震災後の心をケアするー”地震ごっこ”をする子どもの理解と対応ー
こんにちは。学校心理学,教育心理学が専門のえんた(教育学(博士)(早稲田大学))です。今は,大学で教員をしています。それまでは,都内の私立学校でスクールカウンセラー(常勤)を4年半,早稲田大学の教育総合クリニックで相談員(非常勤)を計8年していました。「傷ついた心のケア」という非常にデリケートな内容についてつぶやくので,はじめに肩書きや経歴を付記しました。
今回は,危機介入についてのお話です。危機介入とは,事件や事故といった危機的状況において心理的介入を行うことをいいます。ここでは,震災後に,子ども(小学校中学年くらいまで)が示しやすい反応「地震ごっこ」について,その理解と対処法についてつぶやきます。
一番伝えたいこと
地震ごっこは,子どもが地震の経験を受け入れられるようになると自然に減っていきます。一時的なものですから,ご安心ください。
地震ごっこは,子どもがつらい経験を受け止めよう,それを乗り越えようとしている証です。
そばにいる保護者が声をかけるとすれば,「うまく逃げられたね」や「もう大丈夫だよ」など,安心感を与える対応です。
地震ごっこの理解
震災を経験した子どもは身の安全が保障されると,次第に様々な反応を示すようになります。比較的幼い子どもで多いのは,地震ごっこをするというものです。
この件については,以前NHKのニュースでも取り上げられていました。例として紹介しておきます。
子ども(姉と弟)「ピンポンパンポーン!」「まもなく大きな地震がきます。危険ですから,机の下に隠れてください。」姉弟は,さーっと机の下に入り,机の脚を持って揺らす。「わー!」「大丈夫かー!」
大人からすれば,思い出したくないのにどうしてそんな遊びをするんだ,不謹慎だ,と感じるようなことでしょう。ですが,大人よりも脳機能の発達が未熟な子どもは,これをすることによって自らを癒しているとしたらどうでしょう。地震ごっこの意味合いが少しは変わってきませんか?子どもは,地震ごっこを通して,つらい体験を受け止め,自らの心の傷を癒し,次への対策を練っているのです。以下に,大人と子どもの違いを表にしてみました。
大人と子どもでは,脳機能の成熟度に差があります。その差が,地震を経験した後の表現方法の差として現れるのです。言語が発達している大人は,自らの体験や気持ちを言葉にすることで消化していきます。ですから,大人は同じ経験をしたコミュニティ内で互いに語ることで癒されていきます。一方,子どもの場合は,仲間同士で地震ごっこという遊びをしながら,つらい経験を受け止め,それを乗り越えようとしていきます。
遊びの持つ効果
子どもは遊びという表現を通して,地震と向き合っています。ふざけているのではなかったのです。遊びの効果はそれだけではありません。子どもは遊びを通して,今後,地震がきたとしても”ちゃんと”逃げられるよう心と体の準備をしています。
そんな子どもに声をかけるとすれば,「うまく逃げられたね」や「もう大丈夫だよ」「もう安心」でしょうか。どれも,安心感を与える声かけです。このような声かけをしてもらうことで,子どもは危険が去ったことを理解していきますし,自分は(逃げることが)できた,(次こういうことが起きても)うまくできる,という感覚を身につけることができるようになります。地震ごっこが現れるのは,一時的です。ですから,このような反応が現れた時は,子どもの気持ちを受け止め,遊びがもつ癒しの効果を信じて,対応をしていただけたら,子どもは安心すると思います。
おわりに
この記事は,公認心理師,学校心理士として活動していた時の知見をふまえて書いたものです。
なお,ここでは幼い子どもを例に挙げましたが,脳機能の発達がゆっくりな方もこのような反応を示しやすいといえます。言葉が未発達な人ほど,体で表現しますから,上記で挙げたような対応が有効といえます。
執筆中には,2024年8月8日に,巨大地震(南海トラフ)注意報が発令されました。知り合いも九州にいて,大きい地震を経験しています。この記事が,誰かの役に立ってくれれば幸いです。
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