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【レビュー】 市販最速3Dプリンタを謳うEnder-7を使ってみた話

金木犀の香る夜の散歩が気持ち良い季節になりましたね.
みなさまいかがお過ごしでしょうか.

突然ですが,1年前に自宅で研究を進めるにあたって購入したEnder-3をレビューしたのですが,記事に想像以上の反響がありました.拝読してくださった皆さんありがとうございました!

該当の記事はCreality社さんにまで伝わった様で,この度ご縁があってCreality社さんから最新の3Dプリンタ「Ender-7」をいただけることになったのでレビューしていきたいと思います.

本記事では,そこそこ3Dプリンタ使ったことがある人を対象に,基本スペックの紹介から組み立て,個人的に気に入っているポイントとをまとめたいと思います.主にEnder-3との比較を行いながらになるので,Ender-3を持っている人にはより伝わりやすい記事の内容になっています.

※この記事はCreality社さんから頂いたPR案件ですが,Ender-7に関する所感は全て手直しの入っていない正直な内容です.ご参考までに.

Ender-7のスペックと基本的特徴

Ender-7のスペックと主な特徴は以下の様になっています.価格がEnder-3が20,999円だったのに比べて,Ender-7は89,000円となっていますがそれに伴って大幅にスペックが向上していることがわかります.

成形技術:FDM
印刷サイズ: 250 × 250 × 300 mm
マシンサイズ:430 × 460 × 570 mm
ホットベッド温度: ≤ 100 ℃
ノズル温度: ≤ 260 ℃
印刷層の厚さ:0.1mm-0.4mm
プリントベッド:カーボランダムガラス
プリント素材:PLA/ABS/PETG
素材直径:1.75 mm
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【主な特徴】
☑️ 最大 250 mm/s 印刷
☑️ リニアレールとCoreXY構造

組み立て~テストプリントまで

1. 開封

では早速,深圳からはるばる海を越えてやってきたEnder-7を開封していきましょう.(傷もついておらず丁寧な梱包でした)


第一印象は「重い!!!」


Ender-3が来た時は,最近の格安3Dプリンタって軽いんだなぁという印象だったのですが,Ender-7は郵便を受け取ってから部屋に運ぶまで引きずるレベルで重かったです.重量は公式によるとEnder-7は17.2kgなので,Ender-3の8kgと比較すると2倍以上ですね.(ボックス式なのでしょうがない)

2. 組立

部品が揃っていることを確認したら,早速組み立てていきましょう.

もし僕が過去の自分にアドバイスするならば,
本体の土台部分を置く場所はプリンタを設置予定場所の近くにしておくことで,後から腰を痛めなくて済みます.

組み立て作業自体は全く難しくなかったです.(所要時間1時間未満)

というのも,Ender-3からかなりUXが改善されていて,半組み立て式といってもネジを回していくだけなので難しい作業はありません.一方で,ひとつひとつのパーツに高級感と剛性があり,そこそこ重さがあるため自分を含めて2人ほど組立要員がいると安心だと思います.(もちろん1人でも大丈夫ですが,プラットフォームを組み立てる時に支えておくものを用意したほうが良いです)

Ender-3と比較すると,高級感のあるガッチリとした佇まいがより目立ちますね.体積は1.5倍くらいありますが,プラットフォームはz軸上のみを移動する方式を採用しているため,実際に必要なスペースはちょこっと大きくなったくらいではないでしょうか.プラットフォームがz軸を担当し,ノズルはXY平面上を動くCoreXY方式になっています.

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後部に位置するDCサーボモータとベルトによって制御している様です.この方式にリニアレールを採用することで,プリント精度と速さを担保しようという目的でしょう.ヒートベッドは重く動きが遅くなっても仕方がないので,ノズルの方を早く正確に動かそうぜという考えだと理解しています.ちゃんとした原理については以下のブログ記事を参照すると勉強になります.

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CoreXY方式について解説している記事より引用
https://corexy.com/theory.html 20210919閲覧

また,フィラメントの引き込み部分の安心感が向上しました.これまでと同様ボーデン式を採用していますが,Ender-7では0.1mmオーダーでフィラメントのFeedとretreatを電子制御できる設計になったので,フィラメント交換が容易になりました.

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あとはフィラメントの補充とレベリングを済ませて完成ですが,忘れていたことが一つ.電源を入れる前にパワーのスイッチを確認して在住地域にあうものに変更しておきましょう.フィラメントの補充とレベルングも難しくありませんので,説明書を見ながら調整していきましょう.レベリングの基準としては,ノズルとプラットフォームの間に0.1mm(コピー普通紙1枚分程度)が程度の高さにします.


3. テストプリント

付属のUSBまたは以下のリンクから入手できるCrealitySlicerというスライサーをダウンロードし,スライスしていきます.

※Ender-3で使用したCuraではEnder-7の表示が出てこず設定できないため,最初は説明書通りCrealitySlicerを使うのが良いと思います.一応使用できるスライサーとしては,公式はCreality/Cura/Repetier-Host/Simplify3Dを推奨しています.

付属のmicroSD内に入っているテストデータでも良いのですが,せっかくなのでスライスしてパラメータを見ておきたいのと,最初はStanfordBunnyやろという個人的なこだわりです.StanfordBunnyのプロジェクトはオープンソースでここで配布しているので適宜ご活用ください.

通常のStandardの設定を選択した時の印刷時間の予想は以下の通り.
Ender-3で約4時間だったプリント時間だったものがプリント速度以外は変更せずにEnder-7では3時間にまで短縮しています(すごい)

この大きさでも250mm/secの速さはさすがですね.より大きいモデルを印刷するとなるとさらに差が開くのではないでしょうか.温度設定は何も手を加えずにStandardでテストプリントしていきます.

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ここで,プラットフォームに1層目のフィラメントが吸着しない問題が発生しました.公式的には①レベルング再調整 ②1層目のプリント速度低下 ③フィラメントの湿気防止で解決すると回答を頂きましたが,自分はマステとケープ(スーパーハードタイプ)を併用することで吸着に成功しました.解決方法は,使用するフィラメントにもよると思いますが,PLAの方が定着はしやすいのでまずは付属のPLAでテストプリントするのがおすすめです(今回は付属のテストフィラメントでプリントしました)


印刷中……


3時間後,ついにテストプリント終了!!!

250mm/secでちゃんとクオリティを保てているのか否かが一番のポイントだと思うのですが,細かい部分もしっかり造形できています.0.2mmの層の厚さでも積層跡は目立たず,さすがのクオリティです!もはや感動的ですらあります.Ender-3が180mm/secであせあせしていたのが,Ender-7では250mm/secでこの質を担保して安定感もあります.

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ABSでもテストプリントを行いましたが,以下の設定にすることで無事に反らずに印刷することができました.(下記以外のパラメータはStandardをそのまま使用)

スクリーンショット 2021-09-19 17.46.59

ABSフィラメントはZ-ABS 800g (v1)で,プリント速度・温度設定を変えています.ABSを使用する場合はプラットフォームを100~120℃程度にするのが一般的ですが,Ender-7では100℃までしか上がらないのが玉に瑕です.しかし,1層目の速度を10mm/secまで落としてマステ+ケープで武装すれば十分に造形できることが確認できました.それでも反りや定着しない問題が発生した場合は,周りを断熱材で覆うなどすると良いと思います.

個人的なお気に入りポイントとここは気をつけてポイント

①プリント速度の速さと質の担保がすごい!
250mm/secという爆速で動くだけじゃなくて,これまでの3Dプリンタと同程度の質を担保されているのが個人的には革命です.これまで何時間も待っていたのが1時間で終わるだけでストレスが減りますし,「欲しい時に欲しいものが手に入る」に近づいている気がします.市販で10万円以内で手に入る機器の中でもこの速度はなかなか出ないと思います.プラットフォームの動きを最小限にして,CoreXY方式を採用した采配が功を奏しています.

②安定感がすごい!
Ender-3の「3Dプリンタとして最低限をツッコんだのであとは好きにして」というスタンスからかなり路線変更をした今回のEnder-7.CoreXY方式とリニアレールによって印刷精度が高いだけでなく,アルミフレームや構造自体も強度があり3Dプリンタの機体が扱いやすくなっていると思います.Ender-3は改造の余地がかなり残されているのに対して,Ender-7はこのまま改造せずに速さと安定性を生かしたプロト製造機として活躍してくれる予感です.

③重さには気をつけて!
Ender-3は片手で扱えるくらいの重さ(8kg)ですが,Ender-7は両手で成人男性がよっこらせと抱えるくらいの重さ(17.2kg)です.そもそも頻繁に移動させる様な機器ではないですが,組立の際などには注意してください.重さがある分耐久性もあるようなきがしている(まだ検証できていない)ので,そこは期待したいところです.

④プラットフォームの吸着問題には気をつけて!
マステ(ABSの場合はケープも併用)することでようやく1層目が吸着できましたが,Ender-3と比較しても吸着は悪くなったのではないかという印象です.プラットフォームの素材が—から—に変更されましたが,個人的にはEnder-3の—の方が吸着性がよく扱いやすかった印象です.しかし,マステやケープで解決するなら3Dプリンタとしては想定範囲内と言えるのでそこまで問題にはなりません.


まとめ

市販の3Dプリンタ最速を謳う250mm/secのプリント速度を達成したEnder-7を,Ender-3と比較しながらレビューしてきましたが,全体的な印象としては速度と安定感が素晴らしく,これまでの3Dプリンタとは一味違った商品だと思います(値段に見合うかどうかは今回購入していないので言及できません).

3Dプリンタって「印刷→確認→モデル修正→印刷の繰り返し」のサイクルをいかに早く回せるかっていうところがキモだと思うのですが,今回のEnder-7を使うことでこのラピッドプロトタイピングのサイクルを高速化できる印象を持ちました.Ender-3を改造用にして,Ender-7を通常の印刷用として持っておくことでかなり爆速にプロトタイプ回せる様になるのではないでしょうか.PLAやABSでは問題なく印刷できることが確認できたので,これからは研究や趣味の開発用にフル活用したいと思います.

最後にはなりましたが,インターネットの深海から記事を拾い上げてくれ,今回Ender-7を提供していただいたCreality社さん,広報担当の谭亚男さん,ありがとうございました!

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