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口説いたり口説かれたり(出張いまいまさこカフェ5杯目)
2006年9月から5年にわたって季刊フリーペーパー「buku」に連載していたエッセイ「出張いまいまさこカフェ」の5杯目。表紙は小栗旬さん。
「口説いたり口説かれたり」今井雅子
脚本を書くようになって、口説かれることが増えた。花形職業でモテモテ……なのではなく、「これを書けるのは今井雅子しかいない!」と口八丁のプロデューサーに声をかけられるのである。わたししかいない割には「二週間で初稿を上げてくれ」という無慈悲なスケジュール。本命に断られたのは見え見えなのだけれど、こちらも口説かれ上手になって、お仕事にありつく。
わたしが口説く側に回ることもある。脚本家が口説くといえば、役者に「出ます」と言わせること。この役をやりたい、この台詞を言いたい、と思わせたら、こちらの勝ちだ。「○○(役者の名前)を口説けるのは今井雅子しかいない」とプロデューサーに口説かれることもあり、口説きの孫請けみたいな事態になる。
登場人物に役者をあてはめて脚本を書くことを「あて書き」というけれど、あてが外れて口説き落とせなかった場合は、新たな出演者を想定して書き直すことになる。そのたびに登場人物が太ったりやせたり、年取ったり若返ったりする。こういう場合、たいてい超特急の作業になるので、直りきらない中途半端なホンが出来上がり、劇中で登場人物が激ヤセしたかと思うとリバウンドしたりする。
惚れ込んだ原作の映像化権を手に入れるために脚本家が原作者を口説くこともある。「あなたの名作を脚本にできるのは私しかいない」と名乗り出るわけである。わたしはまだやったことがないけれど、そのかわり、大好きなアーティストを口説く手紙を書いたことがある。
あなたのアルバムを聴いて脚本を書きました。この役はあなたのイメージなので、あなたに演じてもらいたい。無理ならせめて主題歌を……。手書きのラブレターなんて何年ぶりだっただろう。返事が来るのを指折り数えたのも。けれど、何週間も待たされた後に、「ダメだったって」と間に入った人からの伝言であっさり望みは絶たれた。読めば絶対落ちるという自信があった。きっと手紙は本人には届かなかったんだ、と自分に言い聞かせた。いきなり脚本を送りつけるのは失礼かもと遠慮したくせに、関西人趣味の押しが強い年賀状を同封したのがまずかったのかもしれない。
気持ちは乗ってもスケジュールやギャラといった物理的な折り合いがつかず、涙をのむ場合もある。大物、人気者になるほどその傾向がある。スタッフもキャストもオールスターのような作品に出会うと、よくこれだけの顔ぶれをそろえたものだと感心すると同時に、きっとすごい口説き上手がいたんだろうなあと想像してしまう。それがプロデューサーの場合もあるし、脚本の場合もある。
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clubhouse朗読をreplayで
2022.12.5 宮村麻未さん
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