落とし噺の話【紀伊國屋寄席】
落語を聴くには東京都内ですと新宿末廣亭や上野鈴本などの定席寄席や、大小のホールでおこなわれる所謂「ホール落語会」などの方法があります。
最近は、人気のある噺家が出演する落語会は客席数1,000人規模の大ホールでおこなわれることが多くなりました。
そんな中、客席数418席という中規模のホールで長年続いているのが、「紀伊國屋寄席」です。
新宿紀伊國屋本店ビル内にある紀伊國屋ホールで月に1度開催されています。
先月、7月の会が第673回とのことなので、月に1度として数えると56年間続いていることになります。
私も毎回欠かさずに通っていた時期が5年ほどあります。
紀伊國屋寄席の一番の魅力は、実力のある噺家の噺を一人あたり30分前後、或いはそれ以上たっぷり聴けることにあります。
私にとって「宝物」とも言える会は昭和53年(1978年)8月の会です。
入船亭扇好 たらちね
林家正蔵(先代) 百人坊主
古今亭志ん朝 鰻の幇間
(中入り)
金原亭馬生(先代)夏の医者
柳家小さん(先代)ちりとてちん
三遊亭圓生 湯屋番
開口一番の扇好は今の扇遊。
そこからして豪華な顔ぶれでした。
晩年は「鰻断ち」をしていたという志ん朝さんの「鰻の幇間」。
後にも先にもあんなに笑ったことはありません。
手土産まで持ってゆかれ、唇を震わせながら泣きべそをかく一八の表情は今でも忘れません。