漁師のリカコさん脚本塾①「入口と出口を作る」
脚本は「書きぐすり」
「脚本て、どんなんか読んでみたい」
Clubhouseで出会った漁師のリカコさんにそう言われ、ユニバーサル・オーディション「ルーツ」から生まれた「私じゃダメですか?」の脚本をnoteで公開したのが3月のこと。
4月になって、その脚本をテキストにClubhouse脚本塾を開いた。「またやりましょうね」と言ったときに、リカコさんに聞かれた。
「今井さんは、なんで脚本を教えたいんですか?」
「なんでやろ」と考えた。リカコさんは明石の人で、わたしは堺出身なので、二人で話すときは関西弁になる。
「わたしは、誰でも何歳からでも脚本は書けると思っているんです。そこらへんに転がっているネタを磨いてみんなで楽しめる作品にするのが脚本で、脚本という表現を知ったら、なんでもない日常がネタの宝庫になるんです。外国語を覚えるように、俳句をたしなむように、脚本に親しんだら、それだけで毎日が楽しくなるし、脚本を書くことで楽になったり、救われたり、『書きぐすり』になってくれるんですね。脚本の書き方を身につけると、自分で自分に書きぐすりを処方できるようになるんです」
そんな話をしたら、「書きぐすり、いいですね。脚本の書き方をじっくり学んでみたい」とリカコさん。だったら、何回かにわたってワンシーンずつ書き進め、書き上げた脚本をClubhouseで上演しましょかとなり、5/5に第1回を開いた。
脚本を書きたい漁師のリカコさん🎣×脚本家・今井雅子✏️自分で書ける力をつける塾💪第1回「入口と出口を作る」
脚本の教え方は様々。わたしは独学でコンクールに応募してデビューし、現場で「どこで習ったの?」と呆れられながら教わってきたので、「どう書くかよりも、書きたいことがあるのが大事」で「技術は後からついてくる」と考えている。脚本はあくまで「書きたいことを伝える手段(書式)」。外国語を学んで、知っている単語や文法が増えたら、自分の頭の中にあること、言いたいことがどんどん伝わりやすくなるように、「脚本にしたら伝わる!」楽しさ、手応えをまずは知って欲しい。
リカコさんに提出してもらった宿題をテキストに進めた。
リカコさんの宿題「書きたいこと」
「なかよし別居」
リカコと漁師のヒデちゃんは結婚生活 35 年。漁師の暮らしはすべて沖が中心。男が中心。 跡取りの長男、大家族の目の中で、甘い新婚生活は皆無。同じ布団で朝まで寝たことはない。 リカコは、忙しい暮らしの中で いつになれば穏やかな落ち着いた二人の時間が過ごせるようになるのかと常々思っていた。5 年前、ヒデちゃんの父(82歳)が弱ってきた。 夫婦で同居を申し出たが、老父は拒否。理由は、ガールフレンドとのデートの度にどこへ行くのかリカコに尋ねられるのが煩わしいからだった。徒歩 3 分の距離。食事だけはリカコが作り、ヒデちゃんが運ぶ。洗濯、掃除、エトセトラ。初めてのことばかりで戸惑い、ハチャメチャどたばた劇を繰り返すヒデちゃん。けれども意地でも手を出さないリカコ。そのうち老衰のため、爺は 87 歳で他界。晴れてふたりの落ち着いた生活が始まると思いきや、ヒデちゃんからまさかの現状維持宣言。食事は一緒にするが、あとは別に暮らしたい。理由を言わないヒデちゃんに、4 人の子供達は妄想を膨らませてオオワラワ。 あんなに依存心が強くて、リカコに全投げしてきた人が 今更プライバシーを確保したいとは、一体全体どゆこと?まさか亡き爺のごとく?すわ、一大事。連絡網で招集かかり、乳幼児まで参加の大家族会議が始まった。 詰め寄られ、脅かされてもなかなか口を割らないヒデちゃん。 そのうち腹が減ってきて、しぶしぶようやく語られたヒデちゃんの本心とは・・・それは、まさかの、リカコ歯ぎしり&イビキ問題!子供の誕生日も覚えてなくて、銀婚式も忘れていて、舅姑にいじめられていてもかばわず気遣いなど一切したことがなかったヒデちゃんがリカコに対して初めてみせた優しさ。 「イビキがうるさいから一緒に寝られないって、女性に失礼かと思って言えへんかった。」一同、一瞬の沈黙の後、大爆笑。のち、ワンカルビで牛塩タンコースを会食。 終。
脚本を書くのは初めてというリカコさん。なのに、ぐいぐい読ませる。本人が読み上げたら、さらに面白い。起承転結がハッキリしていて、このまま使えるプロット(ドラマの骨組みがわかるあらすじ)になっている。
この筋道に沿って、脚本開発を進めていきましょう‼︎
ラストまで続く1本道をイメージする
「筋道」の中には「道」がある。今回のテーマは「入口と出口を作る」。
入口(出だし)から出口(ラスト)まで続く一本道を想像して、その道に沿って人物やエピソードを置いていくと、話がブレない。「何やりたかったんだっけ」と登場人物たちを路頭に迷わせたり、立ち尽くしたりさせないよう、入口と出口を意識して、一人一人に役割を持たせるのが大事。
「入口と出口」の例を挙げてみた。「Before After」と言い換えると、わかりやすいかも。
片想いが両想いに(告白/プロポーズ)
犯人が捕まる/自供する
謎が解ける
秘密を打ち明ける
試練を克服する(病気/困難/倒産の危機/親の反対)
部屋から出る(引っ張り出す/脱出)
壊れた宝物が直る/探し物が見つかる
仲直り(元サヤ/和解/誤解が解ける)
泣いていたのが笑顔になる
絶望から立ち直る
脚本を書くというのは、無数にある選択肢から一行一行を選び続けるということ。人生も選択の連続だけど、登場人物の人生を書き手の選択が握っている。
そして、脚本の一行一行は時間。セリフの一行、ト書きの一行の間に、作品の中で一行分の時間が流れる。その時間をどう描くかを指示する設計図が脚本。誰がいて、何が必要で、時代はいつで、季節は、時間帯は……一行で時間を飛ばすこともできるし、実際には一瞬の出来事に十行を使ってじっくり描くこともできる。
無数の選択肢から何を選び、登場人物に何をさせ、誰と出会わせ、ドラマを運ぶか。そこに書き手の色が出る。
「何を書きたいか」「なぜ書きたいか」
ここで大事なのは「書き手の意図」。この脚本を書く原動力は何なのか。コンクールでデビューのチャンスをつかむときも、番組に提案するときも、映画の出資者を口説くときも、生みの親の想いが脚本に込められていることが、突破力になる。
リカコさんには宿題で「この話を書きたい理由」と「内容を一行で表すなら」も書いてもらっていた。
【この話を書きたい理由】
この 30 年間で人々の暮らしや価値観、夫婦や親子の関係も大きく変化した。 標準、平均、普通がどこにあるのかもうすでにわからない。 親が他界したことにより、ある意味縛りがなくなった 50 代の私達が これから何を捨て、そして新たに選び生きていくのかを 家族や親しい人々にからめて書き残しておきたい。
【内容を一行で表すなら】
風習や習慣を取捨選択し、改善及び微調整、まず家庭内
あらすじに比べると、言葉がカタい。絞り出したのがうかがえる。
漁師の長男の嫁リカコさん。50代にして、4人の子どもは独立し、孫もいる。「夫の父親が他界し、子どもも巣立った。やっと夫婦二人の人生が始まる」というタイミングでの「夫からの別居宣言」をきっかけに「これからどうやって生きて行こう」と揺れたり、「今までの人生はなんだったのか」と振り返ったり。雨降って地固まるハッピーエンドを迎えるまで、主人公リカコと一緒に翻弄されて、自分の家族、自分の価値観に思いを馳せる。そんな物語になればいいだろうか。
書き手の意図が集約されたものが、タイトル。「仲良し別居」は相反する言葉を組み合わせ、ネーミングセンスを感じるが、ネタバレになってしまっているので、最後まで書いた上でタイトルをつけましょうと話した。
宿題 出だしのシーンを書く
脚本全体の「入口と出口」とシーンの「入口と出口」を意識して。ヒデちゃんの父が亡くなった後、やっと夫婦一緒に暮らせると思っているリカコ。別居を続けたいヒデちゃんにショック‼︎
1週間後の第2回に向けた宿題なので、週が明けた頃までにと思ったら、翌朝には提出されていた。夜のうちに数時間で書き上げたらしい。脚本を書いたことのない漁師のリカコさん、ただ者じゃない。
続き(第2回)はこちら。
目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。