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編集後記 “金泉俊輔さん”

先日、とある公立の小学校にゲスト ティーチャーとして招いていただき、小学5年生に1時限の授業を行なった。テーマは「これからの工業生産」。家業である金属表面処理加工の町工場の中で、化粧品事業を立ち上げた僕の経緯が、そのテーマに適していたようだ。学校では僕の授業以前に日本の工業生産について子どもたちは学んでおり、僕からは、これからの子どもたちに社会を担う立場として大切にしてほしいことや心構えを伝えて欲しいという依頼だった。

事前に担任の先生から、日本の工業生産について学んだ上でのアンケートや感想を共有いただいた。その中で、多くの子どもたちがこれからの工業生産において、環境配慮が資源保護、社会のためになることが大事だと考えていて、利便性や利益の追求を重視する意見が極めて少ないことに驚いた。もはや今の小学校5年生はデジタル・ネイティブを超え、SDGs教育などを通じたエッセンシャル・ネイティブなのだと痛感した。

授業では、まず初めに「生産者として何が大切かを学んだ上で、消費者として製品を選ぶ時に何が大切だと感じたか?」と質問した。積極的に多くの子どもたちが答えてくれたが、「環境のため?」「資源を大切に?」と少しピンときていなかったようだ。そこで僕からは「みんなが今何を選ぶかによって、みんなが生きる未来の環境が良くも悪くもなるし、資源で困ることも豊かになることもある。社会参加とは社会で働くことだけではなく、消費者として物を選ぶという時から始まっている。」ということを伝えた。

併せて、「日本は1人辺りのGDPが世界で32位で、それは頑張って物を作っても、その価値は世界的に見ると決して高くなくなってしまっている。」というを伝えた。「高級車と言えば?」と質問してみると、「ベンツ、ポルシェ、ランボルギーニ、フェラーリ・・・・」と口々に答えてくれ、「日本車の名前を出す人はいないね?」と僕が言うと納得してくれたようだった。

「みんなは生活の中で、作る人・売る人・買う人という役割は理解していると思うけど、実際は作る人と売る人の間、売る人と買う人の間には、たくさんの仕事がある。そのひとつに「デザインする」という仕事であって、海外の車は見た目のデザイン(工業デザイン)が工夫されているから高い価値で売ることができる。例えばバナナを売るとして、そのバナナの生産者がどういう思いで、どう丁寧に生産しているかを買う人に伝えるデザイン(コミュニケーションデザイン)が工夫されれば、同じ物でも価値を高めることができる。資源を無駄にせずに、環境のことを考えれば、たくさん物を作って、たくさん消費することは続けていくことができない。でも、お金を稼ぐことは必要と考えれば、物の価値を高める仕事がこれから大切になる」ということを伝えた。

「日本は世界幸福度ランキング51位。みんなが消費者として何を選ぶか、どんな仕事を選ぶか、みんなそれぞれの”選ぶ”という行動が、みんなが生きる未来を作っていき、何を選ぶかによって、幸福度ランキングが1位になる可能性も最下位になる可能性もある。だから、何かを"選ぶ"ということを本当に大切にして欲しい。」と話す中、子どもたちは真剣な目で聞いてくれ、最後にはたくさんの質問をくれた。「茂田さんは幸せですか?」「ものづくりで大切にしてることは?」「ものづくりのアイディアはどうやって出しますか?」「ものづくりで苦労することは?」などなど。その希望に満ちた子どもたちの表情から、確かな未来への希望を感じさせてもらった。

僕ら世代は現状や未来に様々な憂いを感じているが、子どもたちは複雑なしがらみや言い訳をなしに、至ってシンプルで本質的に選び、本質的に行動していくのではないだろうか。エッセンシャル・ネイティブ世代から見放されることないよう、僕らも本質的な目を養い、共に良い社会を作ろうとする姿勢が求められているのではないだろうか。


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