見出し画像

グレイヘアをめぐる冒険

忘れもしない、25歳のとき。
はじめての白い髪との遭遇があった。
息を、のんだ。

ある日、遠方に撮影で早朝出発。
身支度もなかばで、とりあえず東北新幹線に乗り込んだ。
ちょっと落ち着き、髪をなんとかしようと洗面所に。
で、鏡を見た。

白い子が、いた。

目を疑った。
それまで白い子など全くの他人ごとだったから。

そこから2時間、自分の座席に戻って鏡を2枚使い
(そう、当時は鏡を2枚も持ち歩いていたのだった)
頭じゅうの髪を調べた。
その時点で確認できたのは2本のみだった。

今思えば2本なんてまぁいいじゃんと思う。
が、若いおなごにとっては、一大事。

どうしようどうしようどうしよう

抜いたら増えると聞く。
しかし、これから向かうだいじな撮影にこの白い子らと同行だなんて。
ありえん。耐えられなかった。

だから思い切って抜いて捨てた。
でも、そのショックは、捨てられなかった。

シラガ、シラガ、、、
脳内に重低音で響く衝撃とともにロケをなんとかこなした。
光の加減で黒髪が光るたびに、すわ、また白か!と怯える。
夜は、古い旅館の暗い部屋で鏡の前に座り込み、髪をずっと探った。

自然界の白はこんなにも美しい
でも、それがじぶんの頭部に発生するのはまた、別の話だ

当時のわたしの髪はアッシュに染められ、浜崎あゆみさんみたいな色だった。
ケアはてきとうで痛みっぱなしの、ぱさぱさで灰色めいた茶色の髪。


ぴちぴちである

25歳。
若さ全開の今、白髪なんて、、

信じられない思いで美容師さんに相談に駆け込んだ。ロケから帰って、その足でまっすぐ。当時は家のすぐとなりの美容院に通っていて、なにかと仲良くしてもらっていた。ねえ、どうして言ってくれなかったのよう。白い子いるってさ。

「まあ、よくあることだしね。だいじょうぶだよ」
美容師さんは切羽詰まった様子のわたしに、困ったように言った。
何がだいじょうぶかわからないけど、そう言うしかないだろう。
問題の2本はもう抜いてしまったし、まぁいっか。

でも、その後も白い毛は少しずつ増えていった。
2本だったのが5本。5本だったのがやがて、10本。
純粋に、恐怖だった。

切ったり抜いたりしながらも、ついに隠せなくなってきた。
対策を考えるようになった。

ここから、わたしの髪色との旅が始まる。


人生は旅、というけれど

いつも髪の色のことを考えていた。

30歳くらいの頃。

ダメージが気になり、ヘナを使って染めるようになった。
通っていた自然食品店に行って、買った。

当時の写真を見返す。髪が、とても黒い。ヘナをそのまま使うと強く赤く発色する。その色が好みと違い、インディゴを混ぜていたのだった。表示にはダークブラウンとあったけど、染め方が悪いのか、髪質なのか、仕上がりは漆黒という印象。光に透けるとインディゴが目立ち、わたしは紺色の輪郭をまとった。

その者、青き衣をまといて金色の野に降り立つべし
これは、ナウシカ

その者、青き髪を生やし、金色の野に降り立つべし
これが、わたし

ブラジルで調子に乗っている黒い髪のわたし
でも髪はずっと気になっている

今ではヘナを施してくれる美容院も増えたけど、当時そんなお店は広い東京でも見つけられず、不器用なわたしはひとりで試行錯誤していた。


そんなある日の撮影。
強い太陽光の下、張り切って撮影していると、ノリのいい男性の先輩に大声で言われた。

「おまえ、髪青くない? やば。 どうしたの?」


気の利いたひとことで言い返せず、無言でキャップをかぶった。撮影はなんとか笑顔で続けた。かなしかった。白もいやだが、青もいやだ。泣きたかった。

ここ数年、日本でも髪色は圧倒的に自由な空気になり、世を彩る髪は今や虹色。紺色なんてめずらしくもない。でも当時、そんな色を選ぶのはビジュアル系ってかんじのひとくらいだった記憶がある。
わたしは何系か定かではないが、ビジュアル系ではない。

もともと髪はくせがあるし量は多く、硬くて太い。三重苦、いや四重苦だ。
そこにさらに白い子だ。なんでだよ。アンフェアだ。
友人のさらさらのストレート細くて豊かなライトブラウンのきれいな髪を見ては、こっそりため息をつく。

料理のレシピに「白髪ネギ」ってでてくると、無性に腹が立った。
うるさいよ。そんな細く切れないっちゅーの。
完全な八つ当たりだ。ネギは悪くない。

常に頭に髪の色のことがあった。毎日、憂鬱だった。


どんな季節も愛せたらいい

白髪に効くって聞けば、すぐ飛びついて試した。黒い食品がいいと読めば、黒豆も黒胡麻も黒米もとりいれた。黒がどうのこうの、って高いサプリも買った。
でもとくに改善されなかった。

やがて、ヘナによるどっしりとした色味を変えたくなり、ダメージが少ないらしいヘアマニキュアに変えることにした。

その頃の白髪は、数えたわけではないけど、感覚的には100本?もっとかも?ってくらいになっていた。
もう、隠すのは限界だよ。

ここまで増えてきたら、もう隠すんじゃなくて
少しずつ見せるっていうのがいいんじゃないか

そんなきもちに変わってきていた。

若い頃からアメリカのカルチャーがすきで、彼の地の女優さんたちのカラーリングが気になっていた。ブリーチを細くいれる、いわゆるメッシュ。

ライトブラウンのマニキュアを白いところに重ねてみた。全体に散らばる明るい茶色の筋が、彼女たちのハイライトみたいに見えるのでは、と。

でも、想像とは違い、ダークブラウンもしくは黒ってかんじの髪色が続いた。黒髪にもしっかりマニキュアの色が乗って暗くなってしまったのだ。

全体に暗い髪の中に白い毛が2mmでも出現したらそれは、
紅一点ならぬ、白一点
というかんじでものすごく、目立った。

「群鶏の一鶴」
は、凡人の群れの中に優れたひとがすくっと立っていて目立つさま、
だが
黒い髪の群れの中に白い髪がすくっと目立つさまは、ちっともうれしくない。

もうやだ。
転機が訪れた

ここから先は

3,060字 / 3画像
この記事のみ ¥ 300

チップでの応援ありがとうございます。いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!