the Art of 選書

「人は出会いに人となり」
「人生という建築を支える 幾千幾万の柱。それが出会いです。」

私の大好きな言葉です。

これは人との出会いの意味を綴った詩の一部ですが、この言葉はそのまま本に置き換えることができます。

人が人の生き方に、大きな影響を与えるように、本との出会いも、また然りです。

本は、書かれた人の分身です。その人が生涯を賭して得た言葉が込められていて、その言葉で人は智恵を得て前へ進み、心を動かされ、そして立ち止まり内省することができます。どんな種類の本であってもそれは同じだと思います。

その出会いを演出できるのが、本屋です。

今では、インターネットでも出会いは演出できます。AIがランダムに選んだ本との出会いも、それは出会いであることに変わりはありません。

私はリアル書店で働いている者として、どこまで人としての演出ができるか、色々試しています。そのひとつに「選書」があります。

今まで、書店だけではなく、カフェやホテルなどでも選書をしてきましたが、ただ、今までの読んできた本や、積み重ねてきた経験だけでは選べません。自分があまり興味のないジャンルからも選ばなくてはなりません。

たくさんの冊数を選ぶときは、取次さんからデータをいただいたりして、それをベースにアレンジを加えることもありますが、興味のないジャンルの本を選ぶときに一番参考になるのは「お客さま」です。

私は幸いにも大きな書店で働いているので、レジに立っていると、次から次へとお客様が本を買ってくださる場面に遭遇します。

毎日、「こんな面白そうな本があるのか」「このお客様のこの本の組み合わせは面白いな」とお客様が本との出会いの成果物を私に見せてくださるような感覚です。

気になった本はレシート番号をメモしておきます。そこに性別、パッと見た感じの年齢を書いておきます。そして、自分が使っている簡単な性格分析を表したマークをしておきます。

これは正しくなくてもいいのです、あくまでも見た感じの印象です。

そして、後からレシートの内容を端末で呼び出して、これらの資料を頭に叩き込んで、その属性に近いお客さまから選書を頼まれた時に、パッと答えることができるようにしておきます。

……、と言いたいところなのですが、それはほぼ不可能です。覚えておくことは至難の業ですし、自己満足のようなものでしょう。

私がやっているのは、いわゆる、選書のための「素振り」のようなものです。

普段から、お客さまがどんな商品をどんな組み合わせでお買い求めいただいているのか、どうしてこの組み合わせでご購入いただいたのか、を想像する、もしくは「面白い」と感じていることが大事なのかなぁ、と思います。

それが「出会い」を演出できる選書の感覚を磨くことなのではないかと思っています。

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