脚本家は「つなげる」のが仕事(出張いまいまさこカフェ1杯目)
2006年9月から5年にわたって「buku」という季刊フリーペーパーにエッセイを連載していた。
タイトルは「出張いまいまさこカフェ」。
bukuは池袋にある8つの映画館(当時)で作る「池袋シネマ振興会」が発行していた。毎月29日はbukuを持って行くと映画を1000円で観られる「buku割」があった。
「読みました」と声をかけられることが多く、発行部数に対して愛読者がとても多かったのではと思う。
編集者の北條一浩さんが、まず最初の読者として面白がり、感想を寄越してくれた。それが毎回楽しみで、励みになった。今でも人の原稿を読む側になるとき、北條さんの「感想力」を思い出す。
連載開始からあっという間に15年。原稿を読み返すと、変わってないなと思うところあり、こんなこと言っていたのかと意外に感じるところあり。昔の自分にあらためて気づかされることもあったので、22杯の連載を1杯ずつnoteで紹介することにした。
脚本家は「つなげる」のが仕事 今井雅子
映画を観るとき、クレジットの「脚本」に目を留める人はどれぐらいいるだろう。
わたしも脚本家になるまでは、ほとんど意識したことがなかった。読む。考える。話す。書く。悩む。捻る。喜ぶ。落ち込む……。脚本家がすることを動詞で並べてみたのだが、自分の体験を片っ端からネタにしていく生業だから、ありとあらゆる行動、動作が仕事につながっていたりする。と書いてみて、脚本家の仕事を一つの動詞に集約するとしたら、「つなげる」はどうだろうと思いつく。
小さな新聞記事から一本のストーリーを膨らませる。原作と自分の人生と照らし合わせ、見つけた接点をとっかかりにして肉付けしていく。打ち合わせで出た意見を化学変化させ、新しいエピソードを紡ぎ出す……。脚本を書く作業は連想ゲームに似ている。
でも、どんなに発想が優れていても、作品は一人では作れない。縁やコネを作ることも、脚本家の大切な仕事である。わたしの場合、一本目の映画『パコダテ人』から五本目の『天使の卵』まで、わらしべ長者のごとく、人から人への紹介でつながっている。一度仕事をした人がまた声をかけてくれたり、作品を観た人が興味を持ってくれたり。そのつながりこそ、脚本家であり続ける命綱である。
縁を受け止めるアンテナを張っているせいか、面白い偶然に恵まれることが多い。極め付きは、NHKで放送された『真夜中のアンデルセン』の脚本を依頼されたとき。市村正親さん扮するアンデルセンの生まれ変わりのバーテンダーが『人魚姫』の世界を一人芝居で演じること、都内のバーでロケ撮影することが決まっていた。
そのバーは、広告会社のコピーライターだったわたしが洋酒のカクテルブック作成のために取材したお店。しかも、店の壁に掲げられていたのは人魚の絵。なんとも出来すぎ、でもこれホントの話。
『天使の卵』の仕事も縁を感じるはじまりだった。わたしが持っている唯一の作家サイン本が村山由佳さんの『翼』。新聞の読者プレゼントで当選したもので、「今井雅子様」とあて名も入っている。その本を久しぶりに開いた数日後、「村山由佳さんの小説の映画化なんですが」と依頼が舞い込んだ。
そして、このコラムを書くきっかけも、『天使の卵』。今号からbukuのデザインを手がける名久井直子さんは、同じ会社で席を並べた仲なのだが、今号の特集が『天使の卵』だったことから、「この脚本書いた人、友人なんです」と編集の北條さんに伝えたところ、「じゃあ紹介して」と話が運んだのだった。
そういうわけで、ページの前のあなたと出会ったのも、何かの縁かもしれない。
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2023.2.27 宮村麻未さん
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