美しくなった戦後日本の風景:青森県木野部海岸
日経新聞の日曜版 NIKKEI The Style。2020年5月29日の記事が、青森県木野部(きのっぷ)海岸の景観について触れていた。
浜の背後の高台から波打ち際まで続くコンクリートの滑り台のような構造物が、突然姿を見せた1990年代初めにさかのぼる。そのころ国が各地に整備していた傾斜護岸の一つで、海と親しめる親水機能がうたい文句だった。ところが、地元の漁師の評判は散々。「浜を歩くのに邪魔になるし、なにより昔から守ってきた風景が台無し。すぐにでも撤去してほしかった」。町会長を務めていた笠嶋武夫さん(86)は、今でもそのころの落胆が忘れられない。(田辺省二「「美しい土木」がつくる持続可能な風景」Nikkei The Style 2020年5月29日)
この「コンクリートの滑り台のような構造物」というのは、こういうものだったらしい(画像元:サステイナブルコミュニティ総合研究所 via Nikkei The Style)。
確かに風景が台無しである。アレックス・カーが指摘した戦後日本の景観デザインコンセプト「工場」を見事に踏襲したデザイン。
しかし、地元住民は立ち上がった。
かといって国の補助金で造った構造物を壊すのは簡単ではない。地元で話し合い、思案の末にたどり着いたのは、コンクリート護岸を一旦解体し海中に「移設」する前代未聞のアイデアだった。防災と景観保全を同時に実現する手法として自然に逆らわない「柔らかい土木」を選んだのも異例だった。
2003年に完成した新しい構造物は、正式には「低天端(てんば)幅広消波堤」という。浜から80メートルほど沖の海底に波のエネルギーを最初に受け止めるブロックが隠れている。その内側の海底に緩傾斜堤だったコンクリートを沈め、上に大小の波消し岩を置いた。人工の構造物はすべて海の中。潮が引いても水面上に顔を出すことはない。(田辺省二「「美しい土木」がつくる持続可能な風景」Nikkei The Style 2020年5月29日)
その結果、生まれた景観はこちら(画像元:Nikkei The Style)。
2006年の土木学会デザイン賞最優秀賞を獲得したそうだ。この景観に辿り着くまでの経緯は、この国土交通省の報告書に詳しい(お役所の文書なので、読みにくいが。。。)。
戦後日本の風景が美しくない理由の一つは、「工場」というデザインコンセプトに染まってしまった国の役人に、景観デザインを任せっきりにしてしまったせいなのかもしれない。
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