【特許のはなし】除くクレーム(その3)
今回は、除くクレームと記載要件について書いてみようと思います。
最近の審査事例(拒絶)を見たのですが、明確性要件違反を通知されている件がちらほらありました。
除くクレームにおいて、多くの場合は、引用発明の構成等を除く対象としています。
その場合、注意しなければならないのは、「〇〇(ただし、△△は除く。」の「△△」は、引用発明の用語であるということです。多くの場合、本願明細書には「△△」は用語も含めて一切記載されていないことも多いです。
たとえば、上記スライド資料36頁以下の船舶事件(裁判例)では、「浸水防止部屋(ただし、タンクを除く。)」という除くクレームですが、タンクは、本願明細書には出てこない、公知発明の構成(用語)です。なお、公知発明がいずれもタンクとして機能する浸水防止部屋であったため、これを除いたようです。
ですので、除くクレームは、ある意味で、他人様の用語を拝借するクレームの記載方法であるとも言えます。
したがって、基本的には、除かれた用語が示す意義や範囲などは、(公知発明が特許公開公報などであればその発明の詳細な説明等をみることで分かるかもしれませんが、)本願明細書を見ても、用語さえ出てこないので、よく分からないという事態が発生し得ます。
他人様の用語を拝借する以上は、細心の注意を払わなければならない、ということになりそうです。
特許庁は、恐らくは、除くクレームが嫌いで(笑)、でも、先の2記事(除くクレームの新規事項の追加と、除くクレームと進歩性)で述べたように、新規事項の追加や進歩性欠如ではなかなか拒絶しずらいところがあるので、私なら、明確性要件等を厳しく運用することで、除くクレーム補正を牽制するという手法(政策)は考えられるのではないかと思ってしまいます(余計な提案ですね)。
先の船舶事件においては、「タンク」の意義については争われてはいないようですが、ふと考えてみると「タンク」というのは、どういう構成なのかな(天井が開いているものも含むのかな、密閉されたものだけなのかな)と考え出すと、少なくとも、一義的に明確な用語ではないようにも思われますし、そうすると、クレーム解釈の手法に沿って明細書の記載を参照しようとしても、・・・あれ、本願明細書にはタンクについては記載がないので、ん? となってしまうわけです。
これに対する出願人の対応としては、極力、①クレームの文言の意味だけで明確性を担保できるようにすること、②(クレームの記載との関係で煩雑となってしまう場合には)意見書等において(技術常識を持ち出すなどして)説明を付加することで明確性を担保すること等が考えられるかもしれません。
除くクレームと明確性要件については、上記スライド資料78頁以下の審査事例などをご参照ください。引用文献1で用いられている「シリカ微粒子」の意義が問題となり、明確性要件違反の拒絶理由が通知された例です。
余談ですが、「粒子(径)」関係は記載要件違反の宝庫ですね。
除くクレームとサポート要件との関係についてはまだ良い事例がありませんが、これも将来問題になりそうなので楽しみに取っておくことにします。