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南瓜を「なんきん」と読むのか問題
「なんきんって読まないよな」と夫が首を傾げた。
ある人が「南瓜」を「かぼちゃ」ではなく「なんきん」と読んだことが引っかかっている。
当て字の「かぼちゃ」と「なんきん」
「当て字なんだから、いいんじゃないの?」とわたしは言う。
西瓜と書いて、「すいか」みたいに。
南瓜と書いて、「かぼちゃ」みたいに。
それは納得できるのに、「南瓜と書いて、なんきん」は納得できないらしい。
ネットで調べてみると、「なんきんとも読む」と許容されている様子なのだが、夫は許容しない。
「瓜って、きんって読まないよね?」
なるほど。「南」だけ合っているのが気になるのか。
「南京玉すだれの『きん』は京だよね?」
「南京かぼちゃ」を略して「なんきん」と呼ぶようになったから、確かに、漢字で書くとしたら「南京」が正解なのだろう。だが、「南瓜」を「なんきん」と読むのも、当て字としてはありということになっている。
「関西だと、かぼちゃのこと、なんきんって呼ぶほうが多いし、南瓜と書いてなんきんって読むのは自然なんだけど」
わたしがそう言うと、
「え? 『なんきん』って『かぼちゃ』のことなの?」と夫が驚いた。
「え? なんきんを知らなかったの?」
こちらが驚いた。
生まれも育ちも東京の夫は、かぼちゃに「なんきん」という呼び方があることを知らなかった。言葉として知らないのだから、南瓜を「なんきん」と読んだのを聞いて、「瓜」が読めなくて「きん」と読んだのかと思い、「瓜はきんとは読まないのでは」と引っかかっていたのだ。
じゃあ、いもたこなんきんの「なんきん」を何だと思ってたの?
その質問をぶつけると、
「いもたこなんきんの『なんきん』って、かぼちゃだったのかー!」
夫は雷に打たれていた。いやいや、こっちがカルチャーショックやわ。
パリピのパリはParisじゃない
でも、そういうことってある。
見たり聞いたりしたことはあっても、意味に焦点が当たらないままやり過ごしてしまう言葉。外国語の単語でよく起こる現象が日本語でも起こりうる。
「パリピ」という言葉をあちこちで見かけるようになり、なんだかよく見るけど流行っているのかな、などと思いつつも意味を深く考えていなかったある日、打ち合わせにパリピが出た。
「このキャラクターはパリピな感じで」
パリピな感じ、とは?
パリピというからにはパリのピなのだろう。ピはたぶんピープルなのだろう。パリのピープルといってもパリ人のことではなくて、パリっぽいノリの人のこと、なのかもしれない。
「やっぱりパリに行かせます?」と言うと、
「パリピなだけに?」
なぜか笑いを取ってしまった。
パリピのパリはパリのことじゃないのに、駄洒落でウケを狙ったと思われている、のか。
party peopleがなまって「パーリーピーポー」になり、略して「パリピ」になったと後で知った。「パリなpeople」と思っていても微妙に話が通じてしまうから、周囲に違和感を与えつつも意味を誤解したままになりかねないのがこわい。
イベリコ豚を「いびり子豚」と覚えていた知ったかぶりしていた人がいたが、「面白いから教えないでおこう」と誰も訂正しなかった、という話を聞いて、脚本のネタにしたこともある。脚本ごとボツになったが、いつか使いたい。
金のわらじの「金」とは?
知ったかぶりは、「知らない」に「勘違い」が乗っかる分、カッコ悪い。
自分が知らない漢字の読み方や言葉に遭遇したら、その人が間違えたのではなく、自分がその言葉を知らないか、勘違いしている可能性を疑ったほうがいい。
間違いを指摘したつもりが、無知をさらけてしまうことになりかねない。
特に、自信のある分野ほど勘違いを起こしやすい。
わたしも物書きを生業にしているので、漢字の読みは強いほうだと思っているが、結構間違えて覚えているものが多い。わたしの作品を朗読してくれた人が「随一」を「ずいいち」と読んだので、「ずいいつ」ですよと訂正すると、「ずいいち」で合っているようですがと当惑された。
唯一に引っ張られて「ずいいつ」だと思い込んでいた。自分の書いた作品に出てくる漢字の読み方を間違えていた。
気づいた時点で勘違い記録更新を止められる。知っているようで間違えている言葉は、きっと他にもまだまだあるのだろう。特にわたしはそそっかしい上に思い込みが激しいから要注意だ。
先日も、そんなことがあった。amazon audibleで本を読んでいたら、「金のわらじ」が出てきた。
いま、「金のわらじ」を「金のわらじ」と読んだ! せっかく上手なナレーションなのにもったいない!
「間違ってますよ」とamazon audibleに知らせる前に念のため調べてみたら、「金のわらじ」で合っていた。「金」はゴールドではなく鉄のことで、たくさん歩いてもすり減らない丈夫なわらじという意味らしい。
「間違いを見つけた!」となった瞬間、見つけた自分が正しいという思い込みに囚われてしまうのかもしれない。相手の間違いを正してあげなくてはというお節介な気持ちが正義感となって膨らみ、「もしかしたら自分が間違えているかもしれない」という疑いが入り込めなくなってしまう。
漢字の読み方のように調べれば白黒がすぐわかるものはまだいいが、諸説ありのものは厄介だ。ファクトチェック、大事。
タイトル画像はカメラロールで「かぼちゃ」を検索して掘り出した台湾の花市場で撮ったカゴ入りの南瓜。
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