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音で変わる空間 ~ピアニストが語る音環境デザインの魅力~

音楽は単なる聴覚体験ではなく、空間全体を包み込む存在だと考えています。京都タワーの展望室から広がる景色と音の関係性、そして日常生活における音環境の重要性について、私の経験と思いを皆さんにお伝えしたいと思います。音で変わる空間の魅力、一緒に探ってみませんか。


音との出会い - ピアニストとしての私の原点

私がピアノを始めたのは、30歳を過ぎてからでした。それまでは電子オルガンを学んでいましたが、大学に入ってからピアノに転向し、そこから私の音楽の世界が大きく広がっていきました。

特に印象に残っているのは、30歳手前の時の体験です。故郷である京都府の宮津市、海の京都と呼ばれる場所で育った私は、家から天橋立が見えるエリアに住んでいました。ある時、帰省して自転車に乗っている時に、両側の波の音の違いを感じたんです。そこで、今まで聴いた曲の凝縮バージョンのような感覚が湧き上がってきて、それが私の最初の曲になりました。

この体験を通じて、私はピアノや鍵盤が自分の身体の延長のような感覚を持つようになりました。言葉で話すよりも、ピアノや鍵盤で何かを表現する方が自然に感じられるようになったのです。音楽は私にとって、単なる趣味や職業を超えた、自己表現の手段そのものになっていきました。

音環境デザイナーとしての挑戦 - 京都タワーの変革

私の音環境デザイナーとしての代表的な仕事が、京都タワーの展望室の音環境デザインです。京都タワーは昔から好きで、よく通っていました。しかし、当時の展望室には課題がありました。聞こえる音がどうもネガティブな印象を与えていたのです。

当時の京都タワーの展望室はゲームセンターに近い状態になっていました。日本最高地点のゲームセンターという謳い文句は魅力的かもしれません。しかし、せっかくの絶景を楽しむには、少し騒がしすぎる環境だったのです。

そこで私は、この状況を改善するためのアイデアを提案しました。「せっかくいい風景を見る場所なのだから、視覚と聴覚の相互作用を考慮し、聴覚環境も改善する必要がある」と考えたのです。

この提案を実現するために、私は「マイナス」「ハコ」「プラス」という3つの段階を踏んで音環境をデザインしていきました。

まず「マイナス」の段階では、ネガティブに感じる音を減らす作業をしました。具体的には、ゲーム機の音を取り除くことから始めました。

次に「ハコ」の段階では、空間自体の音響特性を整えました。音は空間性、つまり物理的な影響を受けやすいのです。内装を変えることで音の響きが変わってきます。例えば、床材を変えることで足音の響き方が変わったり、壁材を工夫することで音の反射を調整したりしました。

最後に「プラス」の段階で、私の奏でるピアノの音色を加えました。京都の風景を気持ちよく感じるような隠し味としての、目立たない音楽を作ったのです。

このように、音環境デザインは単に音楽を流すだけではなく、空間全体をトータルにデザインする取り組みなのです。 この考え方は、日常生活の中でも活用できると私は考えています。

日常に活かせる音環境デザイン - 身近なところから始める工夫

私たちの日常生活の中でも、音環境デザインの考え方を取り入れることができます。手っ取り早いところとしては、「ハコ」の音デザインがおすすめです。

例えば、カーテンの使い方を工夫するだけでも、部屋の音環境は大きく変わります。カーテンはすごく音を吸収しやすいのです。室内で音が響くと感じる方は、カーテンの素材を変えたり、防音カーテンに変えたりするのが一つの方法です。

また、椅子の脚に注目するのも一つの方法です。椅子の脚の下にゴムやカーペットを付けるだけで、椅子を引きずる音が減ります。これだけでもかなり静けさが保たれますよ。

こうした小さな工夫の積み重ねが、私たちの日常の音環境を大きく変える可能性を秘めているのです。 音環境デザインは、決して特別なものではなく、一人一人が日常生活の中で実践できるものなのです。

音楽と感覚の不思議な関係 - 新しい世界の扉を開く

私の音楽活動は、通常のコンサートホールにとどまりません。町や地域という、コンサートホールではないところで演奏する機会がたくさんあります。具体的には、寺社仏閣や砂浜、竹林など、屋外での演奏も多いのです。

このような非日常的な空間での演奏は、聴く人に特別な体験をもたらします。例えば、京都タワーの展望室での演奏では、展望室から見える地上100メートルの地点からの京都の西山、北山、東山の稜線を五線譜の音符の波に見立てて即興で演奏しました。

これは、視覚と聴覚、そして想像力が融合した独特の体験です。私はこのような多感覚的な体験を大切にしています。聴覚表現は五感の一つです。他の四感からの刺激も同じ水平線上に見立てて、それを演奏に応用していくと、多感覚的な環境を作ることができるのです。

例えば、香りや味覚、触覚など、音以外の感覚も音楽表現に取り入れることができます。夏の暑い京都の湿り気なども含めて、五感というのはもっと広くあると思います。即興の一部として、聴覚やピアノの表現があるんじゃないかと私は考えています。

音楽は、単に耳で聴くものではなく、全身で感じるものだと私は考えています。 この考え方は、皆さんの音楽の楽しみ方に新しい視点を与えてくれるかもしれません。

最後に、私からのメッセージを伝えたいと思います。大事な宝物やいいものは、お金を出したり遠くに行かないと出会えないわけじゃありません。実は目の前にすでにあるんです。それに気づくか気づかないかだけのスイッチなんです。

この考え方は、音環境デザインの本質を表していると私は考えています。私たちの周りには、たくさんの音があふれています。その音に意識を向け、それをどう感じるかを考えることで、日常の風景が全く違って見えてくるかもしれません。

例えば、窓を開けて外の音に耳を傾けてみる。普段気にしていなかった冷蔵庫の音やエアコンの音に注目してみる。そうすることで、今まで気づかなかった日常の豊かさに出会えるかもしれません。

音環境デザインは、特別な技術や知識がなくても、一人一人が実践できるものです。カーテンを閉めて音楽を聴いてみる。椅子の脚にクッションを付けてみる。そんな小さな工夫から始めてみませんか?

きっと、あなたの日常に新しい「音」が加わり、生活がより豊かになるはずです。音楽は、私たちの感覚を研ぎ澄まし、日常に新しい彩りを添える力を持っています。それは「隠し味」のようなものかもしれません。

今日から、あなたも音環境デザイナーになってみませんか?きっと、今まで気づかなかった日常の宝物に出会えるはずです。音で変わる空間の魅力を、一緒に探求していきましょう。

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