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『荒神』― 宮部みゆきが紡ぐ、怪物と人間の壮絶なる物語

 江戸時代、5代将軍徳川綱吉の治世下。東北の地に隣接する永津野と香山の2つの藩がありました。その境界に聳える大平良山(おたらやま)を舞台に、想像を絶する物語が幕を開ける。宮部みゆきの歴史ファンタジー「荒神」は、読者が興奮する圧巻の一作です。

 物語の中核を成すのは、人智を超えた存在、「つちみかどさま」。この怪物は、蝦蟇や蛇、果ては殉死した武士の亡骸までをも取り込んだ、巨大な土の塊として描かれる。その姿は、まさに一つの山が動き出したかのような巨大なものでした。しかし、この存在こそが人間の業の具現化なのです。

 宮部みゆきは、この怪物を通して人間の欲望と権力への執着を鋭く描き出す。香山藩の瓜生氏が、隣藩からの脅威に対抗するために生み出したこの怪物。それは今や、創造主の意図を超え、制御不能な存在と化しているのです。

 物語は、この怪物を退治できる唯一の存在として、瓜生氏の末裔である双子の兄妹、朱音と市之助を登場させる。ここで作者は血の繋がりと運命、そして愛の複雑さを見事に描き出す。天女のように美しく慈悲深い朱音と、永津野藩の重臣となった市之助。彼らの宿命的な関係は、読者の心を揺さぶらずにはおかないでしょう。

 「荒神」の魅力は、単なる怪物退治の物語に留まらない。それは人間の業と欲望、愛と犠牲、そして運命の皮肉を巧みに織り交ぜた作品となっている。作者は、江戸時代の風景を鮮やかに描き出すと同時に、現代にも通じる人間の本質を浮き彫りにしています。

 読者は、怪物の恐ろしさに戦慄しながらも、その背後にある人間ドラマに引き込まれていく。そして最後には、人間の業と愛の深さに、胸を打たれることでしょう。

 宮部みゆきファンはもちろん、歴史小説や幻想文学を愛する読者にとって、「荒神」は見逃せない一冊だ。この物語は、あなたの心に深く刻まれ、長く余韻を残すことでしょう。

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