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先日のnoteに「シナトレ」のことを書いた。

以前日記で連載していた「シナリオ・トレーニング」略して「シナトレ」。埃をはらえば、今も誰かの創作意欲をくすぐることができるかも。

ということで、2007年10月27日(土)の日記に書いたシナトレ7 紙コップの使い方100案をnoteに。


コピーライターの入社試験

日記は脳味噌の外付けハードディスクに圧縮保存された過去。読めば解凍され、記憶が蘇る。

日記を書いた前日の2007年10月26日、愛知工業大学での出前講義で、発想力を筋トレする「一人ブレスト」の例題として取り上げたのが「紙コップの使い方」。

わたしが就職した広告会社マッキャンエリクソン(当時は後ろに博報堂がついていた)のクリエイティブ部門の入社試験に出た全3問の最初の1問だった。

  1. 紙コップの使い方を思いつくだけ挙げなさい。

  2. 12色そろった地下足袋のネーミングとキャッチコピー」を思いつくだけ書きなさい。

  3. 『馬の耳に念仏』の解釈を1000字以内で書きなさい。

試験の前夜、対策のために発想法の本を読んだ。そこにアイデアをひねり出すコツが書いてあった。

アイデアは組み合わせである。たとえば、あるモノの使い方を考えるとき、そのモノとは別なモノをどんどん思い浮かべて、こじつけでも組み合わせればよろしい。

そんなことが書かれていた。

ヤマが当たり、わたしは答案用紙を「紙コップの使い方」で埋め尽くすことができた。紙コップから発想するとすぐに行き詰まっていたはずだ。紙コップから離れたものや設定と組み合わせることで、答えをどんどん出せた

その年のコピーライター採用は2名。数は少ないが質の高さが光るサイトウ君と、「質はそこそこだが、数はハンパない」わたし。競争率100倍を超える試験を突破できたのは、紙コップどかどかのおかげだと思う。

タイトルを思い出せない発想本の著者の方にお礼を伝えたい。

まずは100案ひねり出せ

その発想本には「まずは100案ひねり出せ」とあった。

100案出そうとしたら、離れ業や飛び道具が必要になってくる。そこに突拍子もない発想が生まれるチャンスがある。頭をやわらかくする体操をしながら跳躍の機会をうかがえというわけだ。  

入試試験は3問を3時間で答えるというものだった。そんなに集中力が持ったのだろうか。将来を懸けた勝負に若さと意地で食らいついていたのだろうか。

大学4年生だったわたしは入社試験で100案をひねり出したと思われるが、今もそれができるだろうか。

2007年10月26日、コピーライターを経て脚本家になったわたしは、東京から名古屋へ向かう新幹線の中で、「やってみよう」と思い立った。

若さと体力は衰えたけれど、発想力は鍛えられている自負はある。過去の自分に挑戦するつもりで、名古屋到着の45分前あたりから一人ブレストを始めた。

あちこちに置いてみる

まずは基本から。頭の中でキッチンのテーブル周りに紙コップを置いてみる。このとき、ビジュアルをできるだけ具体的に思い浮かべるのがコツ。

ドリンクを飲む 
スナックを入れる 
唐揚げを入れる 
野菜スティックを立てる 
かき氷を入れる 
計量カップにする 
調味料をまぜる 

残りものに虫がつかないように
蓋をする

虫をよけるのと逆の発想で
虫をつかまえる 
虫かごにする

紙コップを食器棚や冷蔵庫やオーブンに移動させて
醤油さしを受ける 
辛子チューブを立てる 


そうだ、前にこんなことがあったと思い出した。
しゃもじにする

それがありならこれもありだろうといもづる式に
スプーンにする 
おたまにする 
マッシャーにする 
めん棒にする
ごはんの型を抜く
ゼリーを固める 
カップケーキの型にする
 

型を抜くといえば、
クッキーの型を抜く 
粘土の型を抜く

キッチンから洗面所に移動して、
薬を飲む 
歯みがき 
うがい 
入れ歯入れ 
コンタクトレンズ消毒

書斎に移動して、
ペン立て 
メガネ立て 
携帯立て 
クリップ入れ 
絵の具バケツ 
画鋲ホルダー(差して保管)
  

形を変えたり展開したり

穴を開けて
穴杓子にする 

プラネタリウム 
シャワー 
じょうろ 
水切り網 
粉ふるい
 

口の部分が円になっているのを活かして
円を描く  

展開して平面にしたら
鍋つかみ 
鍋しき 
皿 
うちわ

苦しいけれど、やれないこともない
しおり 
ブックエンド
 

ちょっと変化球で
面積を求める 
体積を求める
 

紙という材質を活かす
メモ帳 
便せん 
キャンバス 
スクリーン 
名刺(パーティで名刺ないときに名前書いて渡す人、いるいる)
 

加工するなら
ステンドグラス工作

表面に印刷して
広告媒体

そういえば、この形は何かに似ている。
ランプシェード

その場合、底の丸は抜いたほうがいいかも。その形は、
人形のスカート 
メガホン

屋外に移動してベランダへ
バケツ 
スコップ 
植木鉢 
植物の名札 
ふるい 
落ち葉を集める

連想ゲームで積み上げる

植木鉢の鉢つながりで
金魚鉢 
金魚をすくう(昔、死んだ金魚をすくった)

落ち葉を集める、から基本を思い出して
ゴミ箱 
ちりとり 
灰皿 
検尿

ベランダの花を活けなくちゃ
花瓶

他にベランダで使うものといえば
キャンドルホルダー 
洗濯バサミ受け

キャンドルといえば
キャンドルを固める

固めるといえば
雪を固める 

雪といえば
雪かきシャベル 
雪だるまの帽子

かぶりものつながりで
鼻にする 
耳にする 
さるぐつわにする 
角にする
目隠しにする 
大切なところを隠す
 

身に着けるものつながりで
腕輪
首輪
足かせ
ギブス

おもちゃにするのを忘れてた
手品
糸電話
丁か半か
輪投げの的
転がす
蹴る
投げる
犬のおもちゃ(歯がため)
赤ちゃんのおもちゃ
ドラム
音が鳴るものを入れてつなげてマラカス

こじつけで100案にのせる

重複してるっぽいものも多いので、余分にもう少し。

中の詰め物をぎっしりにしたら
ダンベル 
まくら 
重石

ひっくり返して
アリ相撲の土俵
ネズミの傘
小人のテーブル

そうか、使う人がうんと小さかったら、まだまだ出てくる。
小人の船
小人の風呂
小人のプール

守る系
割れものを守る
ラッピング材  
音響をよくする

苦しくなると、こんなのが出てくる。
部屋を飾る
並べてベッド
サンドバッグ(ストレス発散) 
肘置き 
紙吹雪 
リサイクルする
燃やして暖を取る
灰を肥料にする

こじつけついでに
ドアストッパー 
家具の転倒防止ストッパー

ふさぐつながりで
シューキーパー 
穴をふさぐ
 

17年後の不戦敗

「これで121案」と書いている。数え直してはいないが、100案は余裕で超えた様子。

《大学を出てコピーライター時代を経て脚本を書くようになってからもブレスト道場で百戦錬磨したおかげで、頭はさびついてない様子。視点をどんどん変えていくこと、連想でどんどんつなげていくには持ちネタの引き出しの数がものを言う。その引き出しが年の功で充実してきたようだ

と日記に書いた2007年10月からさらに時は流れた2024年6月。若さと体力は衰えた分、発想力は鍛えられているはずだが、17年前のこじつけ100案超えを見ると、昔のほうが断然頭がやわらかい。

挑戦するまえに完敗。

当時は出なくて今なら思いつく紙コップの使い方も、ないことはないけれど。膝頭にかぶせる膝カバーとか。

以下、17年前のわたしからのアドバイス。大学への出前講義の後だからか、先生モードになっていて、我ながらえらそうだ。

まだ引き出しが少ない場合は、雑誌や新聞やネットを脳みその出張所に使えばいい。雑誌のページをアトランダムに開いて、紙コップを置いてみる。花のページなら花瓶、魚のページなら金魚鉢、車のページなら灰皿、という風に、そのページにあるものと紙コップの接点を見つけていく。

大事なのは、出てきた答えよりも、それを引き出す過程。脳みそに嵐を起こして、在庫確認と整理をしつつ使える情報を選び取るブレーン・ストーミングの作業は、頭の引き出しを使いやすくする。脳のウォーミングアップにかかる時間が短くなり、エンジンがかかるのが早くなる。

こじつけでもひとつのモノの可能性をつきつめて考える練習をしておくと、「新製品の売り出し方法」などに応用したときにもひらめき確率がアップする。脚本を書く場面では「主人公の職業」「男女の出会い」などを何通りものパターンから選びとる作業が発生するが、そんなとき、短い打ち合わせ時間の中で光る組み合わせを思いつく瞬発力がモノを言う。

学生だったら、入社試験の制限時間内に最大限の発想力を発揮しなくてはならないという状況の時に、筋トレの成果が出る。「消しゴム」「手ぬぐい」「縄跳び」など、身近にあるものを例題にやってみると、めきめき力がつくこと間違いなし。

《まだ引き出しが少ない場合は、雑誌や新聞やネットを脳みその出張所に使えばいい》は、わたしの書いた小説「ブレストガール」にも登場するアイデア出し方法。

能登のジェラート屋さんの紙カップ

写真フォルダで「紙コップ」を検索して掘り出したタイトル画像は、能登の七尾市にある能登ミルクのジェラート屋さんの店内で撮ったもの。

昨年12月、七尾市で開かれたアジア・ドラマカンファレンスに参加した際、プログラムの合間に日本からの参加者たちとメイン会場の「あえの風」近くを散策し、立ち寄った。  

「能登ミルク」のタイポグラフィーをはじめ、お店まわりのデザインやキャラクターがとても愛らしく、いつもは食べることに夢中になると写真を撮るのを忘れてしまうのだが、珍しく何枚か撮っていた。

店の外にある長いベンチにぐるりと腰かけてジェラートを食べた。わたしが選んだのは能登いちじくで、おかわりしたくなるほどおいしかった。

空は晴れ、12月とは思えないほど穏やかで温かい昼下がりだった。

「能登は今」のきっかけ

それからひと月も経たない2024年の元旦、能登は地震に見舞われた。

ジェラート屋さんはどうなっただろう。

「能登ミルク」のサイトを見ると、「リバイブ」していた!

4月26日金曜日AM9:00〜
和倉温泉「能登ミルクファクトリー本店」がリバイブします!
これから能登ミルクは、変わらないまま変わっていきます。ここからが始まりです。
皆さまのご来店お待ちしております

カンファレンス会場になった「あえの風」もわたしが宿泊した「ホテル海望」も甚大な被害を受けた。ときどきサイトを見にいくが、まだ再開のお知らせは出ていない。

「あえの風」は加賀屋の姉妹館で、加賀屋のオンラインショップは営業している。

旅の思い出を手繰り寄せ、遠い町に想いを馳せるきっかけ。紙コップには、そんな使い方もある。

目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。