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「天城山からの手紙 50話」

雨がやっと上がった帰り道、目の前に現れたブナのシルエットに入った一筋にラインは、また私の心を奪った。空はまだ雲で覆われ暗いのだけど、森にはそんな弱い光さえも物語の主人公にしてしまうほどの優しがあるのだ。この日、倒れたヘビブナに会いに行った。だからこそ、この情景に心を動かされたのかもしれない。無残なまでに今までの生きた時間を、一つの風が一瞬で奪ってしまう。どれだけ生き残ることにしがみ付き、どれだけの過酷な時間を過ごし生きてきたのだろう?でも終わりは突然と訪れて、永遠が瞬間となり無に還っていく。そんな心情だからこそ、何でもないこの一筋のラインに魅了された。大雨に打たれ、冷雨がしみ込んだ肌は、漆黒となり森と同化している。少しだけ曲がったラインは、すっと上に伸びていき気品高く私に語りかける。その声に誘われる様にカメラをセットし、じっくりと一番きれいなラインを探していると、気付けば私の視線は低くなり、ついには地に膝まづいていた。知らない内にまた、森の魔法にかけられ、長い夢の中へ迷い込んでいくような感覚がこの場を支配し始めと、一筋の光は、漆黒の肌を癒すように優しく優しく体を温めいるように見えたのだった。日の当たらない暗い場所に立つからこそ分かる小さな光の優しは、きっと明るく恵まれた者には見えないかのかもしれない。また一つ大切な事を森が教えてくれた。そんな瞬、同行者の遠くから私を呼ぶ声が聞こえ、何もなかったようにその場を後にした。

掲載写真 題名:「優しい光」
撮影地:戸塚峠付近
カメラ:SONY ILCE+7RM3 FE24-105F4GOSS
撮影データ:焦点距離105mm F16 SS 1/6sec ISO400 WB太陽光 モードAV
日付:2019年9月23日 AM7:11


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