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Day 1: 自分自身が欲しいアプリを作る

ある日の「ユーザー体験」

先日、メガネのレンズ交換のために、京都の繁華街にあるメガネショップを、開店時間の午前11時に訪れた。

綿密な視力検査の後、午後2時に新しいレンズのメガネが仕上がると言われ、時計を見ると、正午を回ったところ。どこか近くで昼飯を食べ、食後のコーヒーでも飲んで、二時間つぶさないといけない。

スマホを取り出し、My Ideal Map App のアイコンをタップする。画面いっぱいに表示された地図の中央には、今自分のいるパリミキ四条烏丸店

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パリミキ四条烏丸店(画像元:パリミキ

スクリーン右下のボタンをタップすると、幾つかのチェックボックスが表示され、その中から "lunch" と "cafes" を選ぶ。すると、以前保存していたお気に入りの、ないし、行ってみたかったレストランやカフェを示す、花のようなアイコンが地図に表示される。

そのうちの一つは、dd食堂という、お寺の境内にあるお気に入りのカフェレストランだった。

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京都・佛光寺の境内にあるdd食堂(筆者撮影)

仏壇のある和室で座椅子に座り、京都近郊で作られた食材を用いた季節ごとに変わる食事を食べる、というユニークさがお気に入り。でも、今いる場所から歩いてすぐ行けるところにあるとは気づかなかった。今日のランチはここで食べよう。

My Ideal Map App の地図をさらに見ると、Okaffe Kyoto という以前から行ってみたかったカフェもすぐ近くにあることに気づいた。どのようなカフェだったか忘れたので、カフェの場所を示すアイコンをタップして表示されたリンクから、Notion というノートアプリに保存していたメモを表示させて見る。

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Notion に保存してある Okaffe Kyoto についての私のメモ(筆者によるスクリーンショット)

バリスタ大会で優勝したオーナーがセレクトしたコーヒーと、どら焼き風に餡子を挟んだパンケーキ、名付けて「パンどら」が売りのカフェらしい。食後に行ってみよう。

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というわけで、dd食堂で、京都産の季節の食材を用いた「京都定食」というお気に入りのメニューを注文し、

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dd食堂で注文した「京都定食」(1400円)(筆者撮影)

その後に行った Okaffe Kyoto では、とても美味しいカフェ・マキアートを飲むことができた。

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Okaffe Kyoto の「パンどら」とカフェ・マキアート(セットで900円)(筆者撮影)

My Ideal Map App のおかげで、メガネのレンズ交換のための待ち時間が、とても有意義なものになった。

My Ideal Map App を求めて続けて10年。。。

My Ideal Map App は、実は存在しない。上述の「ユーザー体験」は、私個人が過去10年ぐらいずっと夢に見てきた事。でも、未だに誰も My Ideal Map App を作ってくれない。

Google Maps は、お気に入りの場所を保存できるけれど、致命的なのは、保存した場所のメモとして文字しか入力できないこと。少なくともリンクを張れるようになれば、その場所を知るきっかけになったウェブ記事や、Evernote や Notion などの画像や動画を埋め込めるノートアプリに保存したメモにタップ一つでたどり着けるのに。。。それから、特定のタグが付いた場所だけを表示することができない(できるのかもしれないけれど、やり方が直感的にわからない)。その他、保存した場所の編集が面倒くさいし、スマホアプリ版とパソコン向けwebアプリ版との間にUIデザインの一貫性がなくて、両方使う自分にとっては操作に混乱する。その上、自分が興味のない場所をしつこく地図に表示してくるのがイラつく。

My Ideal Map App に最も近いアプリとしては、Place.guru というベルギー人が作ったwebアプリがある。数年前から使っているのだけれど、場所のリストをネット上に公開するためのアプリなので(例えばこんな風)、自分のお気に入りや行きたい場所をメモするために使うには、UIが色々不都合でストレスがたまる。その上、SSL証明書が2021年8月16日現在失効しているなど、開発者はアプリのメインテナンスを止めてしまった。

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誰が作ってくれるのを待つのに嫌気がさしたので、自分で My Ideal Map App を作ってしまおう、と思い立った。デザインもプログラミングも自分でやる。この記事のトップ画像(以下に再掲)は、My Ideal Map App で表示される予定の、色合い等をカスタマイズしたグーグル提供の地図。

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色合いをカスタマイズした Google Maps (筆者によるスクリーンショット)

なぜ、このような色合いにしたのかは、いずれ書く予定。

自分自身が欲しいアプリを作る

My Ideal Map App とは、英語で「私の理想のマップアプリ」という意味。

数年前に研究者としての仕事を辞めてから、これからどうやって生きていこうかと色々試行錯誤した結果、アプリの個人開発で食べていくのが自分の性格に一番合っているという結論に達した。UIデザインや webアプリ制作のためのプログラミングを学ぶ傍ら、アプリの個人開発で成功している人たちのブログやツイッターをフォローして、成功するための色々なコツをメモし続けている。

そういった人たちが口を揃えて言うのは、自分自身が欲しいアプリを作るのがベストだ、ということ。例えば、プログラマー向けのノートアプリ Inkdrop を開発・運営している TAKUYA さんによれば、

もし自分が何か解決したい問題を抱えていたら、そこには同じように悩んでいる人がごまんといます。僕は過去にもたくさんアプリを作りましたが、ウケたものは共通して自分の問題を解決するものでした。自分のマーケットは自分の中に眠っているという事です。(TAKUYA 2017年9月25日

プログラミングやデザインを学びたい人が、個人的に教えてくれる「メンター」を見つけることができるサービス Menta を開発した入江慎吾さんによれば、

自分が課題だと感じてはじまったものは、ニーズを知っているし、どんな物を作ればいいかも明確です。ユーザーにヒアリングしなくても知ることができるので強い。自分で使ってアップデートしていけばいいだけです。(中略)CLOUD PAPERというクラウド見積請求書サービスがあります。現在も約15万円ほどを稼いでくれます。これは自分用に作った請求管理システムを誰もが使えるようにしたものでした。(入江慎吾 2019年4月22日)

そして、note のユーザー体験をデザインしてきた深津貴之さんも

やるからには自分が一番、使い込まないとダメなんです(中略)僕自体が2003年からずっとブログを書いているので、何でうれしい、何で飛び立つ、何で心が折れて止めるといったようなことを、全部、肌感覚で知っているということが強みの一つで、自分事にできるっていうところだと思います。(深津貴之 2019年3月11日

とインタビューで語っている。

この戦略が素晴らしいと思うのは、最悪のケース、つまり、誰も自分が作ったアプリに興味を示さない場合においても、自分自身の日常は、作ったアプリによって改善されるということ。

では、自分にとって、一番「自分事」として制作できるアプリは何だろう、と考えてたどり着いたのが、Google Maps への10年来の不満から生まれた、いや、正確にはこれから生まれる、My Ideal Map App だった。

ブログでアプリ開発の経験を記録する

もう一つ、アプリの個人開発で成功した人たちが口を揃えていうことがある。ブログで自分の経験や学んだことを公表することで、自分の作ったアプリ、及びアプリ開発者としての自分を、多くの人に知ってもらうことが重要だ、と。

Inkdrop の TAKUYA さんは、こう書いている。

3ヶ月前、「MarkdownノートアプリInkdropで家賃の半分が賄えるようになりました」という記事が約800件の「はてブ」を獲得してバズりました。この記事からアプリを知った400人以上がユーザ登録をして、更にその一部の方々が課金してくださりました。(TAKUYA 2017年9月25日
アプリの売り上げがビックリするぐらい一定ペースで伸びている。ユーザ流入のほとんどはブログから。そのブログが頻繁に更新しなくても安定して集客してくれている。毎回出し惜しみせず永久保存版のつもりで記事を書いたからかもしれない。(TAKUYA 2019年3月31日)

MENTA の入江さんは、

フリーランスとして独立したとき、ネットで仕事を獲得するためにはじめたのがブログでした。ひたすらサービスをつくってブログで紹介したり、スマホアプリ開発のチップを書いたり。独立直後は仕事がなかったので自分のアプリ開発とブログしかやってませんでした。そうしている間に検索エンジンからブログに入ってきて「僕がつくったサービスをみて受託開発がはいる」というパターンができました。これもブログを書き続けてきたからこそ。ブログいいじゃん!と思ってますます更新をつづけました。ブログには本当に助けられていて、顧問エンジニアをはじめます!という記事を書いたときには、なんとその日に数社から問い合わせがあり契約に至ったのでした。(入江慎吾 2021年8月13日)

と最近のブログ記事に書いている。

実際、私がTAKUYAさんや入江さんの存在を知ったのは、彼らのブログを目にして、興味を持ったから。

というわけで、My Ideal Map App を作っていく過程を、ブログで公開することにした。ブログを書くのは時間がかかる。その分、アプリ開発は遅れる。しかし、アプリが完成したら、その宣伝のためにブログはどっちみちやらなくてはいけない。また、アプリ作成の経験を生き生きとした文章で記すには、記憶に新しい段階で書いてしまう必要がある。だったら、アプリがまだできてない段階から宣伝してしまおうと思った。

もし仮にうまくいかなかったとしても、貴重な失敗経験談になる。マスコミは成功した人にしかインタビューしないし、失敗談はほとんどの人が話したがらない。しかし、失敗談を知ることで、「失敗したらどうしよう」という不安を和らげることができる。不安は無知から生まれるものだから。

京都で英語版webアプリを個人開発する100日間

そんなwebアプリを作っていく過程を note の「マガジン」として無料公開する。マガジンのタイトルは「京都で英語版webアプリを個人開発する100日間」。十数案考えた中から選んだ。

自分が作るのは、webアプリ。iOSアプリやAndroidアプリではない。(その理由は、後日書く予定。)

そのアプリは「英語版」にする。自分の作るアプリに興味を持ってくる人が日本にはあまりいなくても、英語を話す世界中の人を相手にすれば、結構いるのではないか、と目論んで。ロンドンに五年間留学して、その後、英語で長らく仕事をしていたので、英語には不自由しない。その強みを活かさない手はない。

「個人開発」は、多くの人が興味を持つバズワードだと思ったので、「作る」とか「作成する」とか「制作する」とかよりも、興味を持ってくれる可能性が上がると目論んで。

「100日間」は、「100日後に死ぬワニ」がバズって以来流行っているので(笑)。

「京都で」とわざわざ最初に付けたのは、京都での自分の生活に基づいた「ユーザー体験」を毎回記事の前半に書いていくから。

そうすることで、My Ideal Map App で何ができるか、の宣伝になるのと同時に、初めてこのブログを見る人にとっては、私がどんなアプリを作っているのかの説明になる。

また、私個人のためにもなる。自分自身の生活に直結した具体的な「ユーザー体験」を書き記していくことで、アプリを作るためのデザインやプログラミングをしている最中に、どんな機能が必要なのかがすぐに思い出せるようになるから。

そして、京都に興味がある人が楽しんで読めるように、という目的もある。そういう人は、きっと街歩きや旅行が好きで、最も My Ideal Map App を 使ってくれそうな人だから。

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というわけで、これから100日間、色々面白いこと・参考になることを書いていきます。ご期待下さい。

注: この記事は、英語で書いた同内容の記事を和訳すると同時に日本人向けに編集したものです。

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「京都で英語版webアプリを個人開発する100日間」の記事一覧


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