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【感想】2025年新春特番『令和ロマンの娯楽がたり』

YouTubeで公開される予定らしい未公開トークは見てない状態での感想です。

売れる最短ルート

議論の序盤で「売れるとは?」の定義の話になったのが良かった。
議論する上で言葉の共通認識を作ることは大切だ。
売れる=バイトしてない
でも「めちゃくちゃ」売れるのは超大変
ケムリが清水尋也に「エバースは売れてると思いますか?」はファン云々とか関係なく答えづらいだろと思ったけどw

そこに永野が幸福度の観点を持ち込んだのは会社員としては耳が痛いw
最近は「給料や手当が増えても多忙を嫌って管理職になりたがらない」人が増えているみたいな。
まぁ確かにオードリー若林を筆頭に「売れてテレビ出演が増えたらむしろ忙しすぎて辛くなった」と当時を振り返るエピソードトークもよく聞くもんなぁ。

お笑いコンビ・オードリーの若林正恭が、21日深夜放送のニッポン放送のラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン』(毎週土曜 25:00~27:00)にて、超多忙スケジュールで精神的に限界を迎え、収録現場から逃げ出してしまった過去を告白していた。
(中略)
2008年の『M-1グランプリ』で準優勝を果たし、大ブレイクしたオードリーは今までの生活とは一変し、ほぼ休みなく働き続けることとなった。その中でついに、若林は限界を迎えることとなったのだという。

テレビ番組でコントを撮影中、若林は「走って、一回、現場から逃げた」ことを明かした。マネージャーに止められたという若林は、「駄菓子だけ、いっぱい買わせてくれ」と不可解なことを口走ったことも語った。

https://news.mynavi.jp/article/20180428-623643/

結局M-1の影響力がデカすぎるというなかなか残酷な結論に。
賞レース至上主義の振り戻しがいつか来るかもと言われつつなかなか来ないもんですね。

それこそちょうど裏番組だった『千鳥かまいたちアワー』の一撃芸人オーディションなんかはそういう趣旨の企画ではあるのだけど、とはいえあそこからめちゃくちゃ売れる人が出るイメージは湧かないよなw

千鳥の番組なら『クセスゴ!』や『チャンスの時間』も賞レース的なものに対するカウンターではあると思う。
ただ、繰り返すがあの番組発でめちゃくちゃ売れる人が出るイメージ(以下略

考察ブーム

個人的にはこっちの方がより面白かった。

映画・ドラマ好きの間では数年前から起き始めていた考察ブームへの警鐘

脚本家の野木亜紀子も映画『ラストマイル』の公開時のラジオ出演の際にこう語っている。

この2年ぐらいですかね?
考察ブームみたいなのがあって、それを作り手側も売りにするブームみたいな。
ただ私自身の作品で広報が考察を煽り始めたら「いやいや、そういうことじゃないでしょ?」って多分止めると思うんですよ。
物を見るってそういうことじゃないんじゃない?って言っちゃったりする気がするんですけど。
作り手が「さぁ考察してください!」って何かおかしいじゃないですか(笑)
ただ、見てる人がやる分にはそれも楽しみ方の一つとして(中略)いいんじゃないかなと思います。
ただ時々「それは完全に妄想だよね…?」みたいな、ちょっと陰謀論の方に入ってるよねっていう所まで行っちゃうと「あぁ…うん」みたいなときもあるんですけど。

https://www.youtube.com/watch?v=_Haz0Yp96jw

ちょうど新春SPドラマ『スロウトレイン』の放送後にこんな投稿があってタイムリー

『THE SIGN PODCAST』でも批評家のさやわかが似た話をしていた。

ONE PIECEとかもそうで、最終的にこの物語の謎は何なのか?っていう謎解きみたいなものを、みんなすごい伏線伏線を調べて調べて「あの巻の何ページでこうやって言ってたからこうに違いない」みたいな。
考察の人たちがすごい一杯いるんですよ。
(中略)
批評は要らなくなったけど考察はめっちゃ流行ってるんですね世の中で。
これ凄い危険で、考察って要するに陰謀論みたいなことに繋がっていくんですよ。
あれは本当はこういう意味だったんだとか、実はあの人の名前はアナグラムで書き換えると既に答えは出ているのだとか、どう考えても作者が考えてないことを言い始めたりするんですね。

https://open.spotify.com/episode/4rUUzoOElLtcSHOqPIIfkc

だからこの手の議論をする際はまさに

  • 感想

  • 批評

  • 考察

の定義や区別をしないと噛み合わなそうだなぁと思っていたら、ダウ90000蓮見が「最近言われている考察は本来の辞書的な言葉の意味から外れて予想の意味」と言及してくれる。
さらに批評と考察の違いに三宅香帆が言及してくれて痒いところに手が届く。

文芸評論家の三宅香帆氏は、昭和・平成は「批評の時代」だったが、令和のいまは「考察の時代」だと指摘。

https://shuchi.php.co.jp/article/11695

そういえば元日にNHKで放送された『あたらしいテレビ2025』で小説家の麻布競馬場がこんなエピソードを話していた。

去年の夏に大学生と話す機会があって、3時間ぐらい徹底討論したんですけど、冷笑系のコンテンツを読めないという人がいて。
よくよく聞くとそれは批評が入ってるコンテンツで。時代批評とか。
優しくないコンテンツ、あるものを好きな人にとってはそれをdisられてるとか頑張ってる人を冷笑してるように見えるコンテンツって拒否反応を招く時代なんだなって。

https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2025010120793

そもそも批評と冷笑は別物(麻布競馬場ではなく彼が話した大学生の中での言葉の定義だけど)というのは一旦置いておいて

  • 批評=対象から一定距離を取る(≒客観的)

  • 考察=前のめり

なのかなと。
ちなみに『あたらしいテレビ』ではファンダムカルチャー・推し文化の話題が出てたけど『娯楽がたり』にも出てきてましたね。

この辺りのセットアップはもう少し丁寧に聞きたかった気もするが、30分の放送時間を踏まえるとさすがに厳しいのかな。
言葉の定義だけで終わっちゃうしw
あと「そもそも考察は忌むべき行為なのか?」もヌルッと行った感じ。

個人的には

  • 感想はその作品を鑑賞して感じたこと(最もカジュアル)

  • 批評は対象の価値を評する行為なので相対化(他の作品への参照や言及)が発生

  • 考察は1本の作品に閉じて思考をどこまでも巡らせる

というイメージ。
感想の「なぜそう感じたのか?」を深掘りすると批評に近付いていくが、考察は全く別の筋肉が必要な気はする。
なので自分は批評の真似事ぐらいなら出来たとしても考察は全く出来ないと思っている。

あとは「結末を知りたい」というファスト映画や倍速視聴に通じる演出軽視(撮影・編集・美術・音楽etc.)とストーリー偏重の香りを感じるから考察は苦手ってのはあるかなぁ。
画面内のあらゆる物を伏線だと疑って意味を見出す系も息苦しく感じてしまう。
「正解が絶対に存在する前提で、その正解を当てるべく頑張る」空気が苦手なのかな。
映画やドラマはクイズではないのだからと。
ミステリー作品は重なる部分あるけど。
映画なんて観てる間の2時間が楽しければ3日後にはケロッと忘れて、たまに一生好きになるような名作に出会えるくらいでいいんですよ。

「作者に影響を与えたい」は朝ドラの反省会ハッシュタグが気持ち悪すぎて考察云々以前に生理的に無理w

ちなみに永野が持ち込んだ野球が考察文化の元祖説は、ストーリーを司る人がいるわけではないスポーツ(サッカーでも競馬でも)の場合は純粋な予想の範疇なんじゃないかなと。
本来の辞書的な意味の「結果を分析する」という考察か。
(自分は理系なので学生時代の実験レポートでの「考察」のイメージが今でも強い)
サイン馬券予想は考察の一種かもだけどw

ラストはくるまが著書『漫才過剰考察』を書いた真の目的が明かされる展開へ。
ただ、あの本ってタイトルは「考察」だけど中身は「批評」だと思うんだよな。

で、プレイヤー自身による批評というのはまた別の論点に繋がっていくわけです。
ちょうど、いぬのせなか座主宰の山本浩貴が先月号のユリイカでこう語っていた。

保坂和志と高橋源一郎が中心となってゼロ年代半ばに起こった「小説のことは小説家にしかわからない」論争を思い出しますが、この二〇年間くらいは「実作者が現場について語るのが一番強い、批評家は何もわかっていない」とプレイヤーが言い、観客が頷くみたいな雰囲気がどの文化にもある。

ユリイカ2024年12月号,第56巻第14号(通巻828号),青土社,P.100

このユリイカの「お笑いと批評」特集号は非常に面白いので、お笑い好きの人が読んで損は無いと思います。

ちょうど年始の『あちこちオードリー』で伊集院光がM-1審査員について語っていたことにも繋がる。

伊集院は「M-1の審査員っていつから、こんなに漫才の人だらけになったの?」と疑問。初期の審査員は、劇作家の鴻上尚史氏、落語家の立川談志さん、放送作家から東京都知事になった青島幸男さんなど、多彩だった。

 伊集院は「M-1に出たことある人たちで、しかもM-1がちゃんとステップになった人たちが全員、審査員でいいの?すごい特殊じゃん。そういう文化って滅びない?見てる人も出てる人も、審査している人も、漫才通の人とかが『あそこ、もう1回天丼あってよかったよね』みたいな、『これは競技スタイルの漫才だから、早めにつかみの大きめの笑いを』みたいな。どんどん鋭角になっていく。滅びるよ」とマニアックな方向に行くことに心配を募らせた。

https://www.daily.co.jp/gossip/2025/01/01/0018503312.shtml

そして、売れる最短ルートは結局M-1という前半の話に回帰するわけであります。

YouTubeで公開予定の未公開トークも楽しみ。