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不思議な話をする。 彼と一ヶ月連絡が取れなかったときのこと。 とても不思議な感覚なのだけれど、「彼は今体調を崩しているな」「葛藤しているな」という直観があり、わたしはあえて連絡をせずに過ごした。 その直感の要因は、そのとき何度も繰り返し見た夢である。毎夜眠ると、彼が苦しげに顔を歪めている様子や、布団の中で蹲っている様子を夢に見る。やけにリアルで、朝起きてもはっきりと覚えている夢だった。 さらに不思議な感覚は続き、例えば一日の終わりに湯船で一息吐いたときや、夜に布
彼と出会ったのは、八月のことだった。 それまで、朝から晩までとにかく仕事、退勤後でも平気で残業をし、休みの日すらも職場に顔を出す、というワーカホリック気味の生活をしていたわたしが、ある日突然、「男の人とデートがしたい!」と思い立ち、登録したまま長いこと放置していたマッチングアプリを開いた。 そのアプリの掲示板で、一件の書き込みに目が留まった。 わたしが一年前に趣味で書いた小説の男主人公と同じ名で、同じ悩みを持つ彼に、わたしは自分の小説の登場人物と現実を
「俺に深入りしないほうがいいよ」 薄暗い車内で、静かに、彼が言った。 「うん、分かってる。でも、あなたを愛しています」 助手席に座ったまま身体を捩り、彼を真っ直ぐに見つめながらそう返答すると、彼は困ったような、涙を堪えているような、でも喜んでいるような、なんとも形容し難い表情をして、わたしを見つめ返した。 とても複雑でもどかしい生活を送っている彼は、恐らくもう長い間、誰からも「愛している」なんて言われていないのだろう。 かく言うわたしも、つい去年まではとても複