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その名も「ハタメキ」!清澄白河にオープンした「喫茶ランドリー」の従兄弟は、クライアントの“やりたい”を喚起させ続けるべく、間口5.5m、あの有名長屋の1階に誕生。

「喫茶ランドリー」のような場所を私もやってみたい。

そういう問い合わせを年に何度もいただけるようになりました。それは企業や組織からの依頼もあれば、個人の方からの場合もあります。でも特に個人の方の場合は、「やりたい」という純粋な気持ちだけの方も少なくありません。

そんな中でも本気で物件やつくりたい場のイメージを持って、可能な範囲で予算のことを考え、そして何よりも依頼をいただく前に、何度も喫茶ランドリーに来て下さっている方に出会うと、本当に嬉しいものです。きっと自分なりに、自分のやりたいこと、喫茶ランドリーで垣間見られることをすり合わせて、吟味されている。その能動的な姿勢に大きく感動してしまいます。

清澄白河のアノ長屋だ!

そのような中、ある日、訪ねて下さったのは江間みずきさんという女性でした。

顔合わせの打合せ初日から、手にはある不動産情報のチラシが。拝見させていただくと、建築に携わる人なら誰もが知っている清澄白河のアノ長屋ではないですか。

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清澄白河を降りたことがある人なら、見たことがあるかも!?

清澄白河の交差点の少し南側。清澄白河の清澄庭園の際の部分、清澄通り沿いに建つのが「旧東京市営店舗向け住宅」。関東大震災後の1928年に震災復興事業として東京市によって建築されたもので、鉄筋コンクリート造の2階建てが、複数の住宅で1棟になっている。そういう長屋がいくつも連なっています。そこのひとつが、今回の対象物件。(下の表具店と描かれているところです)

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訪ねてみると間口はわずか2間半 (5.5m)。1階の面積は喫茶ランドリーの半分以下でした。でも、清澄白河から現代美術館へと抜ける資料館通りの入り口に近くて、南北に走る清澄通りに面しているから視認性も高い。前面の歩道は比較的人通りが多い場所なのですね。

これは、間口の狭さ、歩道の狭さも、密度を高めやすいとポジティブに捉えれば、エッジデザインによってアクセシビリティの向上へつなげることができる!そう確信できました。

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現地で観察を続けていると、1階のガラス戸のぎりぎりを人や自転車が通り抜けていくので、とてもスリリング。互いの顔を認識することも容易だから、視認のみのコミュニケーションも図りやすい。内外のこの関係を活かすことができれば、お店に立つ人とまちを行き交う人とのアクティブな関係をつくれるはずですです。

そうして、プロジェクトは設計へと進んでいきました

1階だけではなくて、2階には江間さんが着物のアトリエも持ち、着付け教室を行うことに。当初、1階、2階のエントランスを分ける案もあったのですが、江間さんのひとつの側面である「着物」というものと分断するのはもったいない。これもひとつのマイパブリックですから、それが1階に滲み出していてほしいという想いと空間の効率的な活用の点から、エントランスは1階の正面1箇所のみとしました。(下写真:中村絵)

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1階づくりとして、プランニングでまず外せないポイントは人が立つキッチンスペースの位置と大きさ。視認のみのコミュニケーションを図るためにも、キッチンスペースは最小限とし、通り側に顔を覗かせられるスタイルに。合わせて、軒先スペースをつくるために、エントランスを敷地境界から約1mセットバックさせました。この小さなバッファが、後にいろんな活動を引き出し、また人を引き留めるスペースとなります。(逆にこの間口の狭さで、セットバックしすぎると厳しいものがあります)

ドアも江間さん自身に塩梅のいいアンティークを選んで来てもらいました。こういうところが建築家が好きそうなスンとしたディテールのサッシになるだけで、そこで起こるコミュニケーションは半減するもの。人は自然と目に入るものを読み・コミュニケーションする生き物ので、情報量の少ないシンプルさは人を緊張させてしまうからです。(下写真:中村絵)

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全体の面積が狭いこともあるので、残りは一室空間としつつ、手前の既存の床や階段、工事途中で現れてくる断面などの昔の痕跡は極力残していくことに。(下写真:中村絵|手前の既存床の一部には、なんと防空壕が!)

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実は、江間さんは女優さんでもあります。だから、江間さんが持つ演劇的なエッセンスも意識して、奥側を二段上げて、その先にはテラスを新設、そして清澄白河の鬱蒼とした緑が背景となるようにしました。寸法にすると数十センチおきの、異なるデザインモードの重なりが、ここに来るお客さんにさまざまな使い方の想像を、引き上げるはず。(下写真:中村絵|どこまでが既存でどこまでが新築かぱっと見はわからない。階段は階段なのかベンチなのか本棚なのかわからない。)

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こぢんまりとした広さで、家具類をはじめから規定しまうと、そこへ来る方々にのポジティブな使い方の妄想を妨げてしまこと、また江間さん自身の運営に対する能動性の高さを鑑みて、今回はあえて家具類のほとんどを我々ではディレクションしないことしました。その代わりに、スタート後はすべて自由につくっていっても良いということを伝え、全力で応援していくことに。(下写真:中村絵|キッチンカウンターの側面には、ちょっと変わった板が8枚。どれも簡単にテーブルとして出すことができりょうになっています。)

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また、今回はネーミングも担当。このスペースをはじめるにあたり、江間さんが書き留めていた 「演劇について―ダランベールへの手紙」(著:ルソー)の一節をきっかけに、さまざまなことを読み込み、田中から 「ハタメキ」という名前を提案させていただきました。(下:当時のプレゼン企画書の一枚)

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こういった名前一つでも、対外的なこと以上に、その後のクライアント様の能動性にどう影響しうるかが大切になってきます。この名前から互いにイメージを膨らませていき、江間さん自身がデザイナーをディレクションし、ロゴを作成したり、看板もハタ型に。またオープニングでは、ハタ型のチラシがまちを行き交う人々に配られました。

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3つのウェアと理念を伝えるためにできること

さて、このnoteでもお話させていただいたことがある「3つのウェア」の話、ソフトとハードではなくそれを取り持つオルグウェア(コミュニケーション・組織化のデザイン)は、言わば場を動かすコミュニケーションの基本的な所作や考え方だったりもするわけですが、多くの施設(お店)の場合、ここを明確化しないので、目的が売り上げのタダノお店になってしまいがちです。そうならないために、グランドレベルでは原則プロジェクトに関わるすべての人には喫茶ランドリーでの体験勤務をお願いしています。

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今回のMさんもまた、計画や工事と同時進行で、研修も兼ねて喫茶ランドリーで働いていただきました。お店のシフトが困った時期も重なって、これまで体験された方の中で、一番回数を多く体験していただいたと思います。

お店の人ではなく○○さん個人でいること、お客さんとどのようなコミュニケーションを取るのかなど、喫茶ランドリーの基本的な理念、下記の記事にあるようなことを、実際の空間で人と接することで体現していきました。

やはり、この部分が「喫茶ランドリー」のようなスペースをつくり運営していく上では、肝になってきまし、何よりもリアルな場やお店を運営していくきっかけとして、少し自信を持つことができます。(実は、我々がそうだったように、クライアントのほとんどは飲食経営経験が皆無だったりします)

設計は、喫茶ランドリーの時から、ほぼパートナーのように協力していただいている建築家の石井大吾さんです。施工は、ゆくい堂さんでした。下の工事途中の写真、やばいですよね。ここからもわかるように、建物全体のリノベーションは非常にアグレッシブかつ秀逸なものでした。壊しては検討し、剥がしては検討していく。建築的なリノベーションの事例としても見どころが満載です。おそらく石井さんとゆくい堂さん、それに構造家の加藤千博さんがいなければなし得なかったでしょう。

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上のこの空間が、

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こう生まれ変わりました。

「ハタメキ」2020年6月3日オープン

そして、コロナの中、「ハタメキ」は2020年6月3日にオープン。オープン直後から日々変わり続け、すぐに常連さんも生まれ、誰もが昔からあった雰囲気に包まれ心地よく過ごされていくそうです。

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ほとんどゼロからはじまったメニュー開発や運営は友人の方やご家族のサポートもあり、最初の数週間で信じられないほど軌道にのっていったようでした。自身でディレクションされている雑貨コーナーの充実も室内の家具の成長と合わせていい感じのようです。初めての展覧会開催も決まったそう。

今日の時点で、オープンから2ヶ月も経っていないのに、本当にすばらしい流れです。喫茶ランドリーの理念を持ちながら、しかし江間さんを中心とした関わる人々の手による、独自の進化をしはじめています。

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ちなみに写真はすべて、オープン直後の写真なので、今はもうまったく密度が変わっていると思います。その変わり様が知りたい方は、「ハタメキ」のインスタをご覧いただくか、お店にもぜひ!

理念のフランチャイズ、その意味をハタメキに見る

クライアントの江間みずきさんの本職は、俳優で着物コーディネーターです。そんな江間さんが、どんな想いで、私たちのところへ相談に来て下さり、また、未来にどのような場所を自分で持ってみたいと思っているのか、また、どういう場所が理想的なのか、江間さんと対話を続けさせていただきました。

改めて、ハタメキのホームページに綴られている江間さんにとってのストーリーを拝見しました。

(前略)芸術や文化は、今生きるか死ぬかの時には、必要ないかも知れない。でも生き続けるためには、日々を豊かに過ごすためには、文化は、絶対に必要なんだ。

私はようやく確信を持ちました。

そして私は、「入り口」を作ることにしました。アートで生きていきたいと思っている人が、生活を豊かに感じていきたいと思っている人が、自分の生き方を見つけ世界と繋がっていく最初の入り口。入るのに、大層な勇気のいらない、本当に気軽な第一歩。

それが、「ハタメキ 」です。

まずは、お茶を飲みに来るだけ。そこで、子供の頃のように自由に過ごすこと、何かしてもいいし、何もしなくてもいい、ただ自由に、そこに在るということ。そこで、少しでもやりたいな。と思うことができたらちょっと、周りを見渡してみればいい。そこに、置いてある作品がヒントをくれるかも知れない。隣の席に座っている人が、やり方を知っているかも知れない。道具は、お店にあるかも知れない。そっと背中を押す、そんなお店を目指します。

・文化が絶対に必要なんだ
・自分の生き方を見つけ世界へつながる入り口をつくりたい
・ただ自由に、そこに在るだけでいい
・そっと背中を押す、そんなお店を目指したい

数回前の記事に、喫茶ランドリーグループとは理念のフランチャイズですと伝えましたが、つまりはこういうことなんです。クライアント様が、「喫茶ランドリー」というひとつのサンプルを通して、グランドレベルの田中や僕との対話を通して、自分なりにそのお店・その場がどうあるべきかを、自分の言葉で表現できるようになるということ。

でもこれは、僕らが教えたとか、そういうおこがましいことはないのです。江間さん自身が不確かではあったけど、心の奥底に持っていた「こういうことじゃないかな??」という気持ちに、「大丈夫!間違いない!それだよ!!」という軸をポンっと与えてあげる、それこそ背中を押す作業が、理念を伝授する上で、私たちが具体的に行ったことなのかもしれません。その行為そのものがオルグウェアのデザインの一部なのです。

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清澄白河はコーヒーとか、アートとか、オシャレな街と言われがちです。でも、そんなものには何ひとつ媚びず、「どんなひとにも自由なくつろぎ」を哲学し、実践しはじめた江間みずきさんによる「ハタメキ」は、この地域のあまねく人々との関わりを持ち、背中を押し続けながら、小さな文化をいくつも生み出すきかっけになっていくことでしょう。

ちなみに「喫茶ランドリー」から「ハタメキ」までは、(一駅分)1.5km、徒歩20分ほどです。ぜひ、ハシゴをしながら、森下と清澄白河のまちを一日かけて楽しんでいただけたら嬉しいです。

というわけで、今日はこの辺で。

1階づくりはまちづくり

プロジェクト「ハタメキ」データ
・場所:東京都江東区清澄3丁目3−21
・用途:飲食店
・クライアント:江間みずき
・一階コンサルティング・プロデュース:株式会社グランドレベル
・設計・監理者:石井大吾デザイン室一級建築士事務所
・構造設計:加藤千博(加藤構造計画事務所)
・施工:ゆくい堂株式会社
・公式サイト: https://www.hatameki.com/

*以下は、江間さん自身がディレクションを行った
・フードメニュー考案:太田知子
・ロゴデザイン:山口崇多
・トイレ内 壁画:久島弘子
・家具製作:久保勲生
・棚製作:浅見風

▼ 喫茶ランドリーと1階づくりの入門書『マイパブリックとグランドレベル』(晶文社)


大西正紀(おおにしまさき)

ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。

*喫茶ランドリーの話、グランドレベルの話、まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!

http://glevel.jp/
http://kissalaundry.com

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大西正紀
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