc)
火事が起こったところからは、ノリのいいダンスミュージックがBGMとしてかかって、恐怖というよりは楽しい感じのドラマチックさを演出。全編、10年前(?)ぐらいのビデオゲームで使われていたような雑な作りの三次元CGで、火事は燃える火を通常の風景に重ねただけだったり、コイがビールの川に飛び込む時は、姿勢を変えずに桶から川へアイコンをドラッグ&ドロップしたかのような動きしかしない。
「君が代」を歌うコイ(展示風景の写真)(画像元:Gallery Parc)
見終わった後、壁に貼ってあった説明書きを読むと、なんと、この支離滅裂な印象のある演劇は、明治に横浜のとある町で起こった実話を元にしているらしい。ワニのフェントンは、ジョン・ウィリアム・フェントンという「君が代」のボツになったバージョンを作曲した人がモデル。
訳がわからないのだが、だからこそ面白過ぎて、何度でも見たくなる映像だった。何故だろう、機械的な声の棒読みのセリフや、雑なCGが、見事にハマっている。役者による感情のこもったセリフだったり、ここ数年の異常にリアルなCGだったら、むしろつまらなかっただろう。
思うに、デジタルテクノロジーを使いこなせてない感が、舞台となっている明治維新直後の人々のどうしていいかわからない感(想像でしかないけれども)とうまくマッチしているからなのだろう。ストーリーの支離滅裂感も同様にマッチしている(ビールが川に流れて、そのビールで火が消し止められたというのは事実らしい)。
ウェブ上には、この記事に転載した数枚のキャプチャ画像しか見当たらない。YouTubeかVimeoにアップロードしてほしい。多くの人に見てもらいたい。
注:見出し画像は、作品のエンディングシーン。Gallery Parc のホームページにあったものをクロップしたものです。
追記(2020年3月4日)
「オブチ」という名前や、「君が代」や、明治維新直後のエピソードが出てくることから、多分、この作品は、オブラートに包みつつ、あることを批判しているのかもしれない。雑なCGや棒読みのセリフも、その批判対象の姿に相応しい表現。ただ、それを具体的に書いてしまうと陳腐になるので、あえて書かずにいようと思う。
何かを批判する時は、ユーモアでオブラートする。これ鉄則。すると、批判されている当事者も笑ってしまい、自らの非を認めやすくなる。
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