メイク・ア・ウィッシュの大野さん
「メイク・ア・ウィッシュの大野さん」の名前を立て続けに見た。
1回目は週刊文春で。
2回目は朝日新聞で。
名前を目にした瞬間、「メイク・ア・ウィッシュの大野さん!」と驚きと懐かしさで声が出た。
「メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパン(Make a Wish of Japan)の大野寿子さん」とは小さなご縁がある。
アンパンマンとピカチュウとウルトラマンとハム太郎とドラえもん
わたしが勤めていた広告代理店マッキャン・エリクソンがメイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパンのPRに関わった縁で、事務局長だった大野さんのお話を聴く機会があった。20年あまりも前のことだ。
お話を聞いて心がふるえた熱が冷めないうちに書いた2002年と、その4年後、大野さんのことを日記に書いた。一つ目の日記を書いた後だったか、大野さんからご連絡とお礼をいただき、驚いた記憶がある。
誰かが知らせたのか、見つけてくださったのか。メイク・ア・ウィッシュのためにできることは何でもやる人なのだ。時間も気持ちも、持てるものを注ぐ人なのだと思った。
わたしのいた会社がPRをお手伝いして制作したポスターは、アートディレクターが3号ちゃん(同時期にクリエイティブ部に遠藤が3人入社し、「1号」「2号」「3号」とあだ名がついた。コピーライターの2号さんは「遠藤二号」の名刺を刷っていた)こと遠藤智成さん。コピーライターがイサムくんこと中村猪佐武さん。親しくしていた二人が担当していたこともあり、企画の立ち上がりのときから制作過程を近くで見ていた。
キービジュアルには、日本を代表する人気者の顔が並んだ。
アンパンマン、ピカチュウ、ウルトラマン、ハム太郎、ドラえもん。
脚本家になり、著作権というものがいかに著作者を守ると同時に使用者からは壁になっているかを知った今、驚きが真っ先に浮かぶ。メイク・ア・ウィッシュの活動趣旨とビジュアルの使用意図を伝える言葉に説得力があり、参加する意義ありと判断され、この顔ぶれが実現したのだろう。
大野さんの熱意とそれまでの活動も、大きな後押しになったのではないだろうか。
夢をかなえるために生まれた
キャッチコピーは、
ぼくたちは、夢をかなえるために生まれた。
当時も「このコピー大好き」と言っていたが、年を経て再会すると、あらためて、いいコピーだ。深いコピーだ。
夢をかなえて「あげる」のではない、と大野さんは説明会で強調していた。その言葉は今も公式サイトにある。
かなえてもらうのではなく、かなえる。
夢を見るとき、かなえるとき、力が生まれる。
夢をかなえることは、生きる力になる。
夢をかなえる子たちは、同時に、まわりの人たちの夢をかなえている。
勢揃いしたアンパンマン、ピカチュウ、ウルトラマン、ハム太郎、ドラえもんは、誰かの夢をかなえるキャラクターであると同時に、それぞれにもかなえたい夢がある。
何のために生まれ、生きて行くのか。
自分の夢をかなえるために。
誰かの夢をかなえるために。
記事で再会した大野寿子さんは、病と闘いながら、絶版になった自著を買取の契約で増刷し、活動に心を寄せる方に配られているという。子どもたちの夢をかなえるという夢を今も追いかけ続けている。
「メイク・ア・ウィッシュの大野さん」の活動を知ってもらうことも支援のひとつ。2002年と2006年に書いた日記をnoteに転載する。当時と状況が変わっている部分もあるが、大野さんの熱く強い思いと行動力は貫かれている。
2002年12月11日(水)の日記 Make a Wish
会社の100周年事業として各国(外資系なので世界のあちこちに会社がある)で何か社会の役に立つことをやろうという話になり、日本ではメイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパンのPR活動を支援することになった。
メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパンは、アメリカで生まれ、世界32か国で10万人以上の難病の子どもたちの夢をかなえてきた非営利ボランティア団体、Make a Wishの日本支部。その事務局長の大野さんを迎えた説明会に、今日出席した。
これまでも存在はなんとなく知っていたものの、実際に活動されている人の言葉は力強く、心を打った。
「夢を見る力は、生きる力。長い闘病生活で夢を見ることさえ忘れている子どもたちに、もう一度夢を見てもらい、その夢をかなえることで、生きる力を励ましたい」と日々奔走されているが、その活動は病気の進行という「時間の壁」と限られた予算という「お金の壁」との闘いでもあるようだ。
「活動は三輪車のようなもの。夢をかなえる前輪、資金調達と広報という二つの後輪。この三つの車輪がかみあわないとうまく進めない」と大野さん。難病と闘う子どもたちとその家族が、一人でも多く、一日でも早くメイク・ア・ウィッシュに出会うためにも、ひとつでも多くの夢を実現させるためにも、この団体を広く知ってもらい、理解と共感を呼びかけることが大事、と訴えられた。
しんと静まり返って説明に耳を傾ける社員の間から、鼻をすすり上げる音が聞こえてきた。夢を見るというあまりにピュアな行為の大切さに気づかされ、心が揺さぶられる。
夢を実現した子どもの一人、呼吸器をつけている少年の映像が、自分の子ども時代を思い出させた。幼稚園の年少組まで、ぜんそくに悩まされていた。幸い、発作が止むと元気に走り回っていたし、空気のきれいな町に引っ越すと嘘のように治ってしまったので、さほど重い症状ではなかったのだろう。それでも、小さな体(今でも小さいけれど)に受け止めるには十分な重荷だった。
風邪で咳き込むのは大人になった今でも苦しいけれど、当時はひとつ咳するたびに体が反り返った。息が苦しいのは生きるのが苦しいこと。時間とともに辛い記憶は薄れてしまったけれど、うまく呼吸ができなくて「このまま死んでしまうんじゃないか」と怖かったこと、祖母が背中をさすりながら「かわいそうになあ。代わってあげられたら、ええのになあ」と言ったことなどは覚えている。
咳が止まらないときに思ったのは「早く楽になりたい」ということだった。その気持ちは生きたいというベクトルと逆のほうを向いている。発作が長引いていたら、ぜんそくが治らなかったら、今のように前向きな考え方をできていただろうか。
呼吸器をつけた少年は、わたしが体験したのとは比べようもない試練と闘い続けている。そのような状態で夢や希望を持ち続けることは並大抵ではないだろうと想像する。同じ夢をかなえるにも、健康な体の子どもの何倍も大きなエネルギーが必要になるだろう。けれど、どんな子どもにも夢を見る権利があるし、それをかなえるチャンスがなくてはならない。そんな人として当たり前のことを当たり前にできる社会を目指して活動しているのが、メイク・ア・ウィッシュという団体なのだと理解した。
アメリカで暮らした一年間、「善意」はもっと身近なところでやりとりされていた。教会の存在も大きいのだろう。日本では、ややもすると、慈善は偽善と誤解され、ボランティアというと堅苦しさを感じてしまうことが多い。だけど、本当は「shareしたい」という気持ちを、できる範囲で示すだけのことなのかもしれない。
わたしにも何かできることはないだろうかとメイク・ア・ウィッシュのサイトをのぞいてみると、使用済みテレカを集める、マイレージを寄付するなど個人でできる協力が見つかった。その中に「リンク協力」とある。まずはこのカフェ(※「いまいまさこカフェ」と名前をつけた自分のサイトのこと)を使って後輪のひとつを後押しすることから始めてみようと思っている。
※2024年8月追記。ぜんそくで息をうまく吸えなかった頃のことをこちらのnoteに書いています。
2006年7月2日(日)の日記 メイク・ア・ウィッシュの大野さん
一年前まで勤めていた広告会社マッキャンエリクソンにはプレゼンテーションの名手がたくさんいた。でも、会社勤めをした12年余りで最も引き込まれたのは、「メイク・ア・ウィッシュの大野さん」のプレゼンだった。
会社のワールドワイドの100周年を記念して、日本でも何かやろうとなったとき、難病とたたかう子どもたちの夢をかなえる非営利のボランティア団体メイク・ア・ウィッシュ オブ ジャパンの活動を支援することになったのだが、その説明会で話をされたのが事務局長の大野寿子さん。夢をかなえる瞬間の緊張感と一緒に見守る人々の表情や空模様まで豊かに描き出す表現力、信念に基づいて行動している人ならではの説得力に、百戦錬磨のプレゼン名手たちは「あの人が相手だったら競合プレゼンに負ける」と舌を巻いた。
その大野さんの名調子が本になった。タイトルはずばり『メイク・ア・ウィッシュの大野さん』。
大野さんが実現に携わった夢のいくつかが紹介されているが、活字も肉声に負けず劣らず力強い。amazonのボランティア・カテゴリーでは売り上げNO.1を記録したそう。著者プロフィールを見ると、学生時代に「劇団四季付属の演劇研究所で芝居に明け暮れる」とある。ただものではない度胸と引力は舞台で培われたのか、と納得。
※2024年8月追記。『メイク・ア・ウィッシュの大野さん』(2006年2月刊)に子供達の新しいストーリーを加えた新装増補版『メイク・ア・ウィッシュ 夢の実現が人生を変えた』。紙の本は絶版になっていますが、kindleで読めます。
「約束」で出会ったタイトル画像
タイトル画像は検索ワード「Make a wish」「願い事」「夢」などで探した後、「約束」で探して一目惚れしたちびひめさんのイラストをお借りしました。小さな手と大きな手が指切りしている線画。大人と子ども、親と子。夢をかなえることは、誰かと誰かの約束とも言えるかもしれません。
ちびひめさんの詩とあわせて見ると、また違った手と手に見え、想像力がかき立てられるイラストです。
目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。