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恐れ多くも毎日映画コンクール(出張いまいまさこカフェ11杯目)

2006年9月から5年にわたって池袋シネマ振興会の季刊フリーペーパー「buku」に連載していたエッセイ「出張いまいまさこカフェ」の11杯目。特集インタビューは多部未華子さん(フィッシュストーリー)と品川ヒロシ監督(ドロップ)。

「恐れ多くも毎日映画コンクール」今井雅子

毎日映画コンクールのスタッフ部門2次選考委員を務めた。63回を数える歴史に恐縮しつつ、またとない機会なので二つ返事でお引き受けした。

スタッフ部門は、監督、脚本、撮影、美術、音楽、録音、技術の7賞。昨年公開された日本映画を対象に、まずは投票による1次選考で各賞につき5本の候補作品が選ばれる。技術賞以外の6賞に顔を出した『おくりびと』など複数の賞の候補となる作品もあり、今回は全部で19本がスタッフ部門の2次選考対象となった。

選考委員11名が顔を合わせた2次選考会。わたしは映画評論家の北川れい子さんと映画美術監督の小池晴二氏に挟まれた席。一方的に存じ上げている恐れ多い方々を前に「どうしましょう。的外れなことを言ってしまいそう」とすくみ上がっていると、「あなたの感じたままが大事。人と同じこと言ってもつまらないもの」とお隣の北川さんがチャーミングな笑顔で励ましてくださった。

賞ごとに意見を出し合った後に投票。過半数得票がなければ、再度議論のうえ投票という形で選考は進められた。

わたしが最初に推したのは、監督賞=坂本順治『闇の子どもたち』。難しい題材を見応えのある作品にした情熱と手腕を評価。脚本賞=万田邦敏/万田珠実『接吻』。強烈な反発を覚えつつ、ぐいぐいと引き込まれた。まさに脚本の力。撮影賞=芦澤明子『トウキョウソナタ』。家の中や道の途中のなにげない空気を撮るのがうまい。一次選考を『しあわせのかおり』で推したが、湯気がおいしそうに撮れていた。美術賞=矢内京子『西の魔女が死んだ』。イギリス人の祖母が手をかけ、そこで泣き笑いした時の流れが見える。さりげなく飾られた窓辺にも細やかさが光る。音楽賞=久石譲『おくりびと』『崖の上のポニョ』。どちらも音楽の印象が際立っていて、さすが。録音賞=岩倉雅之『トウキョウソナタ』。戸を開ける音や風の吹き込む音に存在感があった。技術賞=VFXチーム 渋谷紀世子 山崎貴『K—20 怪人二十面相・伝』。日本もこんな迫力のある映像を作れるようになったのかと圧倒された。

わたしの意見を引き合いに出してくださる方もあったが、他の方々の声をうかがうと、自分の見方の未熟さを思い知らされた。映画を通してスタッフの成長を見てきた年月が蓄積された言葉の重みはケタ違いで、同じリングで議論するなど、これはもう異種格闘技。実況を続ける紙幅が尽きたので、続編は次号にて。

ところで、今回選考委員を務めることができたのは、昨年公開された今井雅子脚本作品がなかった、つまり選考対象になる可能性がないから。貴重な勉強をさせていただいたが、このテーブルで議論するより、される人間にならなくてはと思った。

写真脚注)ふむ、あの映画を作った人が関わっているのか……。試写でいただくプレスのスタッフ紹介を熱心に読むようになった。

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プロフィール)2009年2月時点
今井雅子(いまいまさこ) www.masakoimai.com
大阪府堺市出身。コピーライター勤務の傍らNHK札幌放送局の脚本コンクールで『雪だるまの詩』が入選し、脚本家デビュー。同作品で第26回放送文化基金賞ラジオ番組部門本賞を受賞。映画作品に『パコダテ人』『風の絨毯』『ジェニファ 涙石の恋』『子ぎつねヘレン』『天使の卵』。最新作『ぼくとママの黄色い自転車』は今年公開。テレビ作品に『彼女たちの獣医学入門』(NHK)、『真夜中のアンデルセン』(NHK)、自らの原作『ブレーン・ストーミング・ティーン』をドラマ化した『ブレスト~女子高生、10億円の賭け!』(テレビ朝日)、『快感職人』(テレビ朝日)、『アテンションプリーズ スペシャル〜オーストラリア・シドニー編〜』(フジテレビ)。3/30から始まるNHK朝ドラ『つばさ』に脚本協力で参加。


目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。