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いつか忘れてしまうから日記|骨つき鶏が、いつかなにかの支えに
12/24 名もない思い出が、いつか
師走ってなんでこう、忙しいのだろう。
「今年の仕事今年のうちに」的な日本文化の影響か。
わたしは特にトラディショナルではない、いいかげんな人間だけれど、その意識はある。新年は、つるりとあたらしく軽やかに迎えたい。
年を越えぬよう、急げ急げ。
千手観音のごとくタスクを片付け、いつも通りの食事の買い出しに食品売り場へ行く。肉売り場で骨つきのチキンに目が止まる。
そうだ、クリスマスイブ。
SNSの功罪か、四季折々の文化を視覚的に愛でる傾向は増していると思う。お節料理をはじめ、節句やハロウィン、お月見、柚子湯、クリスマス。国内外の文化を隔てなくおおらかに取り入れるのもまた、日本の文化なのだろう。
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わたしの実家ではクリスマスに鶏を焼く習慣はなかったけれど、そういうのもいいんじゃないか。思いつきで鶏を買ってみた。
塩胡椒をして、しょうゆ、おろしにんにく、はちみつをすりこむ。オーブンをあたため、いれる。高温で鶏が焼かれる間にスモークサーモンとブリーなどでそれっぽいサラダも作ってみる。我々は甘党ではないため、ケーキはスキップ。
帰宅した夫と息子は歓声をあげ、原始人ぽい勢いで肉を平らげた。パリパリの皮が好評で、あっというまに鶏は骨だけの姿になった。
息子に「これ、毎年やってほしい」とリクエストされる。
いいよ。
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皮をじっくり焼いた甲斐があったぜ
今年から骨つき鶏も我が家のクリスマスの新規伝統にしようと話し合う。
やろうやろう。
ー
人生は思い出づくり。
こういうちょっとしたハレの日もだけど、日々の名前のつかない思い出が最もたいせつだとわたしは考えている。
たとえば、我が家は3人とも風呂が異様にすきだ。風呂にそれぞれ本を持ち込みえんえん読む。1日に何度も風呂に入る。
だから
「追い焚きをします」
「お風呂が入りました」
女性の電子の声がしょっちゅうリビングに響いている。
おそらく、ほかの家のひとから見たらちょっとおかしいほどの頻度で。追い焚きしすぎだしお風呂入りすぎだろうよ。
そういうささいな習慣がその家の伝統だとわたしは信じている。息子が大人になったとき、ケもハレもさまざまな伝統の記憶が、なにかの支えになると、いい。
ささいであればあるほど、きっといい。
ー
12/25 号泣ガールはかつてのわたし
京都へ撮影に。新幹線を降りると京都はもはや外国なのだった。
英語をはじめ、非日本語が構内に飛び交っている。まっすぐ仕事先へ向かうつもりが改札で目が止まった。長身の女の子がひとめをはばからず、激しく泣いていたのだ。
聞くと、オーストラリアの子だった。幼い顔はまだきっと20歳前後だろう。携帯をなくしてしまい、乗る新幹線がもうすぐ来るから絶望していると言う。
改札の係のひとはたったひとりで大量の客をさばいている。彼女はもうだめだ、というかんじでますます泣いている。かわいそうに。
ああ、ちょっと遅れちゃうけど手伝おう。
仕事先に連絡する。
ー
わたしは外国のひとが困っているともれなくヘルプすることにしている。海外で親切にしてもらった経験がものすごくたくさんあるから、少しでも恩返しがしたいのだ。ちょうど彼女くらい、20歳のころのアメリカ留学中もあちこちで泣きべそをかいて助けてもらった。ただでさえ経験値が低い上に言葉もできなくて、泣いてばっかりいた。そのたびに誰かが助けてくれた。
ー
その後の世界の旅でも、数えきれないほど助けてもらってきた。
たとえば、スペインのバスク地方に仕事で行ったとき、わたしもiPhoneをなくした。警察に行くと呆れたように「iPhoneなんて高価なモノ、なくしたら5分後には道で売られていると思うよ」と取り合ってもくれなかった。むりっしょ、ってかんじで書類すら作ってくれないのだ。
わかりやすくがっくり肩を落とすわたしを不憫に思って、一緒に仕事をしていたバスク人のミュージシャンが動いてくれた。わたしの携帯のナンバーに宛て、ショートメールを送ってくれる。
「この携帯を拾ったひとへ。僕のともだちの携帯だから返してもらえたらとてもうれしい」
バスク語で書いてみたよ、と彼は言った。
それが何を意味するのか、わたしはとっさにはわからなかったのだ。
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警察にさんざん言われたあとなので、わたしはほぼ諦めていた。
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