にしんの骨
娘が学校から帰ってきて、
「給食のにしんの骨が喉に刺さってる」
と顔をしかめた。給食ににしんが出るのか。
ぼんやりとFさんの顔が頭に浮かぶ。
福井駅の近くににしんの美味しいところがある、と得意げに話していたFさんの声がそのまま耳の奥に残っている気がした。
あまりにも鮮明すぎてまた会えるような気がしてしまう。
Fさんが亡くなってから何年経っただろう。
飼っていたミニチュアダックスフントと一緒に車の中で亡くなっていた。
うちの母や父に借りたお金も返さずにFさんは逝った。
例えば、仕事が続かなくても、お金がなくても、誰かに愛されてると思えなくても、ときどき自分なんて要らないかもな、と思ったりしても。
まぁ、それでも生きていくか、と思えるような社会になればいいなぁとFさんが亡くなったとき、思った。
そんなにすまなさそうな顔しなくても、背中を小さく丸めなくてもいいんじゃない?
ときどき、うちでご飯を食べて、ふいっとどこかに行って。息子と釣りにいく、って嬉しそうな顔したりして。
選挙は大好きで活き活きしてたなぁ、あの人。
風が強くて空気が冷える。刺すような夕陽もあっという間に消えていく。
アクの強い人はなかなか忘れられへんな。
もう残ってないのに、喉元にまだ引っかかってるような気がする。
あんな感覚。
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