見出し画像

モンゴルシャーマニズムとイブキジャコウソウ

チベット密教とシャーマニズム

モンゴル国民が帰依する宗教は「チベット密教」ということになっている。
“なっている”と表現したのは、モンゴルの本来の宗教は、森羅万象に精霊を見る「アニミズム(八百万の神)」だからだ。

13世紀、モンゴルを起点にユーラシア大陸を支配していったチンギス・ハンの一族は、”自然資源を奪い合う遊牧民”たるゆえ、気が荒く好戦的となる自国民たちを従順にさせる為の洗脳ツールとして、チベットから仏教を導入した。
さらに時代は下り、モンゴルが清に支配された時代には、遊牧民たちの勇敢な時代と精神を忘れさせる為、仏教の普及がさらに強化されたという。

チベット密教の流れを持つ
寺院で拝む人たち

しかしながら、未だに悠久の自然の真っ只中で生きるモンゴル人の生活からは、自然崇拝の精神は消えていない。

例えば、ゲルの真ん中は精霊の通り道であり、家族ですら通ってはいけない空間がある。
羊などの家畜を解体する時は、神聖なる草原に一滴の血を落とすことは許されない。
そして草原のあちこちに、神聖な場所であることを示すために石が積まれた「オボー」という場所がある。

「オボー」と呼ばれる神聖な場所
沖縄の御嶽などと通じるものがある

それは日本にもかろうじて残る、沖縄の琉球神道や、アイヌの精神世界とよく似たアニミズム原始宗教そのものともいえる。

その自然崇拝のもと、有機物・無機物を問わず全てのものに精霊が宿り、その精霊を交信する能力を持つのがシャーマンであり、その世界をシャーマニズムと呼ぶ。
「オボー」はシャーマンが儀式を行う場所の一つでもある。

モンゴルの聖なる草『ガンガー』

和ハーブ協会が主宰するモンゴルツアーでは、草原の薬草&ハーブ散策やモンゴル伝統医療などのレア体験に加え、“モンゴル国民にもハードルが高い”シャーマンとの直接邂逅が、目玉の一つだ。

今回ツアーでは、ウランバートル郊外にあるシャーマンの自宅を訪ね、儀式を行う部屋で貴重な経験をさせてもらえることになった。
まず、シャーマニズムの神聖なる空間に入る前、玄関では魔除けと潔斎を目的とした大切な儀式を受けなければならない。
それは、素晴らしい香りを発する植物を燻した煙を、身体中に浴びることである。

素晴らしい香りを持つガンガーの煙を
全身にまぶすことで魔除けを行う

中に入って、我々を迎えてくれたシャーマンは、意外にもまだ26歳のあどけなさも残る、可愛らしい女性。
名前は「ザヤ」といって、なんと今、3人目のお子さんを妊娠中だという。

ザヤが、この魔除けのハーブについて説明してくれた。
「皆様の身体を浄めた植物は“ガンガー”と呼ばれ、モンゴルではもっとも神聖な力を持つ植物の一つです。この香りに力があり、シャーマンの儀式でも重要なハーブになります。」

ガンガーは、意外にも日本でも生息する植物である。名前は「イブキジャコウソウ」(学名;Thymus quinquecostatus)といい、喉の不調などに使われてきた和ハーブだ。

モンゴルな神聖なハーブ「ガンガー」は日本の寒冷地に生えるイブキジャコウソウと同種

イブキジャコウソウは日本~韓国、中国、モンゴルにかけて見られる、東アジアの “タイム”である。
ヨーロッパタイムの「タチジャコウソウ」(学名;Thymus vulgaris)と違い、葉が地面に這うように横に広がる。
日本では1000m以上の亜高山に生息し、北海道では平地でも見られるが、なかなかレアな植物だ。
モンゴルにおいては、テレルジなど中部の草原で、岩場の上に多く見ることができる。

モンゴルの生活に色濃く残るシャーマニズム

ザヤから、モンゴルのシャーマン民俗学について話を聞く。

「私はまだ一人前のシャーマンになったばかり。シャーマンになれる人は、神に特別に選ばれた人。例えば幼少の頃に大病をするなどの兆候から、周りの人間や、近くにいるシャーマンが見出していきます。」

「モンゴルでは未だに、人生の大切な選択のタイミングや、悩みが解決しない時などに、シャーマンを頼りにします。大統領や政府の要人も、専門のシャーマンを置いています。」

今回のシャーマンは26歳のザヤさん
3人目の赤ちゃんを懐妊中の可愛らしい女性だ


そんな貴重なお話を聞いている内に、あっという間にシャーマニズム儀式が始まる時間となる。
精霊を降ろす神聖な部屋に入り、彼女は皆に語り掛けた。

「これから私は、私の祖父を自分の身体に降ろします。私はまったくの別人になり、その間の記憶はありません。
儀式は激しいところもあり、皆さん、ちょっと引いてしまうかもしれませんけど、よろしくお願いします。」

そういうと彼女は、動物素材などで作られた神秘的なシャーマンの衣装に着替えた。
ここから、参加者全員が引き込まれる儀式が2時間近くに渡り、繰り広げられた。

助手の手助けで儀式の準備をするザヤさん
ここから信じられない光景が展開される

シャーマンの貴重な儀式の様子は次回にて!

こちらのブログで書かれているモンゴルの薬草や、シャーマニズムなどのフォークロアを話すトークイベントが開催されます。
詳細はこちら → https://wa-herb.com/archives/3924

いいなと思ったら応援しよう!