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かがみが深呼吸したら─「かがみの世界」2

小学6年生のとき授業中にせっせと書いていた小説「かがみの世界」の大学ノートを掘り起こした(経緯はこちら)。その文字起こし、第2章(第1章はこちら)。表記の誤りなどは後ろでツッコミを入れます。


今井雅子作「かがみの世界」2

事件がおこった。

それは、木の葉が残り少なくなった寒い日。夕方になって、とつぜん、かがみに呼び出しが来たのである。

話によれば、「冬になると、命をしまっておかないといけないというのに、数が足らない。おまえが命を持っているなら、すぐ返しに来てほしい。」ということで、話しているほう(※1)もあせっているらしく、声がだいぶふるえていた。

しかし、それよりも、ゆう子のかがみは、もっともっと、ふるえていた。声もでなかった。「かがみの世界」からの通信は、何度も念をおして「たのむそ」と言った後、それっきり、とだえてしまった。

ここで少し、説明しておこう。「かがみの世界」とかがみとの通信は、空気中に、わからないくらい細い、はりがねのようなものを通し、そこを伝わって、声がととくようにしている。見えない世界と、地球上がこのようなもので、つながるというのは、なんとも不思議なものである。

大学ノートを横に使って縦書きした原稿3枚目

さて、かがみの方は、まだきん張が止まらず、机の上で、カタカタ音を立てていた。困乱(※2)した頭の中で
「どうしよう。どうしょう」
それしか考えなかった。

ちょうど、そこへ、半分うかれた気分で、ゆう子が帰ってきた。かがみは、そんなことに、気が付かず、まだ、ふるえていた。おどろいたのは、ゆう子である。自分の顔を、見たいというのに、かがみが動いて、どうしようもない。

「もう、何やってんのよ、このかゲみ。せっかくの顔もこれじゃ、いがんでしまう」

すっかり気げん(※3)を悪くしたゆう子は、男の子のような口ぶりで、そうどなると、かばんをなげだした。

かがみは、まだ、ゆう子のいることに、気付いていない。あれだけ、ゆう子が、おこっていても、わからないところを見ると、よほどあせっているらしい。

もちろん、かがみは、自分なりに、落ちつこうとしていた。だが、どうしようもない。いきなり、
「落ちつけ」
と、言われたにしろ、今のかがみにとって、不可のうなことであった。それでもゆう子が目の前に来た時、大きく深呼吸をした。その方が、ふるえを止めるのにも、よいと思った。

大学ノートを横に使って縦書きした原稿4枚目

─その時─

ふいに、ゆう子の体が、空中に上がったと思うと、そのまま、かがみの中へ、すうっとすいこまれてしまった。

あっという間の出速事だった。なぜ、そうなったかは、ゆう子にもかがみにも、わからなかった。が、今まで、イライラしていたかがみが、あまりにも大きく、すいこんだので、ゆう子まで、いっしょにひきこまれたということも、じゅう分考えられる。

それは、ともかくとして、ゆう子は、どうなったのであろうか。

黒ずんだ。まっ暗な穴のような所を、ゆう子の体はしずんでいった。まわりは、あたたかい風がふいている。なんとも気味悪い所であった。

「ここはどこ、お母さ〜ん、お父さ〜ん、たすけて!」

とにかく、できるかぎりの大声で、助けを求めた。あたりは、しんとして、かげ一つ見えない。ゆう子は何度もさけんだが、しばらくすると、それは、なみだ声に変わった。

「たす、けて、お、ねが、い……お母さーん……」

大学ノートを横に使って縦書きした原稿5枚目

43年後のツッコミ

話している方(※1)もあせっているらしく、
何か所か出てくる「方」は、文脈から「かた」ではなく「ほう」と読むと判断。

困乱(※2)した頭の中で
誤字あるある。正しくは「混乱」。

すっかり気げん(※3)を悪くしたゆう子は、
これも誤字あるある。しかも見落としがち。正しくは「機げん(嫌)」。


目に留めていただき、ありがとうございます。わたしが物書きでいられるのは、面白がってくださる方々のおかげです。