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【感想】NHK特番『笑いの正体』(とABC朝日放送で2013年放送『笑いのジョブズ』)
笑いの正体(3/21):漫才の進化の歴史に迫るNHKの特番。2013年のABC『笑いのジョブズ』を彷彿。ダウンタウン論は「漫才の革命どころではなく世の中をダウンタウンの笑いに変えた」「2丁目劇場の人気で花月は冬の時代に」の方がしっくり来るかなぁ…てか40分じゃ時間足りんw https://t.co/fKYZBheQGY
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) March 21, 2022
漫才をテーマにした特番。
松本人志をはじめ多くの漫才師へのインタビュー取材を基に構成されており、その点は素直に面白かった。
M-1グランプリ2020で巻き起こった漫才論争に対して当時芸人でほぼ唯一「あれは漫才じゃない」と言い切った松嶋尚美をスタジオに呼んでいるのは確信犯なのか天然なのかw
ただ、全体的にはちょっと消化不良というかもったいないなと。
たった40分の番組で「漫才の進化の歴史を辿り、その正体に迫る」ってそりゃ冷静に考えて無謀である。
なのでこの手の番組は「どれだけ独自性のある視点を打ち出せるか?」が勝負だと思う。
前半は漫才ブームを導入としてダウンタウン論を固めていき「漫才の歴史を変えたのはダウンタウン」という論旨へ。
松本人志論は何度もこすられてきたが、浜ちゃんのツッコミに注目するのは新鮮。
ただ、これが前半20分で終わり後半20分はM-1の話題に移る。
深掘りするにはどうしたって時間不足。
いやー、もったいない!w
ここで思い出されるのが2013/3/24(日)に関西ローカルで放送された特番『漫才歴史ミステリー 笑いのジョブズ』
笑いのジョブズ(3/24):ITにおけるスティーブ・ジョブズのように一夜にして漫才に革命を起こした人物を探す歴史ミステリー。凄かった!綿密な取材に加えて東野、博士、ダイノジが揃い踏み。面白いに決まってる。ダウンタウン評や第三次ブームがナイナイ発という分析には思わず唸ってしまった。
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) March 25, 2013
テレビ創成期からゼロ年代の中で漫才の歴史に革命を起こしたコンビや人物を選出。
テレビ創成期(ファーストインパクト)
MANZAIブーム(セカンドインパクト)
M-1グランプリ(サードインパクト)
番組趣旨としては今回の『笑いの正体』と非常に似通っている。
当時はTVerも無いから恐らく見た人は限定的だろうし、もう公式にアーカイブは残っていないので僕の感想だけじゃなく内容も書いていこうと思う。
記録の意味も込めて。
この番組も導入は80年代の漫才ブーム。
1979年4月から1980年4月1日の『THE MANZAI』初回放送までまさにミステリーのごとく1ヶ月ずつ歴史を紐解いていく。
やすきよ
B&B
星セント・ルイス
ツービート
Wヤング
あらんどろん
浮世亭ケンケン・てるてる
正直なところ歴史的な知名度では一段劣る(彼らが天下を獲れなかった理由も番組内で明かされる)Wヤングにスポットライトを当てるのがニクい。
既に芸人を引退した人や『激突!漫才新幹線』や『THE MANZAI』の当時のプロデューサーにも取材。
(番組タイトルが当初案の『ザ・マンザイ』からアルファベット表記になったエピソードなんかも面白かった)
もちろんこの番組でもダウンタウンは言及される。
ただし、その切り口は通説や『笑いの正体』とは大きく異なる。
1981年、早くもMANZAIブームに陰りが。
(その後1982年に『THE MANZAI』が終了してブームは完全終息)
芸人不足を補うため吉本はNSCを開校し、ダウンタウンが誕生。
しかし、花月ではなく2丁目劇場に配属されてコントを中心に大活躍。
「一夜にして世界をダウンタウンの笑いに変えた=漫才ジョブズではない」というのがこの番組の見立て。
(むしろダウンタウン旋風で漫才は冬の時代に陥ったという仮説)
『水曜日のダウンタウン』を手がけるTBSの藤井健太郎プロデューサーも似たことを言っている。
だから結局、あの人(注:松本人志)が新しいルールを作って革命を起こして全部変えてしまったそのルールの上で今はみんなが戦っていて。
あの人のルールでみんなが戦っているから、ルールを知っている状態でスタートしてるから成長が早い。
ナイツ塙も漫才という言葉は使っていますが近いニュアンスの話を著書の中で。
ダウンタウンはフリートークを芸にしたという見方をされますが、厳密には違います。ネタを発明したのです。
(中略)
昔は芸人がフリートークできる場がありませんでした。ネタ番組しかなかったので、それもありだったのでしょう。
ところがダウンタウンがその型をぶち壊しました。ストイックにネタを作り込み、漫才を「作品」にまで高めてくれた。ドラマ、映画、音楽に並ぶようなエンターテイメントにしてくれたと言ってもいいと思います。
pp.59-60
いや、決して通説で行くことそれ自体が悪いわけではない。
ただ、それなら何かしらの付加価値が欲しくなる。
例えば調査過程。
それこそ同じ週の『水曜日のダウンタウン』の『Tシャツたたみのあの裏ワザ、起源謎説』
水曜日のダウンタウン(3/23):フジと日テレのレジェンド番組をBTSもといTBSが参照する不思議な回。2代目関根勤選手権は新たな大喜利大会。マサチューセッツ工科大学wwwww麒麟・川島が松本人志の“後継者”になったOPも伏線wTシャツたたみ裏ワザの説はオチまで調査が見事! https://t.co/Vw2KgNmN4y
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) March 23, 2022
僕と同世代以上の方なら『伊東家の食卓』というキーワードは思い浮かんだと思うが、それを膨大な調査で魅せてくれた。
あと最近では『私のバカせまい史』も結論の突飛さではなく調査量で勝負していた。
私のバカせまい史(2/26):誰も調べたことのない歴史を調査する特番。最初の武田鉄矢ものまね史から超面白い!それをフリに犬の名前の人気変遷の理由を全てキャバ嬢にこじつけるさらば森田www芸能人の「家では全裸」発言史はほぼバカリズムの新ネタwリサーチしたスタッフの皆さん本当に凄い。
— 林昌弘,Masahiro Hayashi (@masahiro884) February 27, 2022
武田鉄矢ものまね史の調査量とかシンプルに凄かったなー
「ダウンタウンが漫才の歴史を変えた」で行くなら「何が既存の漫才と違ったのか?」をとことん掘り下げてほしかったなーと。
さて、ちなみにサードインパクトの礎となったコンビとして『笑いのジョブズ』が推すのは第13回ABCお笑い新人グランプリのナイナイ(!)
コント全盛の時代、フジモンに数合わせと言われたのをきっかけに一発逆転を狙って目立つため漫才で挑んだ。
当時を振り返るフジモン。
そうかぁ…じゃあ宮迫さんが僕に「お前ら数合わせ」って言ってたら僕らが獲ってた(笑)
ここでも「宮迫さんのせいですよ」w
合ってる・間違ってるとか正解・不正解とかではなく「ダウンタウンが漫才の歴史を変えた」という通説を敢えて放棄して新しい視点を導入してくれるのが面白い。
正直なところ「ナイナイが漫才の歴史に革命を起こした」というのはこの番組を好意的に見ている人でも受け入れ難いだろうw
(まぁこの番組もナイナイから漫才ブームが巻き起こったとは言っていないですね)
そしてM-1グランプリが始まるも視聴率は極端なほどの西高東低。
そこに風穴を開けたのがおぎやはぎとアンタッチャブルら関東漫才師という結論。
ここは2013年当時(M-1が開催されていなかった頃)だと歴史を振り返って整理する上で真新しさのある視点だったが、今では通説に近いかな。
ちなみに番組では最後に駆け足気味ではあるがテレビ創成期もファーストインパクトとして触れられている。
「当時の漫才の主流は音曲萬歳」だったがエンタツ・アチャコがしゃべくり漫才を生み出したという2020年の12月頃によく聞いた話もw
だからこそNHKでこの度やった『笑いの正体』はやり方次第で色々面白くなる視点があったと思うんだよなー
番組タイトルを漫才に限定していないので続編あるかもしれないし、その際は是非とも枠拡大でお願いします!