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急な泊まり

妹のタネカラプロジェクトに参加した帰り、妹の家でちょっと仮眠してから帰ろうと思ったら、局所的な雨に見舞われた。
「道が危ないからお姉さん今日は泊まっていったほうがいいよ」
近所のおばちゃんがわざわざ妹に電話をくれた。
「そうしたら?」
妹は言うけど、普通に平日だし、明日の朝みんなのお弁当を作らないといけないよなぁと思いながら夫に電話してみる。
「なんとかするわ」
案外あっさり承諾してくれた。
というわけで着替えも化粧品もパジャマもないけれど、妹の家に泊まることになった。前に泊まったのは何年前かの夏だった。クーラーのないこの家で頑張って小説を書いていたような気がする。
追い炊き機能のないお風呂に入り、借りたパジャマを着ている間、妹はホルンを吹いていた。
スピーカーから流れるクラシックは誰かの弾いているギターだった。
雨は夜には止んで、川が増水しているというので妹と近所のおじさんと橋まで見にいった。なるほど、カフェオレみたいな色の水がざんざか流れていて、もう少しで縁まで届きそうだった。
家に戻り、ハーブティーを飲みながら二人で話した。途中で音楽を挟んでまた話した。妹は炭酸水でウィスキーを割り、わたしは炭酸水をそのまま飲んだ。眠りたくないような夜だった。
妹が用意してくれた布団に入ると足に何か固いものが当たって、見てみると栃の実だった。
「ねずみの仕業かな」
妹は何でもないようにそう言った。

朝方、バリバリという音で目が覚めた。外で何ものかが何かをバリバリしている音。気になって妹を起こすと、
「え、お姉ちゃんの音かと思ってた」
と言うので、わたしがどうやったらあんな音を出せるんだよと思ったが言わなかった。
朝、起きて外を見たけれどバリバリの痕跡はなく、結局わからなかった。
雨は止んで雑草がしっとりと濡れている。鳥がたくさん鳴いていた。
大事だと思う人を大事にしたい。
当たり前のようなことを強く思った。そのことがどうしてか愛おしく思えて、いつまでも抱きしめていたい気持ちになった。

京都に戻ると、朝に出して欲しいと頼んだゴミは違う場所に出してくれていたので未回収だったし、洗い物はそのまんま残っていた。食べてほしかったお肉は賞味期限が切れていた。
それでもいいと思った。
久々に深い呼吸ができた気がした。



#エッセイ #妹 #泊まり #古民家


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