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立冬

今日、2022年11月7日は立冬。今日から立春(節分の豆まきの翌日)までの四半期は、一年で日が出ている時間が一番短い時期。

一般には「晩秋」と呼ばれる季節の始まり。落葉樹の葉がどんどん色づいていく。ここ1週間ぐらいは、サクラの紅葉が美しい。先週末、京都国立博物館の庭にあるサクラの葉が、緑・黄色・赤のグラデーションに染まり、西陽を浴びて美しかった。

京都国立博物館の庭を平成知新館から眺める(2022年11月4日に筆者撮影)

モミジの紅葉は、これからの二週間で、京都の北の山の中にあるお寺や神社で見ごろを迎える。今年の秋の JR 東海「そうだ、京都へ行こう」キャンペーンの舞台になった神護寺はお薦め。最寄りのバス停からお寺に辿り着くには、一度谷を降りて、そこから階段をかなり登らないといけないが、モミジが至る所にあり、お寺の門をくぐった先の広い境内にも、さらに追い討ちでたくさんのモミジがある。金堂前の長くて幅の広い階段の両脇の真紅のモミジが圧巻。

神護寺楼門(入り口)(2016年11月13日に筆者撮影)
神護寺金堂前から階段を右方向に見下ろした景色(2016年11月13日に筆者撮影)

この時期、美しいのは紅葉だけではない。山茶花(さざんか)や石蕗(つわぶき)が咲き出す。ススキの花穂が太陽の光を反射すると、とても美しい。

天龍寺放生池のススキ(2019年11月18日に筆者撮影)

それから、花の少ない冬の庭に彩りを与えてくれる赤い実たち(南天、千両、万両)が色づく。この記事のトップ画像は、京都桂のとある家の庭に実っていた南天。「なんてん」という名前が「難(なん)」が「転(てん)」じる、すなわち、物事がうまくいくようになる、という意味に取れる、とのことから、家の庭に植える人が、京都にはとても多い。

さて、旬の食べ物としては、まず、サツマイモ。収穫は9月頃から始まるが、収穫後二ヶ月経つと水分が抜けて甘さが増す(情報源:All About)、とのことで、ちょうど今頃からが美味しい季節。木から葉っぱがどんどん落ちてくる時期でもあり、落ち葉焚きで焼き芋、というのは、とても理に適っている。さつまいもスウィーツのチェーン店「らぽっぽ」が売っている安納芋プリンがとても美味しいのだが、年中売っているとはいえ、毎年、今からの季節に食べている。季節感大事。

それから、チンゲンサイ。晩秋が一番美味しいらしい(情報源:みなとの野菜大辞典)。ほうれん草や小松菜が冬に旬を迎えるまでの繋ぎ役。

あと、真鯛(マダイ)。今日、魚屋さんで長崎産の天然真鯛を売っていて、刺身で食べたら、これまでの鯛のイメージを覆すほどの脂の乗り具合でビックリ。あまりタイの刺身は好きではなかったのだが、それは単に旬の天然物を今まで食べてなかったからのようだ。真鯛は、春に産卵期を迎え、栄養を使い果たした後、夏は食欲がないままに過ごし、秋後半になってようやく餌を食べるようになって太り始めるから、晩秋が旬なのだそうだ(情報源:Woman Excite)。

最後に、立冬の頃の和菓子の話をする上で、避けて通れない季節の行事が「亥の子」。東京出身の私は、京都に住み始めるまで聞いたこともなかったが、立冬の頃に京都の和菓子屋さんがこぞって「亥の子餅」を売り出すので、何のことだろうと調べてみた。

「亥の月」である旧暦10月(明治以降は「月遅れ」で11月)の「亥の日」を「亥の子」と呼び、イノシシの子供を抽象的に表現した「亥の子餅」(詳細は後述)を食べたり、炬燵(こたつ)を出したりする日。今年は6日が11月最初の「亥の日」だったので、11月6日が「亥の子」だった。(なお、どの月や日が十二支のどれがどの月やどの日に当たるかについては、『暦と天文の雑学』に詳しく解説されている。)

亥の子餅は、イノシシにちなむ、ということで理解できるが、なぜに炬燵なのか。『日本文化研究ブログ』によると、イノシシは仏教における炎の神(摩利支天)の使徒であるので、火災に煩わされない、と考えられたらしく、そのイノシシにあやかって暖房器具を使い始めれば、火事を起こさずに冬を過ごせる、と江戸時代の人たちは考えたのだそうだ。

この習慣は、茶道では今も息づいていて、お茶の先生方は、亥の子の頃に「炉開き(ろびらき)」をする。夏の間は「風炉(ふろ)」と呼ばれる、畳の上に置く火鉢を使って、お湯を沸かして抹茶を点てるのだが、冬の間は、畳の一角を取り外した下に「炉(ろ)」と呼ばれる釜一つが入るサイズの小さい囲炉裏をこしらえて、そこで湯を沸かして抹茶を点てる。このせいで、茶道具の位置関係がほとんど全部変わり、従って点前の方法も大きく変わり、茶道を習い始めたばかりの人たちを泣かせる(笑)。

そして、この「炉開き」と同時に「口切」もする。5月ごろに摘み取った茶葉を夏の間壺に入れて封をして熟成させていたものを、「炉開き」に合わせて封を「切り」、新茶を味わう。昔は、抹茶を一年中美味しく飲めるように保管する技術がなかったから、夏の間、”賞味期限”を過ぎた抹茶でずっと我慢してきたのを、香り高くて美味しい抹茶が飲めるようになる、という意味で一大事。炉開き・口切は「茶人の正月」と呼ばれるのも、そう考えれば納得できる。

そして、その炉開き・口切の茶会をするときに出てくる菓子が、亥の子餅。

京都の様々な和菓子屋さんが「亥の子餅」をこの時期限定で販売する。いかにも京都らしいのが、イノシシの子供を、卵っぽい形、薄茶色、そしてイノシシの子供に特有の斑点を模した黒胡麻数粒で、ミニマルに表現するところ。手足も目もついてない。

かぎ甚の「亥の子餅」(2020年11月14日に筆者撮影)

お店ごとに特色のある亥の子餅の中で、私のお気に入りは、上の写真に映っている、祇園にある「かぎ甚」の亥の子餅。そんなに大きくない餅の中に、餡子と一緒に、秋の味覚である、柿、銀杏、栗が入っている。どれも大粒。口の中で秋が弾ける。色づく葉を見ながら、初めて暖房をつけて暖まりながら、食べてみよう。








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