『岩田さん』推定最速読書会レポート
高橋です。
7/30(火)に一般発売された書籍『岩田さん』。
任天堂の元社長であり、2015年7月に在任中に亡くなった岩田聡さんの言葉を、ほぼ日編集部さんが集めて、取材を行い、編集構成して新たに世に生み出された本です。
この本の読書会を、一般発売前の7/29(月)に行いました。
ほぼ日の直販サイトや直営店では7/23(火)から購入することができまして、今回私含めて7人の参加者たちは、一般発売前に本を手に入れて読書会に臨みました。
このnoteでは、その読書会の様子をまとめます。
※推定最速読書会と書いているのは、ググッた範囲では他に開催された方のレポートが見つからなかったためです(笑)。
参加者
参加者は以下の7名です。御本人の許可を頂いているので名前も載せます。
岩田真吾さん: 繊維・樹脂メーカー三星グループの代表取締役社長をされている、イニシャルS.Iの現役岩田社長です。
河原塚徹さん(@passionhack): 大手企業に勤めるマーケターです。イベント参加&レポート記事多数。
小林翔太さん: 社会人教育企業で研修・教育プログラム開発などに携わる。ゲーマーでもあります。
フジイユウジさん(@fujii_yuji): ベンチャー企業経営者。ネットに詳しい&ブログがおもしろい方です。
山本雄生さん: ニューズピックスにて新規事業などを担当されてます。
柴田裕子さん: フリーランスとしてエンジニア、ヨガインストラクターなどをされてます。1歳のお子さんをお持ちのお母さんでもあります。
高橋昌紀(@mskpogo): 自分。フリーランスとしてライター、コミュニティ運営など。
業界や職種もみんなバラバラです。
メンバーの関係は、初対面の人どうしもいれば知っている人どうしもいました。
読書会の進行
進行は以下のように進みました。
①チェックイン(1人1分くらいでいま思っていることなどをシェアする)
②1人あたり数分で本を読んで思ったこと、自分が気になった箇所などをシェアする
③それに他の人が質問やコメントする
④上の②と③を全員分行う
⑤チェックアウト(1人一言ずつ、思っていることをシェアする)
なお、今回は参加者の物理的距離が遠いということもあって、オンライン会議サービス Zoom を使用してリモート開催しました。
ぼくと河原塚さんは、オンライン会議に参加する場所としてカーシェアリングサービスで借りた車を選びました。写真を載せておきます。ほかの参加者から「ビジュアルが旅番組みたい」と評されました(笑)。
皆さんのシェアの内容
どんな話が出てきたのか、お一人ずつの発言の形でまとめます。
河原塚さん:
最初1/4しかまだ読んでないというまさかの告白に一同ズッコケるも、気にせず笑顔でシェアしてくれた河原塚さん。
「誰にでも分かる言葉でいろんなことを表現していると感じた。プログラムに強い人はあまりそれが得意ではないと思っていたがまるで違う。岩田さん、すごいね。」
フジイさん:
自分も経営者として、読んでいて特に印象に残ったのは経営、組織の話というフジイさん。
「面白かったのは、『改革は否定から入らない』(p.50)という話。言葉で言うのは簡単なんだけど。いま良いというあり方への疑問は組織みんなが持っているほうがよいというのも書かれている。正しさの改革を突きつけるのは正しくない、という話。実はこれはすごく複雑なこと。その難しいことがシンプルに書かれていると思いました。簡単には、できないんだけど。
『新人は飾らないで仕事しろ』とか『プロジェクトはこぼれ球を拾う人がいるとうまくいく』とか、ひとつひとつそうなんだけど、『会社やプロジェクトが上手くいく時というのは、こういう構造だよね』とも書かれている(p.59)。これは全体の構造が分かる人だから見えること。物事を構造で理解する人なんだな、と思った。」
「MOTHER2の立て直しの話(p.114〜とp.195〜)でも、落下傘部隊でなんとかするぜ!じゃなくて、スタッフ誰でもゲームを直せるツールを作ったという話があって。どうすればプロジェクトが構造的に上手くいくかを分かっていたんだろうと思う。部分の積み上げや、凄腕が入ることで解決するわけでないというのを構造的に理解されていたんだなと。ご本人はたぶんシンプルなロジックとして理解されてたんだろうけど、それは経験と理解のバランスで成り立つものだと思う。」
山本さん:
「全体の感想として、岩田さんがいろんなものに温度を与えられることが伝わった。『車座』という名前をつけたり、『会議はファシリテーターが大事』とか。岩田さんにはお会いしたことないけど、人が好きなんだろうなと思う。すごく人の可能性に言及されてる。経営も、会議も、人が気持ちよく動いてくれるにはどうしたらいいか、が書かれてたなと。ぼく自身も新規事業を慌ただしくやっていると、つい人のことを忘れがちになることがある。すごく忙しかっただろう岩田さんがそれをずっとそれをされていたのが印象的。」
「具体的言葉としてはp.133の宮本さんのエピソードの『素材を捨てないちゃぶ台返し』はすごい。宮本さんの愛というか、ゲームをつくる人のことが理念の中心にあったのかなと。」
柴田さん:
自分の活動のミッションを見直してみたいと思っていたという柴田さん。ヒントになるかと思って本を読み始めたとのこと。
「見つけた答え。フリーランスをするとか、やりたいことをするとかいったときに、自分自身が幸せで周りにもハッピーを広げられたらいいなと思っていた。だから岩田さんがいう『みんながハッピーである状態』(p.200)を言葉にして持っていていいんだな、と思えました。」
「あとは『何が得意で何が苦手かを整理して優先順位をつける』(p.44)ということば。自分がフリーランスで受注する仕事としては意識してやっているけど、やりたいことを実現するときには欠けてることもあるなと気づいた。カテゴリが広がったときにも整理していきたいと思った。」
「ほかには『こうなりたいというイメージを何度でも共有する』(p.60)というところ。自分の活動がどこを目指しているか、お客様にどうなってほしいかというのをもっと共有しようと思う。」
「『ゲーム人口の拡大』(p.144)とか『ゲームが日常に取り入れられる』というのが響いた。自分のプロジェクトは全然規模感は違うけど、でもやるからには、それが日常に取り入れられるのを目指したいと思う。」
「最後に『突っ込みにくいバリアを外していく』(p.57)というのも。私自身の活動も、もともと自分が知っている人、関わっている人に等身大にさらけ出すのは難しい。なんか知ってるね、やってるね、で終わってしまうことがある。その先に、ハッピーにつなげていくのは、接する人に等身大でさらけ出すことが大事だなと思う。」
岩田さんの言葉をご自身の生き方やプロジェクトの進め方に具体的に結びつけて考えてらっしゃるのがとても印象的でした。
小林さん:
「ぼくはゲームが好きなので、ゲーム人口拡大の話(p.142〜)を。書いてあることが想像通りに実現していることがすごい。家に帰って無意識にテレビをつけるひとが多いとあって。『ゲームもそうなるといい』とあるんだけど、Nintendo Switchはまさにそういう思想でできている。すぐ点いて、起動してから遊べるまでの速さ。大画面でも手元でも遊べるから同じタイトルのゲームもSwitchで買いたくなる。」
「自分が小学校4年のときにNintendo DSが発売された。うちは母親がゲーム嫌いで、なんでゲームなんかやってるの、と怒るようなタイプだった。川島隆太教授の脳トレDSが発売されたのだが、それを買って以来、母親がゲームにハマるということを経験した。しまいには母親は自分用のDSを買った。Wiiを買ったときには一緒にWii Sportsのテニスをした。確かにプレイステーションなどの従来型コントローラーは格闘ゲームなどをやるにはピッタリなのだが、画面を固定してしまっているし、ゲーム人口は拡大しない。体験をアップデートしていくこと。現実に、ゲーム嫌いの母がゲームに熱中したという経験。それが実現していたのがすごいと思った。なんとなくWiiやSwitchの設計思想は知っていたが今回文章で読んで改めてすごいと思う。」
ゲーム好きでゲームに詳しい小林さんならではの話。特に自分の家庭で起きた劇的な変化の裏側にある開発の思想を、岩田さんの言葉で読み解いていました。
岩田真吾さん:
繊維・樹脂・服飾などの事業を営む会社の五代目経営者である岩田真吾さん。本の構造について、ぼくがまったく気づいてなかったことをシェアしてくれました。
「この本の構造が面白かった。どういうことか。前半は岩田さんの一人語り。後半になって、宮本さんと糸井さんの語りが出てくると『ああ、この人死んじゃったんだな』と分かる。そのあとの最後の章で、『私はなぜを追求するのが好きなんです』(p.210)と出てくるところで、まるで蘇ったかのような感覚になった。ドキッとした。この人、本当はまだ生きているのかな?と感じてゾクッとする瞬間があった。宮本さんと糸井さんの章は、すごく寂しがっていることが伝わる。そこからの、次の章。高橋さんが前に『詩集のような本』と言っていたことがきっかけでそう気づいた。」
「中身は皆さんが気になったところと結構通じるところがあった。p.184の宮本さんの章に『岩田さんの(本の)読み方』という話が出てくる。要は、ヒントを求めるのではなくて、自分が言いたいことを伝えるためや確信を深めるために使う、ということ。たしかに自分がこう思うというのを伝えるのは、『それはあなたの考えでしょ』となってしまって伝わりづらい。けど、本に書いてあると、本と共に伝えることができる。まさにこの『岩田さん』という本がそういう使い方ができると思う。たとえばもうちょっと素直になってくれたらいいなーという人には、『新人に求められるのは飾るなということです』(p.56)のところを読んでもらったりね(笑)。」
高橋:
最後にぼくもシェアしました。
「p.113の宮本さんのことを岩田さんが語るときに『そういうゲームデザイナーってそれほど多くない』という言葉がある。これにハッとした。デザイナーというと日本だと絵を描く人、という狭義の使われ方や認識のされ方が多いと感じるのだが、本来デザイナーとはプロダクトやサービスのバランスをとっていく鍵になる人。それがわかりやすく宮本さんの例を通して語られていることに納得感を覚えた。」
「『新しいものを出すときはそれが世の中にどういうふうに受け入れられるのか。非常にドキドキします。』とある(p.218)。ここが好き。新しいことに挑戦するときの本質的な話だと思った。『これは絶対大丈夫』と分かっていたらそれは新しくない。新しいからこそ創り手は不安だけど、だからこそ新しいと分かる。その不安をオープンにしてくれることはすごく勇気をもらえる。不安は、新しいことをやろうとしているんだ、と自分自身で前向きに捉えられる。」
追加で出てきたコメントなども少し記しておきます。
柴田さん:
「高橋さんの取り上げたp.218について加えると、『だから、あらゆることをやろうとするわけです。』というところもすごくいい。最後までできる限りのことをやろうとしているのが伝わってきた。」
小林さん:
「新しいものをやるということに関連して。p.108に『宮本さんの肩越しの視線』が出てくる。機能するかを試すことで打率を高めるというのがすごく重要と感じた。ぼくは社会人教育の会社で研修を作ってもいるが、作るときにはいくらでも理論を考えられる。でも、大事なのは機能するかどうか。期待どおりにいくか、あるいは期待を越えて受けた人が動くか。機能するかを試す態度というのは広く使えるし、意識していきたい。」
といった流れがメインパートでした。
チェックアウトの内容
最後にチェックアウト(読書会の終わりの一人一言、感想など)を残しておきます。
岩田真吾さん:
「いま目をつぶってパッと開いたところを読んでみました。p.130の宮本さんの『機能からはじまっている』のところ。まさに今日の会もみなさんが機能したと思う。」
山本さん:
「皆さんの意見を聞いてみて、改めて『哲学と行動がともにある』経営者と感じました。哲学があって行動が伴う。すごく学びになった。」
小林さん:
「書籍も面白かったが、この会が面白かった。本を読んできて、パッと集まって、1時間ちょっとで終わる。読みたい本について、人を集めて会を開くのはアリかなと思った。オンラインだからこそのゆるさもあるし、オンラインだからこその強制力もあって(笑)。その塩梅が良かった。」
フジイさん:
「自分が経営に興味が寄るので、この本は経営の本だ、くらいで思っていた。でも読書会してみると、人によって気になるポイントが全然違う。それが面白かった。読書会などをほとんどやったことがなかったけど新鮮だった。」
柴田さん:
「今日集まったメンバーが普段全然会わない方々だった。普段自分は読書会の主催者もしているが、やり方が決まっていて。一冊に対してみんなの立場がそれぞれで、違う意見が面白かった。繰り返しキーワードが出るたびに、自分が読んだときの感じを思い出した。」
河原塚さん:
「本を読んでいて、キーワードを拾い読みしていたらキーワードが多すぎて煮詰まってしまった(笑)。たとえば『自分がやるのが合理的ならやる』(p.24)という話。その決め方、腹のくくり方する人なんだなと。自分はやりたいことしかやらない人なのだが、それだと岩田さんみたいにはなれないなと。次の1回は嫌なことでもやってみようかと思う。学びがあった。」
高橋:
「最後自分で。この会をやってよかった。予想通りの部分とそうでない部分があった。予想通りだったのは、思ったことのシェアができると有意義だろうというのは予想通りに良かった。ただそこでどんな話が出るかというのは予想さえしてなかったことだった。企画として成功だと思う。感謝!」
以上です。
読書会を終えての思い
今回主催者として『岩田さん』読書会を企画、運営してみての思いを整理しておきます。
まずなにより、やってよかった。自分ひとりでは決して気づくことができなかったであろう、この本の魅力、そして岩田さんの魅力に気づくことができたのは、間違いなく他の皆さんとの対話のおかげです。
それは同時に、岩田さんが亡くなったんだということに改めて思い至ることにもなりました。でもそこに思うことは、4年前、岩田さんが亡くなったときの衝撃と深い悲しみではありませんでした。
ここに集まった方々が、自身の人生や仕事、趣味やなんらかの取り組み・プロジェクトのことを考え、振り返り、前に進んでいこうとするその横に。ふと岩田さんが立っていて、温かい応援の言葉や気付きに満ちたアドバイスを贈ってくれているように感じたのです。
かつて岩田さんが任天堂の社長だったとき、ぼくは任天堂の社員として、もちろんトップの言葉としてその言葉を受け取っていました。ただ同時に、温かく素敵な人間観を持った「岩田聡さん」という人としてもその言葉を目にして、耳にして、そこから思考していることがたくさんありました。それがいまの自分を作る大きな経験になっていると感じています。
岩田さんがあまりに若く、志半ばで亡くなったことはいまでも本当に残念ではあります。が、ほぼ日をはじめ、その言葉や哲学を形として残そうと思って行動した方々のおかげで、いま形を変えて、本を通じて初めて岩田さんに出会う人にも、もちろんぼく自身にも、学びと気付きの機会が生まれています。
この本が売れたらいいなと純粋に思っていました。その思いは今も同じですが、読書会を終えた今は、それに加えて、本を通じて対話の場が生まれて、そこで様々な価値観や経験を持つ人がつながることも増えたらいいなとも思っています。
以上です。
本は、Amazonやほぼ日直営店、ほぼ日サイトなどで買うことができます。まだ読んでないという方はぜひ手に入れてみてください。そして可能であれば対話の機会を作ってみていただけたら、素晴らしい体験になるのではと思います。
『岩田さん』のリモート読書会の開催希望があればnoteのコメント機能などでお知らせください。もし何名かいらっしゃるようならまた企画したいと思います。
読書会参加メンバーの小林さんの本のレビュー記事を貼っておきます。ぜひこちらもチェックしてみてください。