日本社会はアメリカの占領政策がいまもなお影響を及ぼしている(ZATSUDANコラボ_堀江貴文&藤野英人②)
ビジネスのプロフェッショナルをお招きするFM番組「ビジプロ」は、今回、堀江貴文さんが運営する音声アプリ「ZATSUDAN」とのコラボ企画。
レオス・キャピタルワークスの創業者、藤野英人さんをゲストに迎え、堀江さんと三戸政和の 3 人で、日本経済の低迷の理由や、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」への評価、今後の社会の見通しなどについて、縦横無尽に語り合いました。
前回は「日本経済の停滞は日米の社長の違いがもたらしている」というお話をしましたが、今回は「日本社会はアメリカの占領政策がいまもなお影響を及ぼしている」という堀江さんの持論などをご紹介します。
この記事はFMラジオ、InterFMで毎週日曜20時30分からお送りしている番組「ビジプロ」で放送された内容と、未公開部分を併せて記事化しています。ビジプロは、「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」などの書籍や、個人M&A塾「サラリーマンが会社を買うサロン」で知られる事業投資家の三戸政和が、さまざまな分野の先駆者をゲストに招いて話を聞き、起業や個人M&Aなどで、新たな一歩を踏み出そうとしているサラリーマンを後押しする番組です。番組は三戸さんとの鼎談ですが、記事はゲストのひとり語り風に再構成しています。
音声アプリVoicyでは、ノーカット版の「ビジプロ」を聴けますので、こちらもお楽しみください。
コンビニを脅かすパン屋
(堀江)僕は、日本経済の低迷には遠因があって、戦後の財閥解体の影響が一番大きかったと思っています。アメリカの占領政策は、日本がアメリカに従属するビジネスモデルを作るものでした。
それは小麦を見ればわかります。僕は、小麦の奴隷というパン屋のフランチャイズをやっていますが、いま、パン屋さんはすごく業績が良い。小麦の奴隷のフランチャイズ本部は、創業 1 年目で 1 億円以上の営業利益が出ました。
いまの進行期も、最初は営業利益 3 億円の計画でしたが、5 億円くらいいきそうです。契約ベースではすでに 90 店舗以上で、店舗数では、パンのチェーン店で 4 位になっています。
(藤野)小麦の奴隷のビジネスモデルは秀逸です。将来的には、1000 店舗ぐらいにはなるでしょう。僕は、ひょっとしたら、小麦の奴隷のようなパン屋さんは、コンビニエンスストアのカテゴリーキラーになるのではと考えています。
どういうことかというと、百貨店というのは昔、百貨といわれるように、いろいろなものを売っていました。しかし、さまざまなディスカウンターが入ってきたことによって、百貨店はいま、女性のアパレルと食品くらいになってしまいました。
それと同じことがコンビニエンスストアで起きる可能性があると思っていて、その第一弾が小麦の奴隷かもしれないと僕は見ています。
小麦の奴隷がコンビニの隣にあって、コンビニのヤマザキパンと、少し値は張るものの、焼き立てという付加価値のある小麦の奴隷のパンを比べるとしたら、どっちを買うでしょうか。ヤマザキパンはおいしいですが、僕だったら小麦の奴隷の方に行きますね。
(堀江)小麦の奴隷の初号店がたまたまセブンイレブンの隣で、セブンイレブンのオーナーさんにはすごく影響があったと言われました。最近はコンビニでもオーナーによって特色が出せるようになっていますから、コンビニがウチのパンを仕入れて売ってくれれば、売上も上がって、双方にとって良いと思いますけどね。
ロケットの打ち上げ警戒地域を無視する船とは
(堀江)話を戻して、アメリカの占領政策の話ですが、小麦の奴隷がここまで人気なのも、「パン食」というのがキーです。実はパン食というのはアメリカが日本を占領して、給食にパン食を持ち込んだために、日本社会にここまで広まることになりました。
僕が子どもの頃は、給食はほぼパン食で、ごはんは月に 1 回出るくらいでした。僕は、「家ではごはんなのに、なんで学校ではパンを食べるんだろう」と疑問に感じていました。
牛乳も同じです。牛乳というのは、一見、日本で生産されたもののように見えますが、実はそうではありません。
牛乳に関しては面白い話があります。ロケットの打ち上げのときは、海上に警戒区域が設定されますが、その区域に船が入ってきそうになったら、海上保安庁がその船に、「いまからロケットの打ち上げがあるからちょっと待って」と連絡します。
そうすると、ロシアの船など外国船も進路を変更して、警戒区域を避けてくれます。でも 1 隻だけ、絶対に進路を変えない船がいるのです。ほくれん丸です。
ほくれんというのは北海道の農協ですが、北海道ナンバーワンのイケイケの会社です。ほくれん丸は、その会社が運航する船で、毎回、海保が何を言おうが、「了解、このままいきます」と言って、全然いうことを聞いてくれません。
なぜそんなに傍若無人なんだろうと思っていたのですが、国土交通省の幹部の人が教えてくれました。ほくれん丸は生乳を輸送していて、北海道で取れた生乳を、関東にいち早く届けるため最短ルートで運航されているため、ほくれん丸は進路を絶対譲りません、ということでした。
ですから僕たちとしては、ほくれん丸の運行時間を調べて、そこにかぶらないように打ち上げるしかないということになりました。
話を戻すと、牛乳というのは日本で生産していますが、牛に食べさせるトウモロコシなどの飼料はアメリカ産ですし、パンの小麦もアメリカ産です。
アメリカの占領政策によって、給食でパン食をして牛乳を飲むようになり、それが社会に広まることで、日本はアメリカから小麦とトウモロコシを買い続けなければならない社会になったのです。
財閥解体がいまだに日本の企業経営者のリーダーシップを低迷させている
(堀江)ようやく財閥解体の話ですが、財閥解体も、日本の国力を削ぐという意味では非常に有効でした。
財閥解体で大きかったのは、財閥が解体されたことで、株式が、会社同士の持ち合いという形になったことです。それによって、日本の会社のリーダーシップは大きく失われました。資本で支配できなくなったわけですから、そうなれば、サラリーマン経営者が強くなるに決まっています。
航空機産業も占領政策によって、10 年間、飛行機の製造が禁止されました。そのおかげで、みんな自動車産業に転職して、自動車産業は勃興しました。
一方、ちょうどジェット機の時代に入ったところでしたから、日本の技術者はジェットの技術を取得できず、日本はいまだに大型の旅客機をつくれません。ホンダは小型機で成功しましたが、三菱は失敗しました。
(藤野)財閥解体が日本の会社のリーダーシップを損なったというのは、日本経済の低迷は日本のサラリーマン社長に起因するという僕の話につながりますね。
僕は、日本には 2 つカルチャーがあると思っています。1 つは、戦前からの富国強兵という流れと、もう 1 つが、アメリカが作ったアメリカ従順モデルです。日本ではいまこの 2 つが同時に走っているんです。
占領政策がもたらしたものは、もうアメリカのくびきから離れて、日本では完全に自己目的化しているところがあります。その自縄自縛で、なかなか解きほぐせなくなっています。
それをどうしたらいいかというのは大きな問題ですが、僕はあと 20 年くらいすれば、アメリカで、2000 年に GAFAM が出て、2020 年の時価総額ランキングが激変したようなことが、日本でも起きると思っています。
これから出てくる若者、ベンチャー起業家、新しいプレイヤーが社会を変えて、20 年くらい経てば、自然と新陳代謝が行われて、さすがにいまの日本の古い会社は落ちていくでしょう。
東大生を見ると日本経済の新陳代謝の兆しが見える
(藤野)新陳代謝は、今後、劇的に行われると思います。堀江さんが起業した頃というのは、東大を出て起業するのは変わり者しかいませんでしたが、それが変わりつつあります。
これからの 10 年間で、日本の中で一番起業家が出るのは東大になるでしょう。それはほぼ間違いありません。
(堀江)僕の同い年くらいで起業したのは 3 人だそうです。そのうちの 1 人が孫正義さんの弟の孫泰藏さんです。東大出身の起業家が増えたというのは、ここに来てやっとそうなり始めたなと感慨深いですね。
いまの東大では、人工知能をやっている松尾豊さんの研究室がいいです。松尾研には、まだそれほどでもないときに講義に行ったことがあります。
松尾さんは以前、「あの人検索 SPYSEE 」を作りましたが、それが割と人工知能のディープラーニングに近いところのプロダクトでした。それで研究の方向はそっちだと、アクセルを踏んで研究を進めた結果、松尾研から人工知能関連のすごいベンチャーがどんどん出てきたのです。
(藤野)一方で、文系の人たちも、官僚になったって意味がないと考え始めています。これまでの東大は、法学部の文一が偏差値でトップでしたが、2~3 年くらい前に経済部の文二が文一を抜き、今年は文学部の文三が文一を抜きました。これはとてもいいことで、学生というのは本当によく先を見ているなと思います。
諸外国を見ても、頭の良い人は哲学や文学に行くことが多いです。なぜなら、本来の意味で世の中をクリエイトするのは哲学や文学をやっている人だからです。日本もそういうふうになってきたということですね。
現状では、岸田さんの「新しい資本主義」について、ネガティブな意見も出てきていますが、大きな流れとしてはいい方向に進んでいます。それは止められないでしょう。
次回は「岸田総理の『新しい資本主義』は失敗する」というお話などをお伝えします。
※この記事は、日曜20時30分からInterFMにて放送しているサラリーマンの挑戦を後押しするベンチャービジネス番組「ビジプロ」の内容をまとめています。
三戸政和(みとまさかず) 事業投資家、ラジオDJ
1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先でのM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、ロケット開発会社インターステラテクノロジズの社外取締役も務める。
著書に『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社+α新書)、『資本家マインドセット』(幻冬舎NewsPicks)、『営業はいらない』(SB新書)、『サラリーマンがオーナー社長になるための企業買収完全ガイド』(ダイヤモンド)、『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント)などがある。Twitterのアカウントは、@310JPN。