コロナからのまちづくり02|地域の資源を活かそう!は、もう終わり。あまねく個人の、あらゆる発露を愛でることで、まちが育つイメージを!喫茶マーケットとブードゥー・ドーナツ。
まちづくり関連の資料を見ていると、行政でも、企業でも、やたら登場してくる言葉に「地域の資源」「地域の産業」という言葉があります。何をよりどころにして、まちをつくっていくか?を考えたとき、使いやすいワードなのでしょうが、こううたってしまうことが、逆にまちの可能性を猛烈縮めていることに気付いていないようです。
以前、関連した話を書きました。クリエイターでまちづくり!のおかしさについてまとめましたが、「地域の資源」「地域の産業」という言葉を安直に使うあたりも、全く同じ種類の病です。そもそも「まち」とはということを一切哲学せず、今目の前にある見えやすいものだけを見ている。つまるところ、まちに暮らす市井の人々を“ただの消費者“としか、捉えていないことが、完全にアウトなわけです。
”ビジネスのはじまり”とは「個人」の“小さなやりたい“
例えば、●●区は皮産業が昔から盛んだったので、皮産業を中心にしたまちづくりをしよう!とうたいます。もちろん、そのこと自体は悪いことではありません。むしろ、そういうものは積極的に残し続けていくことが大切なのは言うまでもありません。
でも、それをそのまちのまちづくりのにすることが、おかしいのです。
考えてみてください。そもそも皮産業だって、はじまりをたどっていくと、ある個人の想いと行動からはじまっているんですから。そのはじめられる器を、また応援する器を、まちそのものが持っていたから、その人はチャレンジでき、そういう人たちの重なりが、ひとつの産業にまで成長させてきたわけです。
で、これは今、地球上に存在するあらゆるビジネスも同じなのです。すべて個人の“小さなやりたい“の実現からはじまっている。Appleだって、Facebookだって、日頃目にするチェーン店も、まちの中華屋さんも、みんな“小さなやりたい“の実現が一歩目なのです。私たちは、そのことを改めて理解をする必要があります。
今や未成年でも80歳でも、起業するような時代です。
ある主婦が、やってみたいと思った。ある子供が一本の線を描いてみた。
そういうほんの些細なアクションが、たとえば「産業」なんて呼ばれるところまで、地続きだというイメージを持てていますでしょうか?
「個」というものが持つ、小さな小さなやりたいことが、どれほど愛でるべきものか、実現させてあげるべきものか、という視点を心に強く持つ。これはまちづくりに関わる人たちだけではなく、それこそあまねくすべての人々が互いに持つべきマインドでもあります。その感覚をまちづくりでは中心に据えるべきなのです。
まちに生きる人は、変わっていきます。時代も変わっていきます。情報もモノも技術も変わっていきます。どんな変化の中でも、あまねく人々の、あらゆる発露(生産)を愛でることができれば、その変化の渦から、常に新しいビジネスやカルチャーの種が生まれ、芽吹いてきます。
その中で、また後世に渡り守りたいようなものに育まれていくものもある。そしてまた新しい芽が生まれ続けていく。それが人間が人間らしく生きられるまちの基本なのです。
では、もう少しイメージを共有できるように、今回は、ここでふたつの事例を紹介します。まずは「喫茶マーケット」についてです。
事例1:「喫茶マーケット」という事件が教えてくれたこと
喫茶ランドリーは、小さなまちづくりと思って運営しています。私たちがデザインしたベースとなるハードの中で、独特のコミュニケーション(ファシリテーション)により、さまざまなソフト(活動や試み)を生み続けてきました。具体的には、これまで2年間で実にいろんな方々の数百の“小さなやりたい“を実現させてきています。それは、コロナの状況の今もそれは変わりません。
中でも、最も感動したひとつに、「喫茶マーケット」というものがあります。喫茶ランドリーをはじめた当初、来店したある男性とお話をしていたら故郷の秋田の両親がつくる野菜たちが、なかなか東京の人たちに手に取ってもらえないと。また、農業そのものが抱える問題も聞かせてくださいました。
そこで、いつものように言いました。喫茶ランドリーの軒先で、野菜を売ってみたらと。もちろん使用料は無料です。住宅街のど真ん中で、喫茶店なんてうまくいかないと言われていたのですから、八百屋はどうだろう?と表居たのですが、それでも、彼はやってみることにしました。すると、偶発性を連発する1階の魔力も相まって、ちょこちょこ人が集まってくる。
名前は「喫茶マーケット」という名前になり、月1ペースで開催を継続していくと、今度は何やらメンバーが増えていくんですね。毎月、旬な野菜が秋田から届いて、それを売る。でも、観察していると、彼らはお金を稼ぐために野菜を売るということだけをしているわけではない。むしろどのメンバーも、その野菜のすばらしさや美味しさを伝えることが、最大の目的になってるんですね。すばらしいなと思いました。
すると、来て下さっている方々も、そこらへんの商売マルシェとは、ちと違うなと伝わる。すると今度は、そのマインドに共感したひとたちが、私も仲間になりたい、●●を横で売らせていただいても良いですか、となる。どんどん能動的にラインナップが増えていく。まるで小さなまちの成長を見ているみていたで、このあたりで感動も絶頂なわけです。
「喫茶ランドリー」が「喫茶マーケット」の器となり、「喫茶マーケット」が、さらに個人でものをつくる人たちの器となっている。その構図が見えたとき、あぁ、いけてるまちって、生き生きしているまちって、そういうことなんだなと確信した瞬間でもありました。
でも、ここからがまたすごい。今度は、私のお店の軒先でもやってくださいよ!と次々と声がかかるように、いつの間にか墨田区内で人気コンテンツになっているわけです。ある週末などは、「今日は複数で開催してるの」!と驚かされたと思ったら、次は、「錦糸町パルコのオープニングに呼ばれたの」って!!!
そう、これが「新しいビジネスやカルチャーの種が芽吹いた」ってことなんです。ひとりの男性が、やんわり想い描いていたことが、小さく実現し、それをまちの多くの人たちが愛で、応援してくれた先に実現したパルコのオープニング! でももちろん、その時点でさえ通過点に過ぎません。これまでもそうだったように、これからも想像できないほど楽しい発展をしていくのだと思います。そしていつかは地域のカルチャーと呼ばれるものにまでなる可能性は大きいのです。
事例2:ノリではじめたポートランドのドーナツ屋が市長公認に!?
もうひとつ紹介したいのが、ポートランドのブードゥードーナツ。2014年にポートランドへ行ったときに、偶然出会ったドーナツ屋さん。けど、何か良い意味でイカレテルでしょ?日本のオシャレドーナツ屋とは何かが違うっぽい。
ふざけたお店なのかと思ったら、外ではにぎにぎとみんな楽しそうに食べていて。
中に入ると、メッチャはやってるやん!! 赤ん坊連れから、ご婦人まで、あぁ、本当にポートランド市民に愛されているだなぁと伝わってきます。
でも、このラインナップ見て下さい。日本じゃ考えられない繊細さ皆無なんだけど、この好き放題っぷりが楽しさ満載でしょ! 溢れるドーナツ愛を感じます。(写真=John Whitlock)
それが、またこんな最高クレイジーに可愛い!箱に入れてくれるんですね。
さらに、帰りのポートランド国際空港でも発見! えっ!こんなところにまであるんだ!って驚いていたら、ポートランド公認のドーナツ屋なんだって言うので、さらに感動。
でも、ブードゥードーナツのすごさは、まだまだ序章に過ぎませんでした。
その数年後、上の記事を発見したんです。なんと、そこにはブードゥードーナツを立ち上げたというお二人による馴れ初めが話されていました。
リンク先をぜひ読んでいただきたいのですが、要約すると、そのまちでドーナツが食べたいと思ったが料理をしたことがない男二人が、ドーナツのつくり方を見学し「これならいけんじゃねー」と思い、全力でやったら、ポートランド市公認のドーナツやになり、さらに西海岸で一番大きなドーナツチェーンになっちゃったって話。
喫茶マーケット然り、これもまた、今日の記事のタイトルそのままなんです。
ドーナツは、ポートランドの資源でも、そもそもあった産業でもなんでもありませんでした。トレース・シャノンさんとケネス・ポグソンさんという二人の男性の小さなやりたいを、まちの1階で実現したことが、市民に愛でられ、育まれ、市長にも認められ、まちには無くてはならないものに成長した。
で、この話はポートランドで起きていたことのほんのほんの一部だということ。つまり、ポートランドというまちでは、こういうことが日々無数に起きているのです。もし、ポートランドが、日本のように哲学なしで「地域の資源」を再発見しよう!「地域の産業」を継承しよう!とうたっているようなまちだったら、きっとこんなことは起きなかった。
世界のいけてるまちは、あまねくひとびとが、消費者である一方、いつでも能動的に生産者・クリエイターになり得るという可能性に充ち満ちています。今、あなたの目の前にいる、どんな人も、明日のブードゥードーナツなのです。
そんな感じにまちというものは育っていくのだというイメージを、まずはすべての人たちが共有する。まちづくりの1ページ目は、そこしかないと思います。
で、今回の話と1階が密接に関係しているということは、また次回以降にしましょう。今日はこの辺で。
1階づくりはまちづくり。
いや〜しかし、早く海外に行きたい!!
大西正紀(おおにしまさき)
ハード・ソフト・コミュニケーションを一体でデザインする「1階づくり」を軸に、さまざまな「建築」「施設」「まち」をスーパーアクティブに再生する株式会社グランドレベルのディレクター兼アーキテクト兼編集者。日々、グランドレベル、ベンチ、幸福について研究を行う。喫茶ランドリーオーナー。
*喫茶ランドリーの話、グランドレベルの話、まだまだ聞きたい方は、気軽にメッセージをください!