編集後記 “武田信幸さん”
ちょっとした自慢話しになりますが、僕は1998年に音楽配信サービスを始めようと思い、インターネットに詳しい方に、その可能性をヒアリングしていた時がありました。iTunes Music Storeが始まったのが2003年ですので、だいぶ先見の明があったのです・・・。当時CDを制作するのにはすごいお金がかかりましたし、CDショップの売場に置いてもらうのはかなりハードルが高い時代で、誰でも世界中の人に作った音楽を聴いてもらえるチャンスとなる配信は、夢のような話しだと感じたのです。しかしながら、配信サイトを作るには少なくとも3,000万円以上かかるとわかり、断念してしまいました。まさに、この時、武田さんのような人に出会い、資金調達の方法を指南してもらえていれば、違う人生を送っていたようにも思います。
渡辺貞夫さんがクラリネットを始めるきっかけとなったと話す"ブルースの誕生"という映画があります。路上でブルースを演奏する黒人バンドに憧れた白人の少年が、父親に強烈に反対される中で、そのバンドに参加してクラリネットを演奏し始め、やがてはブルースが白人の社交界で演奏される音楽になっていく様子が描かれています。
僕は音楽も化粧品も料理も、血族でしっかりやってきた人がいるわけではないし、アカデミックな教育を受けてきたわけでもない中で、そういう分野のハイソサエティなものに憧れて、真似してみるもうまくできないというか、しっくり来ませんでした。「やっぱり独学ではダメなのか」と若い頃ずっと思ってきましたが、それでも続けてきた結果が今です。そんな中、この"ブルースの誕生"を観た時に、そもそも、ストリートだったりアンダーグラウンドのカルチャーをハイソサエティなものと比較し、そこに行こうとすることが間違いで、逆にハイソサエティなレイヤーからそのスタイルを求められるところまで、その道を極めることに意味があるのだと思いました。
今やジャズは確実にハイソサエティなものになっているし、ストリートアートが国営の美術館に展示されることはあるし、街の食堂はミシュランが取れなくてもお金持ちが行列を作る時もあるし、比較することに意味はなくて、置かれた環境やリソースを駆使して突き進むことで唯一無二のクリエイティブとして、全てのレイヤーから求められるようになるのだと思います。
そういう可能性を秘めた人たちが、クリエイションを続けられるように、武田さんの言葉は、大きな可能性を与えられるのではないかと思います。
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