テクノロジーに代替されない営業とは(Buff中内さん③)
今回ご紹介するビジネスのプロフェッショナル「ビジプロ」は、営業をより強くするスタートアップ、株式会社Buffを創業した中内崇人さんです。
前回は、中内さんが「起業するビジネスドメインの決め方」というお話をお伝えしましたが、今回は「テクノロジーに代替されない営業とは」をお伝えしたいと思います。
この記事はFMラジオ、InterFMで毎週日曜20時30分からお送りしている番組「ビジプロ」で放送された内容と、未公開部分を併せて記事化しています。ビジプロは、「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」などの書籍や、個人M&A塾「サラリーマンが会社を買うサロン」で知られる事業投資家の三戸政和が、さまざまな分野の先駆者をゲストに招いて話を聞き、起業や個人M&Aなどで、新たな一歩を踏み出そうとしているサラリーマンを後押しする番組です。番組は三戸さんとの対談ですが、記事はゲストのひとり語り風に再構成しています。
音声アプリVoicyでは、ノーカット版の「ビジプロ」を聴けますので、こちらもお楽しみください。
米国の注目のセールステック
最近は、セールステックといわれる、営業をテクノロジー化するサービスがたくさん出ています。アメリカはその先進地で、最近の特徴は、セールスプロセスの一部分に特化して、そこを科学する会社が出てきていることです。
たとえば、ズームインフォという会社は、営業プロセスの一番手前の、顧客リストの部分に特化しています。営業では、最初に電話やメールをするときに、リストを探してきて、どこに連絡するかを選定する作業をします。
ズームインフォは、そんなリストを保有していて、かつそのリストの質が高いところを評価されています。そんなリストをどうやって確保しているか、その詳細はわかりませんが、オンライン上の情報を集めてきたり、リストを購入したりして、質の高いリストを作っているんだと思います。
また、問い合わせからアポイントを取るまでのプロセスについての科学をすごくやっているのがアウトリーチという会社です。この会社は、問い合わせをしてきたお客さんに対し、どんな間隔でどんな連絡をすればいいかを科学して、そのお客さんと面談するアポイントを取るまでのプロセスを自動的にやるツールを作っています。この会社の動画を見ると、かなり使い勝手が良いように見えます。
営業はなくなる?
このように、営業領域を支援するいろいろなツールが出てきて、更にコロナ禍によって、ズームが一気に普及して、オンラインでかなりのことができるという認識が広がりました。
三戸さんは昨年、「営業はいらない」という本を出して、将来的には、そんなツールをフル活用するようになれば、営業という行為自体がなくなると書いていましたが、僕は、人間がやる必要のない部分はなくなっていくし、人間が関わるべき部分は依然残るという考えです。
たとえば、日程調整が自動化されて人間がやる必要がなくなれば、人間は、その時間をより付加価値の高い仕事に使えるようになります。そうなれば、1人当たりの生産性はどんどん上がっていくでしょう。
付加価値の高い仕事にシフトできる人は、これからも残っていくし、むしろ重宝されていくと思います。企業も、1人当たりの生産性が上がるなら、もっと採用しようとなるかもしれません。この市場の可能性はまだあると思っています。
テクノロジーに代替できない部分
テクノロジーには代替できない、人間だからこそ付加価値が出せる部分は、決して少なくないと思います。たとえば、その会社が、過去に売ったことのない業界に、能動的に連絡をして売りを取ってくることは、過去のデータが重要なAIでは、おそらくできないことでしょう。
また、営業の重要な仕事はもちろん売ることですが、もう一つの重要な仕事として、お客さんのニーズを拾ってくるというものがあります。たとえば、1日9アポで会っていたら、そのすべてが売れるわけではありません。売れるのは1~2件で、でも残りの7件は無駄かというとそうではなく、お客さんのニーズを拾ったり、将来に向けた種まきをしたりという意味合いがあります。
さらに、その7件ではなぜ買ってくれなかったのかという情報にもなり、その情報を持ち帰ってデータとして記録できれば、将来の商品開発に生かすこともできます。この辺りも、営業マンならではの付加価値が出せる部分なので、なかなかなくなりづらいところだと思います。
やはり今後は、テクノロジーでできる部分と、人だからこそできる部分に分かれていくでしょう。営業マンとしては、ツールを使いこなした上で、ツールができないところを意識して動くべきだと思います。それができない営業マンは、将来的には、仕事を失うことになるかもしれません。
スカッシュで効率的に運動
僕は、仕事をしている時間が大好きで、1日の13~14時間くらいはオフィスで働いています。仕事以外の時間では、運動に費やすことが一番多くて、最近はスカッシュをやっています。
スカッシュは、同じ壁に向かって2人で順番に打ち合いますが、壁があるのでミスりにくく、プロだとラリーが5分以上続くこともあります。動き続けるのですぐにへとへとになりますし、時間当たりにかける汗の量がものすごく多く、テニスの3倍カロリーを消費するといわれていて、身体を動かすには効率的なスポーツだと思います。スカッシュをやっているベンチャー仲間も多く、そこでの交流もあります。
おすすめのマンガは「ブルージャイアント」
仕事の合間のスキマ時間ではTwitterや記事を読んでいますが、プライベートや移動中ではマンガを読んでいることが多いです。マンガはもともと大好きで、学びになるマンガも読みますが、やはり息抜きとして読むことが多いです。
僕が一番好きなマンガは、「ブルージャイアント」というジャズのマンガです。ジャズがテーマですが、起業家のマンガのように思えるマンガです。
どういうことかというと、世界ナンバーワンのジャズプレイヤーを目指す主人公が、日本で成功したらヨーロッパ、ヨーロッパで成功したら次はアメリカというように、それぞれのステージで成功したら、そのとき持っている資産はいったん捨てて、次のリスクのあるステージに飛び込んで、ゼロからスタートしながらもさまざまな困難を乗り越えていくという姿が、本当に起業家みたいで、主人公のマインドセットもすごく参考になるのです。
独立を目指すには本を読む!
僕自身、失敗の2年間を通して学んだのは、いわゆるリーンスタートアップの方法でした。起業はやってみないとわからないところもありますが、スタートアップの領域には、先人が残した知恵がかなり蓄積されてきました。そういう本もたくさんでています。
たとえば「リーンスタートアップ」(エリック・リース)や「起業の科学」(田所雅之)という本です。こういう本を読んで、そのやり方を学んで、最少の工数で正しく検証を行うことが、最近の起業ではすごく重要になると思います。
独立を目指す人は、たとえば土日を使って小さく始めてみて、それが実際に軌道に乗ったら、本格的にやればいいのではないでしょうか。僕自身は、ひとつしか集中できないタイプだったので、会社は辞めて、週七日全部注ぎ込む感じでしたが…。
とにかく、どちらのタイプであっても、起業や独立をしたいなら、小さく始めてみるのが良いと思います。そして、先人の知恵を生かしながら、反応を見て検証をするというステップを辿るのが、間違いなく効率がいいでしょう。
※この記事は、日曜20時30分からInterFMにて放送しているサラリーマンの挑戦を後押しするベンチャービジネス番組「ビジプロ」の内容をまとめています。
三戸政和(みとまさかず)事業投資家、ラジオDJ
1978年兵庫県生まれ。同志社大学卒業後、2005年ソフトバンク・インベストメント(現SBIインベストメント)入社。ベンチャーキャピタリストとして日本やシンガポール、インドのファンドを担当し、ベンチャー投資や投資先でのM&A戦略、株式公開支援などを行う。2011年兵庫県議会議員に当選し、行政改革を推進。2014年地元の加古川市長選挙に出馬するも落選。2016年日本創生投資を投資予算30億円で創設し、中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。また、ロケット開発会社インターステラテクノロジズの社外取締役も務める。
著書に『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』(講談社+α新書)、『資本家マインドセット』(幻冬舎NewsPicks)、『営業はいらない』(SB新書)、『サラリーマンがオーナー社長になるための企業買収完全ガイド』(ダイヤモンド)、『サラリーマン絶滅世界を君たちはどう生きるか?』(プレジデント)などがある。Twitterのアカウントは、@310JPN。