「沖縄県コザ」に既にあった!世界の各都市が目指している「まち」のつくられ方。これを壊すことは、経済・健康・成熟を手放すこと。ウォーカブルってそういうことか。
お久しぶりです。純粋なnoteは、7ヶ月ぶりとなります。この間もいろんな都市、まちを訪ねる機会をいただき、その都度さまざまな発見に興奮しながらも手つかずで。しかし、たまに思い起こすように、この沖縄市コザの話は書きたかったのです。
結論から言います。
今、世界の各都市が「こういうまちをつくりたいな!」と躍起になっているインフラとしての風景が、沖縄市のコザ、パークアベニュー通りにすでにあったのです!
どういうことかというと、
この数年の海外のまちづくり系ニュースのメインストリームの一つは、「車から人にまちを取り戻す」「車から歩行者へ」「ファーストからスローへ」といったもの。この傾向は以前からあったものですが、コロナを機にこの方向でのまちづくりの変革のスピードは、より高まっている傾向にあるみたい。例えば、アメリカではこんな計画があったり。
で、どうして「まち」を車から人に取り戻すのか? そこには、たとえばこんな研究があったりします。
ロンドン交通局による、「ヘルシー・ストリーツ・アプローチ(Healthy Streets Approach)」と称した、徒歩や自転車でアクセスしやすい街づくりの研究では、その街並み改善に取り組んだ各地域の統計を取ってみたら、「歩行者数93%増」「人々が通りで過ごす時間が増加」「買い物・カフェの動216%増」「貸店舗賃料は7.5%上昇」「空き店舗17%減少」という結果が現れたと。
一生懸命イベントやコンテンツをつくって集客を目指しても、こんな効果は得られないですよね。でも、本質的な「まちの1階」のつくられ方にテコ入れすると、こんな効果があるんです。
で、これからの「まちづくり」はコッチだよね!というのは、ほぼ世界では共有はされていることなんです。だから例えばベルリンでは、こんな話も持ち上がっていたり。このレベルの話題は、毎日のように世界各都市で沸くように出ています。
それで、先の10月に喫茶ランドリーのフレンドリーショップ「ココロゴコロ」が糸満市にオープンした際に、コザというエリアを訪ねました。昔、元子さんが こんなプロジェクトをコザの皆さんとつくったことがあったので、元子さんにとっては嬉しい再訪となりました。
コザのパークアベニュー通り★世界が目指す理想ストリート
コザ中心部、パークアベニュー通りに到着。このファーストビューで、ワタクシ感動のあまりため息が漏れております。
まず基本的なつくりが、最高な形に考えられているんです。奥から店舗があり、軒先のエッジにも人の居場所を設え、アーケード型の歩行者空間があり、さらに歩行者空間と車道の間に、樹木帯を等間隔に廃したエッジゾーンを。樹木の周りは座れることも意識してデザインされています。そしてその樹木同士の間もまた、店舗側が自由につくれる空気が生まれているのも最高で。
これ設計された方は、一つひとつの部位に、多様な営みをきちんと想像されています。相当な方だなぁ。
やべーなー。。これ、この前見た、ニューヨークとかベルリンが目指してる光景が、今目の前にあるじゃん!!とかブツブツ言いながら写真を撮っていきます。
ぐわー。。車も直で路駐できるなんて。。かつて幕張副都心の住宅街で路駐標準のまちがつくられましたが、車を停めたときの風景の良さのレベルが桁違い。まさに絵になる光景! 機能で納得させるのではなく、やはりここまで考えなくては駄目ですね。軒先の黄色いラインをもったポコポコ屋根も最高。こういうデザインこそが、どの世代の人の心にも残ることになる。まちのアイデンティティにもなっていく。
もう、どこにカメラを向けても絵になる! 自転車も気持ちいいだろうなぁ。
最近、よく聞く「にじみだし」って言葉を、みんな雰囲気で使ってしまっているけども、もう少しロジカルな理解が浸透しないと意味がないと思っています。この写真なんかは、描き込みまくっていくと、いろんな発見があるはず。まさに、あらゆるストリートづくりの理想としておさえておくべきビューです。
さらに感動するのは、ちゃんと道が車の速度を抑えさせるためにクランクしてるんですね。一般的に一通は速度が速まるとされているけど、これでさらに歩行者にやさしくデザインされているというわけ。
こんな「まちの1階」に面する形で、まちのFM局が生放送をしていて、隣のお店のおばさんは、掃き掃除。どこをとっても理想的光景。(夜通ったら、FM局前にダンサーの子どもたちがたむろしていて最高だったなぁ)
なんてまちのリビング!!テーブル、椅子、木陰、、、最高だなと思って近づいていったら、
まちなか図書館が、こんなとこにあったり!
まちのつくりが優しいと、人が優しくなるので、必然的にベンチも多いのです。
沖縄の人は、こういう場のつくり方のセンスが、たぶん日本一。
マイパブリック感たっぷりの植物たち。
交差点も最高よね。角にしっかりカフェもあって
角がカフェだと、数年ぶりの再会も、こんな光景になります。歩くまちだから、これが起きる。右の方が車移動だと、こうはならないのです。
樹木のレイヤー感とか絶妙ですよね。これなら車道に対してもガードなんていりません。人が居られる場所が永遠あるわけです。座るもよし、立ち話もよし、ベンチ置くも良し、屋台出すも良し。あらゆることが許される空気と物理的スペースがデザインされている。
今回の話は、以前書いた台北の騎廊の記事にも通じるところがありますね。
まさかの車道を増やす再開発決定!?
と、ここまで書いたようなことを、地元の方々にお話していたんですよ。そうしたら、驚愕の事実が!なんと、この光景は近々壊されるんですって。しかも寄りによって、車道を増やすってどういうことでしょう?
まちをつくり、考えるなら、どうか皆さん死ぬ気で学んでください。なぜなら、それは人の命に関わることだからです。経済的なことはもちろん、人の真の健康にとって、まちがどうつくられるかということによるからです。
役所の人たちも、識者と呼ばれる人たちも、市民の人たちも、何となく自分の感覚や好みを押しつけあって、まちはつくるものじゃないと思います。じゃあ、答はどこにあるのか?って。それは同じ悩みを抱える世界の人たちが何を考え学び実践しているのかというところに詰まっています。その中で、科学的にもいろんなことがわかりはじめています。だから、車から歩行者へという方向性の方が、どの立場の人も得するらしいよ!というような、科学的裏付けのポイントは、まずきちんとおさえておく。それをベースにコザなりの状況を重ねて行けば、新しいコザオリジナルのまちの魅力が立ち現れていくはずです。
最初に書いたように、今時、車道を増やす試みは、海外はもちろん、国内でもほとんど聞いたことがありません。シャッター街を脱するにしても、必要なことは基本、「まちの1階」に人々の居られる場所がどれだけ豊かにあるのか。これはもはや普遍的な話です。
こういう話の場合、これまでに相当なプロセスがあり、喧々諤々の議論がされてきた上での結論なんだと想像します。でも、どうかコザの人たちには、このストリートがどれだけの価値かを、理解してもらえたらなーと思いました。
今のパークアベニューに手を加え、車道を増やすのは「無し」でしょう。ニューヨークの人たち、ベルリンの人たちが指をくわえて欲しい光景がすでにそこにあるのですから。
コザゲート通りへ移動してみると、軌跡のベンチが
そんな感動とショックに包まれつつ、コザのもうひとつのメインストリート、コザゲート通りへ。道路や道路のデザインは違っていても、使われ方は同じ。歩道にお勝手ベンチと店舗軒先の外席で歩道をサンドイッチ。
もともとあるこの手のデザインも、相当に優秀です。ベンチの表情をしていなくても心地よく座ることを迎え入れようとするデザイナー・設計者の意図がきちんと表現されています。
そして、現れた「軌跡のコザベンチ」!元子さんもご満悦です。
これちょっとデザインが変でしょ? のぞき込むと既存花壇に座面板が渡っています。
コザのソーセージ屋 TECIOの嶺井さんに話を聞くと、
この歩道の花壇に植えられていたブーゲンビリアが、伸びすぎて危険だということで、役所が切り落とそうとしていたんですって。それを聞きつけた嶺井さんたち。とんでもないということで、少し移動させて、それらをまちの人たちでDIYしてベンチにしてしまったんだとか。
切り落とされるはずだったブーゲンビリアが、こんなすてきなベンチに。愛くるしいデザインだから、思わず記念写真を撮りたくなってしまうし、もう一石何鳥ですよね。さらっと書いてしまっていますが、これが瞬間的に起こせる市民のパワー、許容する行政のパワー、トータルですごいんですよね。たぶん日本の他の街で、このスピードではありえないでしょう。
打合せとか許可とかそういうことではなく、人間的なコミュニケーションのやりとりで、まちを動かしている、まちを動かせている。そうなんです。タクティカルだとか、あーだこーだ言っているうちに自分たちの人生終わってしまいますよ。まずはさっさとやってみよう!その精神と応援し合う姿勢に勝るものはありえません。
というわけで、このあたりで「コザは、とんでもないまちだ」という思いは、核心へと変わっていったのでした。
そしてアーケード街でとどめを刺された
パークアベニュー通りとコザゲート通りの間にはアーケード街が走っていて、そちらにも潜入。ネットで検索すると、最近はシャッターが多いから廃墟的な魅力がある、とか書かれていたけど、ぜんぜん違うじゃないですか。
「見る街」ってなかなか見ないフレーズ。どういうまちであろうということ、昔から哲学してたんだなーと。
どの通りも、人気があって、夜でも、子どもがふらっと歩いていて、
まち角後にダンススクール。子どもたちが踊っていて、軒先で話すのは親御さんたちでしょうか。
10月末の沖縄なんて、最高に過ごしやすいから、飲み屋はどこも自然と歩行空間に席を。歩いていると、
突然熱気を感じ、振り返るとそこがインキュベーション施設で、のぞき込むと若い人たちが、にぎにぎ白熱しているじゃないですか!なんだコザというまちは。。反対側にも異様な空気を感じて、振り返ってみたら、
「おきなわ熱中小学校」!?
こっちはのぞき込んだら3Dプリンタやらが出てきて、奥からアクティブオーラがまちにバンバン出ています。す、すごすぎる、アクティブな人たちが、こんなにもいるのか。。。
さらに、さっきの軌跡のベンチを設計施工したコザの岡戸さんが、元子さんに見て欲しくて—と、ある建物へ連れて行ってくださると、こんな出で立ちで、
中に入ったら、アーティストインレジデンスになってて、ある方が絶賛制作作業されていたり。さらに上階に上がると、
もうすぐ、ここでキッチンをシェアしたお店をはじめるとか。この上には、岡戸さんの会社の事務所もあったり。
外へ出たら、ご婦人たちが楽しそうにお話していて。
すごいのは、そうこうしている間にも、元子さーん!と、そこかしこからコザの人が出てきて、あそこの「まちの1階」にもあれができて、私はこれをはじめてとか話し始めるんですね。あ、猫、、、
やばい。これだけで記事が一本書けてしまいそうです。このメッセージ、猫の管理している人が書いているのではなく、汚く散らかっていたのに嫌な気持ちを持っていた人がつくっったものですね。。。すごすぎる。。。
こんなおしゃれな珈琲ショップもオープしていたり。
最近では、いわゆる関東圏のオシャレ郊外を捨てて、コザに魅力を感じて移住して、新しくお店をはじえめる方も増えてきているそうで。コザ完全にいい意味での確変状態に入りはじめている感じ。
はい。もう僕も元子さんも、この時点でコザに完全にやられています。
廃墟マニアに目を付けられはじめていたコザのまちが、このコロナ禍で、こんなにも「まちの1階」を変化させているなんて本当に感動しました。ウォーカブルなんて言葉もそこかしこで聞くようになりましたが、本質から完全にずれ始めているのが、さすがの日本というか。ウォーカブルとは、単純に「歩きやすくすること」ではないですからね。
まず、コザのように「まちの1階」に、まちの人たちの個人の欲に即した小さなお店が誕生し続けること、それを成立させるコミュニケーションがあることが大前提。その上で、物理的な歩きやすさと楽しさを整えていく。これは綺麗にするということではありません。コザの軌跡のベンチのように、いかに市民の自発性から、行き交う人のことを想いまちを楽しくしていこうということを常にトライさせていくかということ。そういうトータルなトライの折り重なりの先に、”真のウォーカブル”があるってわけです。
ウォーカブルなコザは、人間味に溢れています。いや、人間味に溢れているからウォーカブルなのか。そうね。ウォーカブルなまちってのは、コザのようにいつまでも居たいと思うし、離れてもまた帰ってきたくなるんです。そういうことなんでしょう。
最後に。コザって歴史的に負なるものも背負っているのだそうです。そこに目を伏せず、蓋をすることなく向き合って、乗り越えて、今このようにまちが変わり始めている、変えようとしていることにも感動しました。そういう視点からも、世界に参照されうるまちだと思います。
というわけで、今日はこの辺で。
コザの皆さん、どうかパークアベニューを大切にして、世界も驚く「まち」をつくって、世界に発信していってくれたら嬉しいなぁ。確かに、今でもシャッターは多いかもしれません。でも、本当の意味でのウォーカブルシティーとなりうるインフラとしてのポテンシャルと、今湧き始めているまちをつくる人々の熱気があれば、多分その問題は確実に良い方向へ向かうでしょう。きっと今この瞬間も、コザのまちは、そう動き続けていると思います。
そして、そっちへ舵を切ることのの方が、より多くの人が、健康になるし、お金ももちろん儲かようになる。あぁ、また早くコザへ行きたい!
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大西正紀(おおにしまさき)
ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。
*ベンチの話、喫茶ランドリーの話、グランドレベルの話、まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!