楽天の10倍のレビュー数を獲得するサービス設計(レンティオ三輪さん②)
今回ご紹介するビジネスのプロフェッショナル「ビジプロ」は、カメラや家電などを手軽にレンタルし、「買わないで試す」という新しいサービスを提供しているレンティオ株式会社の代表取締役社長、三輪謙二朗さんです。
前回は、三輪さんの「レンタル以外でも収益を上げるレンタルビジネス」のお話をお伝えしましたが、今回は「楽天の10倍のレビュー数を獲得するサービス設計」話をお伝えしたいと思います。
この記事はFMラジオ、InterFMで毎週日曜20時30分からお送りしている番組「ビジプロ」で放送された内容と、未公開部分を併せて記事化しています。ビジプロは、「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」などの書籍や、個人M&A塾「サラリーマンが会社を買うサロン」で知られる事業投資家の三戸政和が、さまざまな分野の先駆者をゲストに招いて話を聞き、起業や個人M&Aなどで、新たな一歩を踏み出そうとしているサラリーマンを後押しする番組です。番組は三戸さんとの対談ですが、記事はゲストのひとり語り風に再構成しています。
音声アプリVoicyでは、ノーカット版の「ビジプロ」を聴けますので、こちらもお楽しみください。
サブスクより、短期レンタル収入を伸ばそうとする理由
レンティオで一番儲かる商品は、1年を通して需要がある商品です。たとえばミシンは、入園や入学を控えた3月だけ需要が高い商品です。3月が10だとすると、ほかの月は1~2しかありません。なのであまり儲かりません。
一年中需要があるのは一眼レフやカメラレンズで、そのレンタル数は1年間ほとんど変わりません。カメラを趣味にしている人が多いためか、検索数を見ても、1年間一定しています。
在庫商品をどのくらい持つかは、商品需要のピークに合わせるようにしています。そのため、需要が少ないときには在庫を抱えることになりますが、ダイナミックプライシングによって価格をちょこちょこ調整して、需要が高いときは値段を上げ、需要が低いときは下げて、稼働率を上げるようにして、年間を通して、全体で利益が上がるようにしています。
いま、短期間のお試しレンタルのお客さんと、月額制のサブスクで借りていただいているお客さんは半々くらいです。僕らとしては、商品お試しの色合いが強い短期レンタルの方を、ビジネスの軸として伸ばしていこうと考えています。短期レンタルの方がマーケティングデータが取りやすく、メーカーさんとの連携がしやすくなるからです。
でも現状は、サブスク型が伸びていて、こちらの割合の方が高くなりつつあります。サブスク型は一度送るだけでずっと借りてくれて、お金を払ってくれるので、ビジネス的には良いのですが、サブスク型はほかの会社さんでもできるビジネスです。
他方、短期お試しの方は、短いスパンでの商品のやり取りや商品メンテナンスに非常に手間がかかるので、ほかの会社さんではなかなかできないビジネスだと思っています。ですから僕らとしては、短期お試しサービスをもっと充実させたいと考えています。
やや競合するメルカリからも出資を受けている
「モノを買う前に試す」という僕たちのサービスは、ムダな買い物を減らすことにつながりますし、モノを所有するのではなくみんなでシェアしようというシェアリングエコノミーともつながります。シェアリングエコノミーの代表格、メルカリとはサービスの一部でバッティングするところがありますが、メルカリさんからは、「ビジネスの発想が似ている」という理由で投資をしてもらっています。
レンティオとメルカリを比較すると、メルカリさんはユーザー同士がやり取りをするCTOCですから、自分で商品を出品して、梱包して発送してと、結構手間がかかります。僕たちはBTOCで、レンタル手続きは簡単ですし、発送もキットを使って簡単にできるようになっていますから、手軽さという意味では勝っていると思います。
メーカーとの関係は競合ではなく協業
レンティオのサービスは、ビデオカメラを運動会のときだけレンタルするのであれば、メーカーさんとバッティングします。でも、使ってみてから買うか買わないかを決めるお試しのレンタルは、購入の大きな後押しになり、メーカーさんのビジネスに寄与します。
とくにルンバだと顕著です。買うことに躊躇している人がルンバをお試しレンタルすることで、「やっぱりいいな」と感じて、その後、購入するようになるのです。ルンバ以外のいくつかの商品でも、僕たちのサービスが買う人の総量を増やせたことをほぼ確認できています。
他方、お試しレンタルに向かない商品、メーカーさんが嫌がる商品があります。どういう商品かというと、お試ししたユーザーさんの多くが、「買わないでいいや」と思う商品です。
要するにあまり良くない商品なので、そういう商品は、僕らとしても広めたいと思いませんが、そんな商品であっても、どの機能が良くなかったのか、どの機能があればもっと良かったかといったユーザーの意見をメーカーさんが取り入れて、プロダクトの改善ができて、商品がもっといいものになれば、メーカーさんにとってはプラスになるでしょう。
飽き性な顧客に損をさせない
「新しい家電は好きだけど、買ってもすぐに飽きてしまう」という三戸さんのお悩みもレンティオは解決できます。三戸さんのような人は、実はレンティオにとってすごくありがたいお客様です。
三戸さんのような人は、普段だったら100個出た家電の中で10個くらいを買う人かもしれません。その10個を買ってみて、中にはすぐに使わなくなるものがあって後悔してしまいます。
でもレンティオなら買う前に試せます。レンタルなら、10個どころか、30とか50個を試してみようと思うかもしれません。そして、試した中から、「これは絶対いいな」と気に入ったものを買うことができます。
買った後に「なんか違ったな」と使わなくなることも減るでしょうし、買う数も増えるかもしれません。事前にトライ&エラーができるというレンティオは、三戸さんのような人にはメリットが感じられるサービスだと思います。
ガムテープまで準備する究極まで煮詰めた利便性
トライ&エラーをどんどんしてもらうために大事なのが、レンタルのためのやりとりがスムーズにできることです。スマホでポチったらすぐ使えて簡単に返せることが、レンティオのサービスのキモだと思っています。そこでストレスがあると、「次もレンタルしてみよう」とはなかなかなってくれません。
レンティオは、そのスムーズさには自信があります。サイトでレンタルを申し込めば、間もなく商品が届き、返却のための伝票や梱包のためのガムテープも同梱されて、お届けした箱に商品を戻して、簡単に返却できるようになっています。
返送手続きも注文履歴のところを押すとヤマトさんが集荷に来ます。コンビニ返却なら、コンビニに持っていって、商品と一緒に伝票を渡せば手続きは終わりです。
ユーザーレビューでは、「借りる前は返すのがめんどくさいと思ったけど、意外と簡単だった」というレビューを圧倒的に多く頂いています。その点はユーザーさんのハードルを越えられているのではないかと思っています。自分達でも結構いいものができていると自負しています。
楽天の10倍のレビュー投稿を獲得できている理由
ユーザーレビューでは「こんな消費体験をしたことがなかった」というものが多く、うれしく思っています。いままでモノを手に入れるには、「買う」か「買わないで我慢する」しかありませんでした。
僕たちのサービスは、その間の選択肢を提供するものです。つまり、「試してから買うか買わないかを決める」という新しい価値です。そこをユーザーさんたちは評価してくれているんだと思います。
レビューの評価も4.8くらいで良い評価をもらっていますが、何より弊社が誇っているのはレビューの投稿率が高いことです。レビューをしてもらうのに、ポイントを付けるなどのインセンティブはとくにありませんが、8%のユーザーさんがレビューを書いてくれています。
楽天と比較すると、楽天では、レビューを書いたらポイントがもらえますが、それでもレビューの投稿率は0.8%ぐらいです。僕たちは何もしないで8%です。
なぜそんなにレビュー投稿率が高いかというと、おそらく、レンタルによる体験が、ユーザーさんが借りる前に想像していたものより、良いものだったからではないかと推測しています。
レンティオへの評価は概ねいいものですが、中には「こんな商品、買わなくてよかった。レンタルで試させてくれてありがとう」といった、なかなかメーカーさんには見せづらいものもあります。
また、1000件に1件くらいは、レンタル商品が汚かったといったネガティブなコメントもあります。商品の整備は、僕らとしてはすごく頑張っているつもりですが、そういう指摘は、当然、真摯に受け止めて改善していきます。
家電の次は、スマホに狙いをつけている
レンティオでは、ベビー用品のレンタルを扱うようになりました。ベビーメーカーのコンビさんに出資してもらって、コンビさんのベビーカーやベビーラックなどがラインナップに加わっています。
たとえば、コンビさんの電動のベビーラックは、赤ちゃんを寝かせておくと、自動で揺れて寝かしつけてくれるという素晴らしい機械ですが、そういう商品でも、使うのは半年ぐらいです。だからレンタルでいいというわけです。
検討中の案件としては家具があります。家具のレンタルはネガティブな条件が少なくありません。ひとつは送料が高いことです。たとえば、カメラの送料は往復1500円くらいですが、大きな家具だと3~4万円します。送料のコストが高いと儲けづらくなります。
また、家具の受け渡しには、ユーザーさんが絶対に家にいる必要がありますし、家具を置いたり引き取ったりするために、家の中に人が入ってくることもあります。家具のレンタルはそんな体験になりますから、その体験は良いものにならない可能性があります。そうなると、リピートにつながらなかったり、良い口コミにつながらなかったりするかもしれません。
そんな家具のレンタルで、収益性を出すにはメーカーさんとの連携が必要です。まだ具体名は言えませんが、いくつかのメーカーさんと、連携のための交渉が進んでいます。
将来的にはスマホのレンタルも考えています。スマホをレンタルして使うのは、中国や欧米ではかなり一般的です。日本では、キャリアが強いこととシムフリーがまだ普及していないことなどが理由で、スマホのレンタルは広がっていませんが、そこが解決されれば、日本でも流行ると思っています。
1台のスマホの使用期間は、日本だと平均26~27か月ですが、中国では12か月です。その背景にスマホレンタルの広がりがあります。ユーザーの中に、常に最新機種を使いたい人、型落ちでも安く使いたい人という層ができています。
最新機種を使いたい人は、最新機種をレンタルして使い、1年経ったらまた発売される新機種に乗り換え、そこで返却された1年前のスマホは、最新機種にこだわらない人が安く借りて使うというシステムが確立されているのです。
スマホは、シムフリーの普及などのほか、盗まれやすいところなど、いろいろとハードルはありますが、日本でもいずれ、中国や欧米のようにスマホレンタルが普及する条件が揃えば、うちでも手掛けたいと考えています。スマホと同様、パソコンのレンタルも商品候補のひとつです。
レンタルとして難しい商材は
最近、メチャカリやエアークローゼットなどが衣料品のレンタルで人気を集めています。でもレンティオとしては衣料品には手を出すつもりはありません。なぜかというと、服はリセールがしづらいからです。
リセールで利益が出せるかどうかは、仕入れ値が大きく関わってきます。たとえばメチャカリは、earth music& ecologyというブランドで知られるストライプというアパレル会社がやっているサービスです。
彼らは、自分たちで作ったものをレンタルで扱っていますから、仕入れ値を抑えることができます。だから、もしレンタルで利益が出せなくても、リセールで利益が出しやすいのです。
でも僕らはアパレルメーカーではないので、服はどこかから仕入れてこないといけません。仕入れコストがかなりあると、リセールで利益が出しにくいので、なかなか手を出しづらいのです。
それに何回貸せるか問題というのもあります。カメラのレンズだったら50回でも貸せますし、家電でもメンテナンスをちゃんとすれば100回ぐらい貸せます。でも服は、シーズンもありますし、流行も早い。
クリーニングを毎回していると傷みも出てきます。それほどレンタル回数が稼げないとなると、それもきつくなります。エアクローゼットさんは、その辺をうまくやっていると聞きますが、僕らとしては、それも服を扱いづらい理由です。
消費者の所有欲の変化が新しいビジネスの起点になった
シェアリングエコノミーやモノを持たない時代といわれるようになって、僕らに流れが来ていると感じていましたが、コロナ禍がその流れに、さらに棹差すことになりました。メーカーさんが完全にこっちを向いてくれるようになったのです。
なぜそうなったかというと、家電量販店や百貨店に人が行かなくなったからです。これまで消費者は、家電量販店や百貨店でモノに触れて、需要が喚起されていたところがありましたが、それがいま、できなくなっています。今後も続くかもしれません。
コロナ以前から、アマゾンなどのECでモノを買う人も増えていますから、ユーザーさんとしてもモノに触れる場所がどんどんなくなっています。そのため、僕らのようなサービスが注目されるようになっているのだと思います。
私たちの所有に対する態度も変わりました。いま、若い人を中心にモノを持たない人が増えています。うちの20代の社員やアルバイトに聞いても、スマホで十分だと言って、半分以上がテレビを持っていません。
かつては、家電を所有することには、自己顕示欲を満たすという意味もありました。起業する前、家電メーカーの人たちに、「家電レンタルサービスについてどう思いますか」という質問をしたのですが、答えてくれた人は皆さん、「違うんだよ」と声をそろえました。
「家電というのは、時計や車と一緒で、持っていることが重要で、『ソニーのカメラを持っているオレ、かっこいい』『ルンバを持っているオレ、かっこいい』というものなんだから、そういうお試しは広がらないよ」と言われたのです。
そのときは「なるほど」と思いましたが、いまは、そんな考え方をする人は少なくなったように感じています。そういう意味でも流れは変わったのかなと思います。
次回は、三輪さんの「コロナで方向性を変えたことが上手くいった」話をお伝えします。
※この記事は、日曜20時30分からInterFMにて放送しているサラリーマンの挑戦を後押しするベンチャービジネス番組「ビジプロ」の内容をまとめています。
三戸政和(みとまさかず) 事業投資家、ラジオDJ
1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先でのM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、ロケット開発会社インターステラテクノロジズの社外取締役も務める。
著書に『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社+α新書)、『資本家マインドセット』(幻冬舎NewsPicks)、『営業はいらない』(SB新書)、『サラリーマンがオーナー社長になるための企業買収完全ガイド』(ダイヤモンド)、『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント)などがある。Twitterのアカウントは、@310JPN。