ポケ森の風景を480字で伝えたつもりになっていた
見えない梓さんに「森」を案内したくて
「ポケ森」のことをつぶやく人がふえて、名前を知った。ステイホームで時間ができて、始める人がふえているスマホゲームらしい。「あつ森」のことをつぶやく人もふえた。こちらはニンテンドー・スイッチのゲームらしい。
どちらも「集まれ どうぶつの森」というゲームだと知ったのは、つい最近のことだ。それくらい、「森」はわたしから遠い存在だった。
そしたら、ある日、西田梓さんがツイッターでポケ森のことをつぶやいた。
遠かった「森」が一気に近くなった。
早速アプリを入れ、アバターを作り、森の中へ。
その画面をパシャりとスクショし、「風景の文字起こし」を始めた。
140字では書ききれないので、ツリーを足していった。最後に「…と文字に起こしてみて、目に入る情報量の多さに気づきました」と書いた。
実際、何文字になったのか。ツイートをコピペしてみる。
キャンプ場に着いた風景。くっきり快晴。楕円の雲がぷかぷか。画面下半分は使い込んだ感じの灰色がかったウッドデッキ。手前に同じ色合いで木目が見える柵。奥に枠が丸太の手作りっぽいハンモックとランタン→
→ウッドデッキの奥にグランドカバーっぽい緑が広がっていて、一部、土が見えているところが(人が歩いて道になったのかも)。もみの木みたいな形の大きな木が根元に影を作っている(季節や時間帯で大きさが変わるのかな)。木陰でピクニックするのも良さそう。段差があって、その奥にも緑の原っぱ→
→一段高い原っぱで咲いている花が、手前の原っぱの木々の間から見え隠れ。低いところに咲いているのは中心が黄色くて花びらは鮮やかな赤。少し高い位置に咲いているのは広げた花びらが星の形。花びらの中央は濃いピンクで外側は白。花から右に大きな切り株。切り株の右側も緑がはげて土が見えてる→
→切り株の奥に大きな岩らしいもの。その向こうに、もみの木みたいな木が見え隠れ。遠くに見える二こぶの山は緑ではなく灰色。少し手前に戻り、花の左側には、もみの木みたいな木が立ち並び、その向こうに池か湖らしきものが。
数えたら480文字あった。一目で見える風景を言葉にしたら、原稿用紙一枚からこぼれる。
やってしまった「木を見て森を見ず」
風景を言葉に「翻訳」しながら、昔こんな問題を出されたなと思い出した。
駅からスーパーへの行き方だったか、簡単な地図が書かれていて、その内容を言葉だけで伝えて道案内せよというもの。
採用された広告代理店の入社前研修でコピーライター養成講座を受けた。その課題だったと思う。
一目見てわかることを言葉で伝える。ダラダラとではなくポイントを押さえ、的確な単語を選んで、わかりやすい言い回しで。コピーライターに必要なのは、「読む人を迷わせずに導く」スキルなのだと、その課題に教えられた。
わたしのポケ森案内は、どうだろう。
480字で風景を言い表せているだろうか。こんな説明で梓さんの中に「森」が見えるだろうか。
わたしのツイートを引用した梓さんは「こんな世界が広がってるなんて!ワクワクしますね」と書いてくれた。
お役に立てて良かったとホッとした。
せっかくなので、「森」を探検してみることにした。画面の中の自分にカーソルを合わせて動かすと、キャンプ場を歩き回れる。数歩あるいて気づいた。
わたしが480文字で表した風景は、キャンプ場の一部だった。
「もようがえ」のボタンを押すと、ここをカスタマイズできますよという印が出てくる。
梓さんがツイートで尋ねていた質問の意味がようやくわかった。
カスタマイズするのは家の中?それとも外のスペースですか?
わたしのツイートは質問にすら答えていない。
キャンプ場の左側には畑が広がっていた。ここで花や野菜を育てられるらしい。
さらに「マップ」を見つけて、のけぞった。
キャンプ場のまわりに、果物がワサワサ実る森やら、滝やら海岸やらが広がっていた。船が出る港があって、島へも行ける。市場もある。
こんなに大きな「森」が広がっていることも知らず、もちろん森の中のどこにキャンプ場が位置するのかも知らず、ただ、最初に目にした風景を説明して、道案内した気になっていた。
「木を見て森を見ず」とはこのことだ。
「わかった気になって中途半端に伝えるな」と通訳養成クラスまで進んだものの呆れられるほど落ちこぼれだった手話講座で叩き込まれたのに、やってしまった。
「世界中のホームページはすべて見た」とのたまい、若手社員たちを凍りつかせた広告代理店時代の知ったかぶり上司を笑えない。
穴があったら入りたい。森のどこかにあるかもしれない。せめてもの救いは、入口で引き返さずに森を探検してみて、その広さに気づけたことだった。
「おくりものをおくりあう」世界
友だちの家で「あつ森」をやったことがあるという娘に教えてもらいながら、「ポケ森」で遊び始めた。
森の中は平和だ。木をゆさぶって落ちてきた果物を拾い、虫を捕まえ、魚を釣り、砂浜に落ちている貝殻を拾う。畑に種をまき、実ったら収穫する。出会ったどうぶつたちにあげると、喜んでお礼をくれる。相談に乗ったり、話し相手になったり、おかしをあげたりしても、お礼をくれる。そのお礼を使って、テントや家具を作ったり、壁紙や床を変えたりする。どうぶつと仲良くなると、洋服をもらえたりもする。どうぶつからのおすそ分けが風船にくくりつけられて届くこともある。
どうぶつたちのお願いを聞いて、お礼をもらって、キャンプ場をどんどん自分好みにカスタマイズにしていく。誰かを出し抜く必要はない。駆け引きや作戦も要らない。森を楽しむために必要なのは、森にいるみんなに親切にすること。どうぶつたちにも、他のキャンパーたちにも。
ステイホームでヒマだし、キャンプにもなかなか行けないから。このゲームが人気を集める理由は、それだけじゃない気がする。おくりものとお礼とハートマークが飛び交う世界。どうぶつたちのお願いも悩みもほのぼのしていて、誰も傷つけない。行き過ぎた自粛でトゲトゲ、ギスギスしていく現実と対極にあるような、やさしさとやわらかさに惹かれるのかもしれない。
争いごとのない森には、ちゃんと時間が流れていて、夕方になると夕陽を映した海が紫色に輝く。どこにも出かけず、何をしたわけでもないのに今日も一日終わったなという日々の繰り返しに、森での出来事が楽しい変化をつけてくれている。
こないだキングサーモンが釣れた。606センチの超大物。
勝手がわかってきたところで、梓さん親子とうちの親子で「zoomポケ森」をしてみた。パソコンでzoomをつなげ、スマホで「森」に入る。同じ場所に行ったり、今いる場所を画面に映してもらったり。森の中から実況解説できるから、静止画面を文字で説明するより話が早い。
どこに何があって、どんなことができるか。「森」を歩き回って、あちこちつついているから説明できる。「言葉にして伝える」ためには語彙力や表現力だけじゃなくて、実感に落とし込んで「わかった上で伝える」ことが大事なんだと教えられた。
梓さんがブログに書いてくれたように、こんな楽しみ方もあるのかと発見があった。「森」はまだまだ広がる。
梓さんは、noteを始めるきっかけをくれた人でもある。岸田奈美さん主催のキナリ杯に応募した梓さんの投稿を応援したくて、アカウントを作った。
「スキ」を伝えあうと目標を達成してバッジがふえていくnote。肯定が幸福を呼ぶワクワク感がポケ森に通じる。
わたしが脚本を手がけた映画『子ぎつねヘレン』(2006年公開)から生まれた絵本『子ぎつねヘレンの10のおくりもの』(絶版だけどamazonに中古本が。5円から!!)にサインを求められると書き添えている言葉がある。
「生きることは、おくりものをおくりあうこと」
ポケ森もnoteも、そんな世界だと思う。そんなところが素敵だしスキだ。