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うだうだと日常~洗濯機

仕事場で洗濯を任された。レンタルで戻ってきた着物や袴、襦袢の洗濯である。前に働いていた同じ業種の仕事のときも洗濯はやっていたけれど、縦型の家庭用の洗濯機だったので、自宅で洗濯する手順となんら変わりはなかった。
今回はコインランドリーにあるような業務用の大きなドラム式洗濯機だ。
電源を入れて開始ボタンを押すだけ。洗剤の投入もいらないし、洗濯コースの設定もいらない。大量の洗濯物を両手で流し込むように入れていく。頭が中へ入る。
広い。
膝を曲げれば、人ひとりくらいは楽勝で入るだろう。
普段、コインランドリーにあまりいかないので、この大きさは新鮮だった。
ここに閉じ込められたら怖いだろうな。絶対嫌だな。
穴のあいた金属の壁をずっと眺めていると想像するだけで気が狂いそうになる。
大きいのに、割と静かな洗濯機だった。出来上がるとピーっと三回鳴った。
洗い終わった洗濯物を今度は隣にある乾燥機へと入れていく。これも同じくらい大きい。
おばちゃんが言った。
「これは終わったら音がなるから、停止ボタンを押してね。そうでないと、ずっと回り続けるねん、これ」
「そうなんですか」
終わっても回り続ける。
機械も人も、動いているもの、特に回っているのものは急には止まれないのかもしれない。きっと地球が爆発しても、チリやなんやらはしばらくその周りを浮遊して回っているのだ。地球が回っていたのと同じスピード、同じ軌跡で。

また、検品の作業に戻る。乾燥が終わったら干す作業が残っている。それまではひたすら着物や袴の検品をする。
停止ボタンを押さなければならない。なるべく早く停止ボタンを押したいなとわたしは思う。早く止めてあげたい。
なぜそう思うのかわからないままに、乾燥の残り時間の表示された赤い電子文字をときどきチラリと見ながら、わたしは手を動かし、目を動かす。
ゆっくりと時間が過ぎていく。



〇イラストはみんなのフォトギャラリーからお借りしました

#エッセイ #仕事 #洗濯機 #クリーニング #着物

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